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連載

#8 大河ドラマ「光る君へ」たらればさんに聞く

大河ドラマ「光る君へ」に登場、蜻蛉日記・枕草子…古典の名作に歓声

編集者たらればさんとトーク

昨年の「時代祭」のようす。京都御苑を出発する清少納言(手前右)と紫式部ら時代祭の行列=2023年10月22日、京都市上京区、新井義顕撮影
昨年の「時代祭」のようす。京都御苑を出発する清少納言(手前右)と紫式部ら時代祭の行列=2023年10月22日、京都市上京区、新井義顕撮影 出典: 朝日新聞

目次

この表現は、あの作品のあのエピソードでは…! 源氏物語の作者・紫式部を主人公とした大河ドラマ「光る君へ」。最近の放送回では、「源氏物語」のほかにも「枕草子」や「蜻蛉日記」を思い起こさせるシーンがあり、多くの平安文学ファンがSNSで歓声を上げました。編集者のたらればさんと、その魅力を語り合います。(withnews編集部・水野梓)

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この記事は、大河ドラマ「光る君へ」第14回「星落ちてなお」の放送後、4月7日にXで開催されたスペースの内容を編集して配信しています。

これから先のドラマ内で「見たい」・これまでのドラマで「見てうれしかった」という「源氏物語」の名シーンのアンケート(https://forms.gle/F1Wxm3DfGHTz3K4A6)を実施しています。締め切りは4月21日です。

枕草子のエピソード「御嶽詣」も登場

水野:清少納言(ファーストサマーウイカさん)が仕えることになる定子さま(高畑充希さん)が登場し、幼い一条天皇(柊木陽太さん)との仲のよさも描かれるなど、ますます今後の展開が楽しみになってきましたね。

たらればさん:「物語」としてギアが上がってきた感じがします。「ここから政治劇としてさらに激しくなりますから、情緒の揺れにご注意ください」というテロップが出ているのが見えるようです。
水野:最近の放送回には、清少納言のエッセイ「枕草子」のエピソードも盛り込まれていました。

たらればさん:はい、佐々木蔵之介さん演じる藤原宣孝の、派手な格好での御嶽詣(みたけもうで)ですね。

「御嶽詣は派手な格好でいかねば、神さまに見つけてもらえぬ。おおぜいの見物客がおった」といったセリフがありましたが、この時のエピソードを清少納言が書いています。

水野:厚焼き卵みたいな真っ黄色の衣装を着て、後の紫式部・まひろ(吉高由里子さん)の前で後の紫式部・まひろの前でくるっと回ってみせて、その様子を語っていた第13回のシーンですね。
たらればさん:清少納言は「枕草子」に、「宣孝という人が、すげえ派手な格好で御嶽詣に行ったそう。あの目立ち方が政治的な戦略だとしたらたいしたもんだわ」というような話を記しています(笑)。

水野:清少納言っぽい(笑)。
右衛門佐宣孝といひたる人は、「あぢきなき事なり。ただ清き衣を着て詣でむに、なでふ事かあらむ。必ずよも『あやしうて詣でよ』と、御嶽さらにのたまはじ」とて、三月つごもりに、紫のいと濃き指貫、白き襖、山吹のいみじうおどろおどろしきなど着て、隆光が主殿助なるには青色の襖、紅の衣、摺りもどろかしたる水干といふ袴を着せて、うちつづき詣でたりける

<『枕草子』一一六段「あはれなるもの」(角川ソフィア文庫『新訂 枕草子』)より当該部分を引用>
たらればさん:私の訳では、
(当時、「御嶽詣はおとなしい格好で」という風潮があったが)藤原宣孝という人は、「つまらないことだ。ここぞという時に着る服で詣でてなんの不都合があろうか。

別に必ずしも「おとなしい格好で来てね」と御嶽さまが言ったわけでもなかろうに」と言って、三月末に、とても濃い紫の指貫、白い狩襖、えらいこと派手な山吹色の着物を着て、息子の隆光には青色の狩襖、紅の衣、乱れ模様を擦り出した水干袴を着せて、二人で続いて参詣したそうです。
といった内容です。

「枕草子」ではこのあと、「周囲の人は、見慣れない奇妙な出来事に、あんな格好の人は見たことがないと、驚きあきれて噂をしていたそうだ」と続きます。

水野:「光る君へ」に派手な格好の宣孝が現れて、古典を知っている人にはたまらないシーンですね…!

