IT・科学
「自民党から呼び出し」「仕方なく東大」…マウンティングの沼を分析
「自民党から呼び出しをくらって…」「その日はあいにくのニューヨーク出張で…」。他者と差別化しようとして、ついついやってしまう〝マウンティング〟。そんなマウンティングに正面から向き合ったのが『人生が整うマウンティング大全』です。豊富な事例を収録するだけでなく、マウンティングを活用する術まで説いているこの本。筆者に話を聞いてみました。(奥山晶二郎)
待ち合わせ場所に現れた、『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)筆者のマウンティングポリスさん。マウンティングという人の機微に触れるテーマを扱っているからなのか、警戒心を抱かせない温和な雰囲気が印象的だ。
なぜ、このようなユニークな書籍を刊行することになったのか。マウンティングポリスさんは「本を書くのは必然の流れでした」と、穏やかな表情のまま話しはじめた。
「SNSが社会を覆いつくす現代において、他者と自分を差別化したいというマウンティング欲求が顕在化し肥大化もしています。日々、飛び交うSNSの投稿によって、それらがこんなにも可視化されているのだから、自分のようなマウンティングを分析する人間が現れるのはある意味、必然で自然のことではないでしょうか」
執筆にあたってマウンティングポリスさんが意識したのは、近年、進化がめざましいAIの存在だったという。
「AIがこれまで人間がやってきたことを代行するようになる中、人間らしさってどこにあるのか考えた時、その一つはマウンティングじゃないかと思いました。AIができないこと、苦手なことを解像度高く理解する。これはビジネスに関わる人間にとって競争優位になる重要な視点だと考えます」
『マウンティング大全』がユニークなのが、マウンティングの事例紹介にとどまらず、マウンティングの活用術にも焦点を当てていることだ。
事例紹介だけに終わらせなかったことについて、マウンティングポリスさんは「リベラルアーツとしてマウンティングを理解してもらいたかった」と語る。
「マウンティングは単なるおもしろコンテンツとして消費されるものではありません。マウンティングを学ぶことを、自分をアップグレードさせるきっかけにしてほしいと考えました」
もともと「天邪鬼な性格」だというマウンティングポリスさん。
「一般的にネガティブにとらえられがちなマウンティングですが、それをポジティブな視点で見てみる。そんな発想の転換があった方が、マウンティングに親しみを持ってもらえると考えました」と明かす。
今後のマウンティングはどうなっていくのか。マウンティングポリスさんが注目するのが「サステナビリティ」と「マウンティング」の融合だ。
「現在、アメリカで広まっているのが、『資金調達をあえてしない』マウンティングです。成長企業と目されることを自慢するのではなく、投資家に左右されない自分らしさを大事にする。あるいは、それができる立場にあることをマウンティングする。同じように、社員数の少なさを強調するなど、社員がいないことをマウンティングするケースもあります。これらは、規模の大きさだけを正解としない、持続可能性を重視するサスティナビリティー社会の価値観を反映したものだと思われます」
ビジネスシーンにおけるマウンティングにおいて「アメリカのブランドは健在」だというマウンティングポリスさん。
「たとえばニューヨークは、留学時代の思い出から、駐在経験、急な出張にいたるまで揺るぎないものがあります」
今後のマウンティングの未来について考える上でもアメリカにまつわる国際情勢は重要だという。
「このまま、アメリカ一強が続くのか。中国の存在感は常にマークしておかなければいけませんし、エンタメ業界の流れから韓国を絡めたマウンティングが広まる可能性は十分あります」
取材の最後、マウンティングポリスさんはあえて『マウンティング大全』に収録しなかったマウンティングについて教えてくれた。
それは人の不幸にからむこと。
「有名人が亡くなった直後、生前、どれだけ親しくしていたかをアピールする投稿が散見されます。あるいは、『9.11』に合わせて、当時、ニューヨークで手がけていた仕事を振り返る。これはいけません。マウンティングは、社会的動物である人間がコミュニケーションを円滑にするための道具であるべきなのに、それを阻害する〝痛い投稿〟になってしまう。Facebookで、過去の投稿を振り返るメッセージが現れたら、すぐに食いつかず、一度、落ち着いてみることをおすすめします」
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