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お金と仕事

元Jリーガーがなぜ自炊料理? 競技を突き詰めた結果の「レシピ本」

元Jリーガーの小泉勇人さんは2022年に引退後、法人団体を3社設立した=本人提供
元Jリーガーの小泉勇人さんは2022年に引退後、法人団体を3社設立した=本人提供

目次

自炊料理をSNSで発信し、レシピ本を3冊出版するまでに至った元Jリーガーの小泉勇人さん(28)。30万フォロワーを擁し、順風満帆にみえる引退後のキャリアですが、「サッカー選手としての自分の価値」に思い悩みながらも競技を突き詰めた時期が大切だったと振り返ります。これまでの〝泥臭い〟道のりを聞きました。(ライター・小野ヒデコ)

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小泉勇人(こいずみ・ゆうと)
1995年、茨城県生まれ。高校時代に鹿島アントラーズのユース選手として活動し、2014年にトップチームに昇格。水戸ホーリーホック、グルージャ盛岡、ザスパクサツ群馬、ヴァンフォーレ甲府を経て、2022年に現役を引退。2021年にインスタグラムで自炊アカウントを開設。著書に『元プロサッカー選手が教える いくら食べても太らない罪悪感ゼロごはん』(宝島社)、『健康美やせ! カスタム献立 組み合わせれば勝手にやせる! 元Jリーガーのリアル自炊記録』(光文社)、『健康志向なズボラさんに贈る! 高たんぱく低糖質の太らないレンチンごはん』(KADOKAWA)。2023年にアパレルブランド「en’slife」、食を軸にアスリートを支援する「一般社団法人dency」などを設立。
 

競技を突き詰めようと始めた自炊

2022年に現役を引退した元Jリーガーの小泉勇人さん。身長193センチという恵まれた体格をいかしたGK(ゴールキーパー)でした。

プロサッカー選手になった時から、目標は日本代表になってワールドカップに出場すること。そのためには「自分の体を整えることが大事」だと考え、2020年から自炊を始め、徐々にその料理の写真をインスタグラムに投稿し始めました。

2021年4月、インスタグラムで自炊アカウントを開設した当時の投稿=本人提供
2021年4月、インスタグラムで自炊アカウントを開設した当時の投稿=本人提供

「なかなかサッカーで結果を出せない日々もあって、引退後に新卒で働き始めた同級生たちと同じレベルで仕事ができるのか、という焦りやジレンマを感じたこともありました」と語ります。

それでも「立ち止まることは競技人生にとってマイナスになります。競技を突き詰めることが大事だと考えていたので、不安に打ち勝とうと意識していました」と話します。

大事なシーズン初めにコロナ陽性に…

転機が訪れたのは2022年のシーズン開幕直前、新型コロナウイルスに感染してしまった時でした。年間を通してスタメンが変わらないGKにとっては、特に開幕戦が大事だったといいます。

「全力でキャンプに挑み、食生活を整えて、ベストコンディションでシーズンに入れる状態でした。でも、開幕直前にチームで(コロナの)クラスターが発生し、僕も陽性になってしまって……。これまでの努力がすべて水の泡になった気がしました」

練習に出られない3週間の間も、コンディションが落ち、どんどんネガティブ思考に陥っていったと振り返ります。

「この時ふと、料理や食事の発信を自分の使命としてやっていくタイミングなのかなと思いました。総額100万円以上かけて、家具を一新して部屋をDIYして、撮影映えする環境に整えました」

2024年にインスタグラムに投稿した自炊写真=本人提供
2024年にインスタグラムに投稿した自炊写真=本人提供

インスタグラムでの自炊料理の投稿を本格的にスタートさせるのと並行して、栄養・解剖学・行動心理学・色彩などにまつわる資格を取得していった小泉さん。

「2、3個を同時進行で受講して、ひとつ資格が取れたら新たなものを受講する……というサイクルでした。結果的に10個ほどの資格を取得しました。当時は勉強とSNS発信以外の時間をすべてサッカーに捧げる生活を送っていました」と振り返ります。