たらればさん:「紫式部日記」では、清少納言のことを厳しく批判しているくだりがありますが、それはこの「枕草子」の宣孝への記述が酷かったので「仕返しなのでは」という説もあります。

けれど、改めて読むと、ここは宣孝のことを批判しているわけではないと感じます。むしろ「よくやるもんだなぁ」と褒めているニュアンス。清少納言先輩は誰かを批判する時はもっときっちりはっきり罵倒しますので、仕返し説はやや無理があるなと。

「蜻蛉日記」の和歌を口にして…

水野:直近の第14回「星落ちてなお」では、蜻蛉日記の和歌も登場しました。

とうとう床にふせった道長の父・兼家(段田安則さん)。死期を間近にした兼家の枕元に道綱母(財前直見さん)がやってくると、兼家が蜻蛉日記の歌を口にするという…。
なげきつつ ひとりぬる夜の あくるまは いかに久しき ものとかはしる

<右大将道綱母 『百人一首』53番/『拾遺和歌集』第14巻(恋四 912首目)>
たらればさん:きましたね。

水野:リスナーさんから、「日記は個人的なものではないのでしょうか。当時は、宮中でどのように蜻蛉日記が読まれていたのでしょうか」という質問がありました。

たらればさん:そもそも当時の日記は他人に読まれる前提で書かれていました。個人的という意識はほとんどなかったと思いますよ。紫式部日記も和泉式部日記も、自分ではない誰かに見せる前提で書かれています。

読まれ方は、写本などで回し読みするかたちで、今だと同人誌を回してみんなでコピーして回り回って…という状況だったと思います。

ドラマでは直接の関係は描かれていませんが、道綱母は紫式部の遠縁にあたるので、それで蜻蛉日記をまひろに見せている可能性もありますね。

水野:日記は読まれる前提で書かれているもので、それで倫子さまのサロンで「道綱母のような女性はかわいそう」などと思われていたってことですよね。

たらればさん:そうですね。「兼家が読んでいた」ということで驚いたのは、当時、男性が読むものと女性が読むものには大きな隔たりがあったからです。そりゃあ男性も読んでいたでしょうけれども、大っぴらに言うことではなかった。

男性は、和歌を詠むので仮名は書けても、主に読むのも書くのも真名、つまり漢文でした。当時「日記や物語を読む」というのは、今から数十年前の「マンガを読む」みたいな感覚だったと思います。

一方で、女性陣は日記や物語を娯楽として読んでいた。「枕草子」では「うつほ物語」の貴公子二人(藤原仲忠と源涼)のうちどちらが主人公としてふさわしいか女房仲間と議論した…なんていうシーンも描かれています。

水野:ドラマでは、かたわらにいた道綱(上地雄輔さん)が「なになに?その歌」って言っているのに笑いました(笑)。

たらればさん:母親のラブソングはあんまり聴きたくないんじゃないですかね(笑)。

でも、「紫式部日記」は娘(大弐三位)にあてて書いたという説もありますし、その中にも道長との歌の(ややきわどい)やりとりが出てきますので、「見られてもいいか」という意識はあったのかもしれません。

当時の感覚は、現代の常識や文脈では推し量れないなあと思います。
京都・廬山寺の紫式部を描いた押し絵=2024年1月、京都市上京区、筒井次郎撮影
京都・廬山寺の紫式部を描いた押し絵=2024年1月、京都市上京区、筒井次郎撮影 出典: 朝日新聞

