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「自民党から呼び出し」「仕方なく東大」…マウンティングの沼を分析

「自民党から呼び出しくらって…」といったマウンティングを紹介する『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)より
「自民党から呼び出しくらって…」といったマウンティングを紹介する『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)より

目次

「自民党から呼び出しをくらって…」「その日はあいにくのニューヨーク出張で…」。他者と差別化しようとして、ついついやってしまう〝マウンティング〟。そんなマウンティングに正面から向き合ったのが『人生が整うマウンティング大全』です。豊富な事例を収録するだけでなく、マウンティングを活用する術まで説いているこの本。筆者に話を聞いてみました。(奥山晶二郎)

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「執筆は必然の流れでした」

待ち合わせ場所に現れた、『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)筆者のマウンティングポリスさん。マウンティングという人の機微に触れるテーマを扱っているからなのか、警戒心を抱かせない温和な雰囲気が印象的だ。

なぜ、このようなユニークな書籍を刊行することになったのか。マウンティングポリスさんは「本を書くのは必然の流れでした」と、穏やかな表情のまま話しはじめた。

<もともと音大志望でしたが、親に言われて仕方なく東大を受験することにしたんです>
<もともと音大志望でしたが、親に言われて仕方なく東大を受験することにしたんです> 出典: 『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)

「SNSが社会を覆いつくす現代において、他者と自分を差別化したいというマウンティング欲求が顕在化し肥大化もしています。日々、飛び交うSNSの投稿によって、それらがこんなにも可視化されているのだから、自分のようなマウンティングを分析する人間が現れるのはある意味、必然で自然のことではないでしょうか」

話題を集めた自民党呼び出し

『マウンティング大全』には、他者との差別化をはかりたいと思う人たちが繰り出してきたマウンティングの事例が豊富に紹介されている。

マウンティングポリスさんによると、中でも評判がよかったのが「虎の威を借る」というジャンルにおさめられたマウンティングだ。

<申し訳ありません、自民党から呼び出しをくらってしまいまして、お先に失礼させていただきます>

自分が政権与党である自民党から必要とされていることを伝えつつ、具体的な事象を明らかにしない。それでも、自分が特別な立場であることをアピールできるフレーズとして、反響が大きかったという。
<申し訳ありません、自民党から呼び出しをくらってしまいまして、お先に失礼させていただきます>
<申し訳ありません、自民党から呼び出しをくらってしまいまして、お先に失礼させていただきます> 出典: 『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)
マウンティングポリスさんが意外だったのが、「インド」と「屋久島」にまつわるマウンティングに反応する人が多かったこと。

<実際に経験しないとわからないと思うけど、一度、インドに行ってみるといいよ。人生観が根本的に変わると思うから>

<屋久島の縄文杉を見た時、自分のちっぽけさに気づいて、会社を辞めることを決意したんです>


マウンティングポリスさんは、二つのマウンティングが人気だった理由についてこう話す。

「同じ『達観系』でもお金もうけに懐疑的な姿勢を強調する『俗世解脱系』はそこまで反応が大きくありませんでした。インド・屋久島マウンティングとの違いは、どこにあるのか。具体的な地名がもたらす説得力か、自分でもできなくはないと思わせるお手軽感なのか、実に興味深い結果となりました」

うれしいマウンティングの輪

『マウンティング大全』には、ビジネスにおけるマウンティングだけでなく、ワインや古典、茶道といった伝統文化にまつわるマウンティングも収録されているが、どうやってここまで幅広いマウンティングを集めたのか。

「SNSで常にマウンティング関連情報を発信していると、自然と入ってくるんですよ。因果応報です」

実際、「X」のアカウント「@mountingpolice」で、積極的に最新のマウンティング事例を紹介してきたマウンティングポリスさん。最近では、『マウンティング大全』の感想とともに、新たなマウンティング事例を教えてもらうことも少なくないという。

たとえば、「企業弁護士」を名乗るアカウントからは、弁護士業界のマウンティングとして「Webサイト作ってないアピールとかも欲しかった」というコメントが寄せられた。

「出版をきっかけに、マウンティングの輪が広がるという、うれしい流れが生まれています」

今後も、マウンティングポリスさんは、マウンティングの連鎖を引き起こすべく、SNS発信に力を入れていくという。
<趣味は読書で基本的には古典をよく読みます。ビジネス書ですか?普段はほとんどよみませんね>
<趣味は読書で基本的には古典をよく読みます。ビジネス書ですか?普段はほとんどよみませんね> 出典: 『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)