SNSには、スポーツをしている小中高生の親やコーチからも感謝の声が届くようになり、「サッカーを極めるために勉強した食や心理学の知識が、人の役に立つ」ことを知ったといいます。

「サッカー選手としては出場機会も少なく、長年自分の価値を見出せずにいました。でも、食の分野でサッカー選手としての価値を見出だせたことが、喜びに変わっていきました」

Jリーガー時代の小泉さん=本人提供
Jリーガー時代の小泉さん=本人提供

当初は「なんだあいつ」といった周囲の反応だったそうですが、半年ほどでフォロワー数が3万人になった頃、「あいつはすごい」と見られ方が変わったことを感じたといいます。

「あの時コロナになったからこそ、腹をくくって、周りに何と思われようと、自分は食に精通したJリーガーだという信念を持って発信できました」

サッカー以外にも「広い世界がある」

サッカーとSNS発信、そのための勉強を続けることで、「人生はサッカーだけではなく、もっと広い世界がある」と知ったそうです。

「最初は“点”だった知識が、つながって線になり、その線が面になり……。もっと広い視点で、自分や世界を俯瞰して見られるようになりました」

人間関係や立ち居振る舞い、言葉遣いも自然と変わっていきました。

「アスリートは、できないことにどう向き合って、どう改善していくかが必要です。それと同じことをやり続けただけですが、僕みたいに突き詰めて行動する人はそういないと自負しています」

SNSでの認知度の高まりに比例して批判的なコメントも届くこともありますが、「マイナスのエネルギーに力を吸い取られるのがもったいない。自分の思いを、一貫性を持って伝えていくことを大切にしています」と小泉さん=本人提供
SNSでの認知度の高まりに比例して批判的なコメントも届くこともありますが、「マイナスのエネルギーに力を吸い取られるのがもったいない。自分の思いを、一貫性を持って伝えていくことを大切にしています」と小泉さん=本人提供

これまで「1日1個、レシピ開発をする」という目標を自身に課し、今ではレパートリー数は800個を超えるそうです。

「サッカーは相手がいるので予測不可能な面があるのですが、レシピ作りは、外的要因に左右されません。レシピ作りを難しいと思ったことは一度もないですね」

引退後も活躍、ロールモデルになりたい

引退を決めたのは2022年のシーズン終わりでした。

「改めて自分を俯瞰した時、競技にすべての時間をかけてフルコミットしている人間にはかなわないと思ってしまった」と思い返します。

競技とSNSを全力で両立させることは厳しいと感じ始め、「サッカーを引退した後も活躍している姿を見せることで、将来に不安を感じているアスリートやその親御さんが希望を見出せるロールモデルになることが僕の価値なのでは、と思うようになりました」と話します。

小泉さんは、動画の撮影や編集も独学で習得した=本人提供
小泉さんは、動画の撮影や編集も独学で習得した=本人提供

小泉さんのSNSには、アスリートのキャリアに関する相談も届くそうです。

「『セカンドキャリアが不安だから何か始めてみようかな』という選手はたくさんいます。でも僕は、アスリートはスポーツを突き詰めることがまず何よりも大事だと思っています」

その過程で、生活習慣を見直したり、どうしたら応援される選手になれるのかを意識したりすることが、「『その人にしかない価値やセンス』になり、今後の仕事や収入につながってくるのではないでしょうか」と語気を強めます。

人から喜んでもらったり、誰かの力になったりする活動を続け、「元アスリートで活躍している人といえば小泉勇人と言われるようになって、アスリートの地位を向上させたい」と語る小泉さん。「食を起点に将来のアスリートを応援していきたいです」と話す声には、自信がにじみ出ています。

取材を終えて

SNSの投稿で、苦労やしんどさを見せず、引退後にビジネスで成功し、悠々自適に暮らす「きらきら感」を敢えて演出している小泉さん。その意図は、アスリートのセカンドキャリアに希望を持ってほしいとの思いがあるといいます。

自信に満ちあふれる姿の背景には、人一倍、時間とお金を投資して、努力をしてきた道のりがありました。「ローマは一日にして成らず」ではないですが、競技を突き詰め、汗、水、涙を流し、もがきながらも行動をし続けた結果、小泉さんの今があると感じました。

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