政治的な理由で残った和歌たち

水野:「光る君へ」のまひろだと、残したくない歌は容赦なく燃やしていそうです。

たらればさん:難しいのは、当時の人が何を「残したくない」と思ったかどうかは、残っていないので分からない、ってことなんですよね。

たとえば藤原道長も紫式部も清少納言も、当時の貴族の一般常識として、わりと頻繁に歌を詠んでいたはずです。歌会にも出ているし、贈答歌ももっと交わしていたはず。

でも、そもそも1000年前の人たちなので、政治的な理由がないと残らないんですよね。

定子さまの書いたものもあまり残っていません。われわれは、「枕草子」や「栄華物語」を通してしか、定子さまの性格や姿が分からないわけです。

だから現代の視聴者であるわたしたちは、「定子さまが動いている」というだけで心が千々に乱れるわけですよ。

水野:次の回では、清少納言がついに出仕して定子さまと出会いそうですよね。

たらればさん:今回(第14回「星落ちてなお」)が西暦990年の話なので、この時点から3~4年後だと思います。正確には分かっていないんですが、数年飛ぶんだろうな、と。そうなったらそうなったで、中関白家(藤原道隆を祖とする一族)の栄耀栄華が極まり、そして大変なことが起きることになるんだろうな…と。

じれったいのは、この先、紫式部・まひろが越前へ行くのが6年後なんです。つまり、まひろの父の為時(岸谷五朗さん)はあと6年間、無職が続きます(苦笑)。

水野:お父さんの為時は、不遇の目に遭わせた兼家が亡くなっても涙してしまう、いい人だから許してほしい…。

たらればさん:為時にはもっとずるい人になってもらわないと(笑)。
たらればさん:清少納言のターンが来週からしばらく続くと思うと、嬉しいやら切ないやらの時間が毎週のように来るんだろうなと思うんですが…。

一条天皇はもう一段階の進化があって、成長した姿を演じる塩野瑛久さんがすばらしい姿を見せてくれるはずです。

水野:予告では、笛を吹く姿で登場されていましたね!

たらればさん:笛の名手だったと言われる一条帝は、漢詩も和歌も得意で、字もきれいでスーパースターだったと言われているので…それこそ情緒が乱れます…。
水野:楽しみですが、(主にたらればさんが)どうなるかどうか…。とはいえ、こんな風に国語で習った古典作品が登場すると、ますます平安文学に親しみがわきますね。

たらればさん:気が抜けないなー!!というのがオタクの心境です(笑)。

「紫式部が大河ドラマの主人公になる」という時点で「源氏物語や紫式部日記の記述が映像化されるんだろうな」という覚悟があったんですが、前回のエピソードにより今後「枕草子」の記述もたくさん映像化されるのかも…という期待? 不安?? よくわからない感情がものすごい勢いで続々と湧き上がっています。

なにしろ(「枕草子」の)雪山作りや香炉峰のシーンが登場するかもしれないんですよ。あぁ、どうなってしまうのか…(主にわたしの心が)。みなさん、また1週間、生き延びていきましょう。
<アンケートご協力のお願い>
大河ドラマ「光る君へ」には、これまで(~第14回)も、これからも、「源氏物語」のオマージュだと思われるシーンがいくつか登場してきました。

そこで、これから先のドラマ内で「見たい」、またはこれまでのドラマで「見てうれしかった」という「源氏物語」の名シーンを教えてください。

「このシーンをなんとか柄本さんや町田さんで」、「このキャラの振る舞いをぜひ吉高さんや黒木さんで」という熱い思いを、ぜひお待ちしております。
https://forms.gle/F1Wxm3DfGHTz3K4A6

締め切りは4月21日です。結果は次回のスペース(5月5日21時~開催予定)で、編集者・たらればさん(@tarareba722)とともに発表します。
◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。
次回のたらればさんとのスペースは、5月5日21時~に開催します。

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