リベラルアーツとしての価値

執筆にあたってマウンティングポリスさんが意識したのは、近年、進化がめざましいAIの存在だったという。

「AIがこれまで人間がやってきたことを代行するようになる中、人間らしさってどこにあるのか考えた時、その一つはマウンティングじゃないかと思いました。AIができないこと、苦手なことを解像度高く理解する。これはビジネスに関わる人間にとって競争優位になる重要な視点だと考えます」

『マウンティング大全』がユニークなのが、マウンティングの事例紹介にとどまらず、マウンティングの活用術にも焦点を当てていることだ。

出典: 『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)

事例紹介だけに終わらせなかったことについて、マウンティングポリスさんは「リベラルアーツとしてマウンティングを理解してもらいたかった」と語る。

「マウンティングは単なるおもしろコンテンツとして消費されるものではありません。マウンティングを学ぶことを、自分をアップグレードさせるきっかけにしてほしいと考えました」

もともと「天邪鬼な性格」だというマウンティングポリスさん。

「一般的にネガティブにとらえられがちなマウンティングですが、それをポジティブな視点で見てみる。そんな発想の転換があった方が、マウンティングに親しみを持ってもらえると考えました」と明かす。

マウンティングをさせる力

マウンティングポリスさんは「マウンティング〝させる〟力」が大切だと紹介する。

自分がマウンティングをするのではなく、相手に気持ちよくマウンティングしてもらうことで、円滑なコミュニケーションを実現できると説く。

根底にある思いは、『マウンティング大全』の帯のメッセージに記されている。

<マウンティング欲求からは自由になれないがマウンティング競争からは自由になれる>

「マウンティングを自分のものにすることで人間関係がスムーズになる。それは確実に現場の生産性を向上させます」
<申し訳ありません、その日はあいにくのニューヨーク出張でして、同窓会に参加することはできません>
<申し訳ありません、その日はあいにくのニューヨーク出張でして、同窓会に参加することはできません> 出典: 『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)
さらに、「いいマウンティングは相手への尊敬の念が入っている」とも強調する。例として挙げたのがこちらのマウンティングだ。

<音楽の道を目指したこともあったが、レベッカの演奏を聴いてコンサルになった>

「こんな風に相手を立てつつ、マウンティングができるようになれたら、最高だと思いませんか?」

『マウンティング大全』では「武器としてのマウンティング術」として、相手の発言に対して「まさに○○さんの仰る通りでして……」と、「共感」の気持ちを表したり、「門外漢なもので大変恐縮ですが……」と、「謙遜」のスタンスで会話をスムーズに進めたりする技術が紹介されている。

〝痛い〟マウンティング

今後のマウンティングはどうなっていくのか。マウンティングポリスさんが注目するのが「サステナビリティ」と「マウンティング」の融合だ。

「現在、アメリカで広まっているのが、『資金調達をあえてしない』マウンティングです。成長企業と目されることを自慢するのではなく、投資家に左右されない自分らしさを大事にする。あるいは、それができる立場にあることをマウンティングする。同じように、社員数の少なさを強調するなど、社員がいないことをマウンティングするケースもあります。これらは、規模の大きさだけを正解としない、持続可能性を重視するサスティナビリティー社会の価値観を反映したものだと思われます」

ビジネスシーンにおけるマウンティングにおいて「アメリカのブランドは健在」だというマウンティングポリスさん。

「たとえばニューヨークは、留学時代の思い出から、駐在経験、急な出張にいたるまで揺るぎないものがあります」

今後のマウンティングの未来について考える上でもアメリカにまつわる国際情勢は重要だという。

「このまま、アメリカ一強が続くのか。中国の存在感は常にマークしておかなければいけませんし、エンタメ業界の流れから韓国を絡めたマウンティングが広まる可能性は十分あります」

取材の最後、マウンティングポリスさんはあえて『マウンティング大全』に収録しなかったマウンティングについて教えてくれた。

それは人の不幸にからむこと。

「有名人が亡くなった直後、生前、どれだけ親しくしていたかをアピールする投稿が散見されます。あるいは、『9.11』に合わせて、当時、ニューヨークで手がけていた仕事を振り返る。これはいけません。マウンティングは、社会的動物である人間がコミュニケーションを円滑にするための道具であるべきなのに、それを阻害する〝痛い投稿〟になってしまう。Facebookで、過去の投稿を振り返るメッセージが現れたら、すぐに食いつかず、一度、落ち着いてみることをおすすめします」

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