連載
#21 #令和の専業主婦
夫の転勤でインドへ帯同…「駐妻」を襲った不安 現地就職のリアル
いざ就職活動を始めると「思った以上に求人は多かった」。
働いていた会社を辞めてパートナーの海外転勤に帯同した女性。まず1カ月を過ごしてみて「将来が不安になった」と振り返ります。そこで、現地での就職を決意しますが――。休職したり専業主婦になったりする「駐妻」もいるなかで、現地就職を選んだ思いを聞きました。
女性は昨年5月からインドに住んでいます。大学卒業後から6年間、物流会社で働いていましたが、結婚2カ月のタイミングでパートナーがインド転勤を打診されました。
「新婚の時期に離れて暮らしたら後々の関係性に響くのではないかと思い、帯同する決意は固かったです」と当時を振り返ります。
一方で迷ったのは、自身の仕事をどうするか、です。
勤務先には休職を願い出ましたが、「海外に行くパートナーに帯同するために休職する制度がない」と断られたといいます。「退社後の一定期間内であれば復職できる制度があり、それを勧められたのですが、どのくらいの期間休むことになるか見通しがつかなかったので、その制度は諦めた」といいます。
退職して「無職」の状態でインドに引っ越した女性。
物流会社では海外赴任を希望していたこともあり「海外に行けるのはよかった」と前向きに渡航した5月。ただ、5月のインドは猛暑の時期。連日40℃前後の酷暑で、公共交通機関が少ない地域に住んでいたこともあり、外出機会が極端に少なかったといいます。
「まず1カ月を過ごしてみて、将来が不安になりました」
周囲の海外赴任に帯同している日本人女性は、元の会社を休職中で「戻る場所」があったり、子育てをしていたり……「私にはどちらもなかった」と話します。
その不安感から、現地で就職しようと考えた女性。
働けるようになった場合、帯同ビザを就労できるビザに切り替える必要はありましたが、まずは面接を受け始めたといいます。
ビジネスに特化したSNS「linkedin」に登録し、自身のキャリアを開示して、興味のある求人には「ひたすら『いいね』していた」日々。ある日、ある企業から選考のお知らせが届いたといいます。
「それまでは腰の重いところもありましたが、メッセージをもらったことで本腰を入れ始めました」
6社の選考を受け、最終的に日系企業の経理の仕事を得ました。
その後、一時帰国し、ビザを就労のためのビザに切り替え、昨年12月からは正社員として働き始めました。
現地で就職するイメージは持っていなかった女性ですが、いざ就職活動を始めると、思った以上に求人は多かったといいます。
「夫の帰宅前には帰れるようにという就業時間の条件を付けての就活でしたが、それでも選択肢がありました」
他方、不安要素としてあったのが、パートナーの企業側の制約です。
女性が現地の日本人コミュニティーの中で就職についてリサーチすると、帯同家族の就労を禁止している企業もあることを知りました。
パートナーの勤務先にその点を確認すると、「駐在員のパートナーの就業の自由を奪う権利はない」と回答があったといいます。そして、それまで就業規則になかった「家族の就労」についての項目を書き加えてくれたのだそう。
「夫の会社がそう言ってくれたことで、就職活動をがんばることができた」と話します。
現地で働き始めて3カ月ほど。パートナーからは「生き生きしている」と言われたそうです。
「仕事をしていなかった半年は、『夫のお金に頼って生きていた』という負い目があった」。食品など、二人で使うものの出費は気になりませんでしたが、化粧品など女性一人で使うものを買うときに、その気持ちは強まったと話します。
いまは、自らも生活費を負担している実感があることに加え、「働き出してからは毎日が過ぎるのが早くなった」と充実感を覚えています。
「帯同先で就職した人は私だけではありません。そんな事例があると知ってもらい、パートナー側の企業にも理解してほしい」と女性は話します。
家族の帯同先での就業を制限する規則のある企業側にはこう苦言を呈します。
「やむを得ない事情はあるのかも知れませんが、将来的なことを考えれば、(帯同時に会社から支給される)家族手当を盾にパートナーのキャリアを閉ざしてしまうのはどうなんでしょうか」
「みんなが色んな選択肢を持てる社会であってほしいです」
帰国後の働き方については具体的にはまだ考えていませんが「インドでの就職経験も生かして、転職活動をがんばってみようかな」と話していました。
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