連載
#28 イーハトーブの空を見上げて
ひもでつるし一晩、凍らせて…厳しい寒さがおいしくさせる「干し餅」
雪深い山奥の軒先に、真っ白な「干し餅」が揺れている。
岩手県遠野市の農業・藤田和子さん(78)の古民家を訪ねると、微笑みながら干し餅の作り方を教えてくれた。
干し餅は遠野地方に伝わる伝統食品。
1月中旬に餅をつき、形を整えた後、寒さの厳しいときに外に出して一晩凍らせる。
その後、紙に包んで、3月中旬まで寒気にさらして乾燥させる。
炭火であぶっておやつ代わりに食される。
「遠野は寒いでしょ」とにっこりと笑って藤田さんが言う。
「その寒さがお餅をおいしくしてくれるの」
昔は寒いときにつくるので「寒餅」とも言った。
取材後、軒先でお茶をのみながら世間話をした。
「人生で一番楽しかったことは何ですか?」と尋ねると、藤田さんは教えてくれた。
「孫が高校生の時に、お弁当を持ってハンドボールの試合を見に行ったことね」
その孫も今は県内の銀行員。昔は干し餅が大好物だったという。
「孫にもう一度、干し餅を食べに来てほしいなあ」
素晴らしい人生とは何か。
おばあちゃんはおそらく、その答えを知っている。
(2022年2月取材)
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