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「R-1」街裏ぴんく王者の理由 常連ファイナリスト語る〝重み〟

エントリー数が過去最多の5457人となった今大会の特徴は。※画像はイメージ
エントリー数が過去最多の5457人となった今大会の特徴は。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

3月9日、ピン芸日本一を決める『R-1グランプリ』(カンテレ/フジテレビ系)決勝が放送され、漫談家・街裏ぴんくが22代目王者に輝いた。今年のエントリー数は過去最多の5457人。熾烈な争いとなった今大会の特徴はどこにあるのか。上位3組を中心に振り返る。(ライター・鈴木旭)
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「芸歴10年以内」が撤廃

対戦方式の変更、視聴者投票の有無など、定期的に何かとルールが修正される『R-1グランプリ』。第22回目となる今大会も、昨年と比べて細かな変更が少なくなかった。

大きなところでは、2021年から始まったエントリー資格「芸歴10年以内」(アマチュアは参加10回目以内)が撤廃されたことだ。このことで、かつて決勝を沸かせたファイナリストの多くが今大会の準決勝へと勝ち進んだ。

続いて、ファイナリストの人数とネタの制限時間の変更。今年から敗者復活戦が廃止されたものの、決勝メンバーは8名から9名に増加。ネタ時間は2012年から長らく3分だったが、今年から4分に延長されている。

加えて、ファイナルステージ進出枠が上位2名から3名に変更。こうした影響からだろう、放送時間も例年の2時間から2時間半に拡大された。

対戦方式は2021年から変わらず、獲得した得点の高さで競い合う総当たり戦。審査員の5名(陣内智則、バカリズム、小籔千豊、マヂカルラブリー・野田クリスタル、ハリウッドザコシショウ)も2022年から3年連続で同じ顔触れだ。

そんな中、決勝に駒を進めたのが、真輝志、ルシファー吉岡、街裏ぴんく、kento fukaya、寺田寛明、サツマカワRPG、吉住、トンツカタンお抹茶、どくさいスイッチ企画の9名。コント、漫談、歌ネタ、進化したフリップ芸とバラエティーに富んだ芸風が出揃った。

序盤から予想以上の高得点で始まった今大会は、例年と何が違ったのか。上位3組を中心に振り返ってみたい。
 

巧みさが光ったルシファー吉岡

今大会3位となったのがルシファー吉岡だ。1stステージのネタ順は2番手ながら475点のトップ通過。この勢いのまま優勝かと思われたが、残念ながらファイナルステージで結果を残すことができなかった。

披露した2本ともに会場を沸かせたが、やはり印象に残ったのは1本目のネタだ。

婚活パーティーに参加した戦原(そよぎはら)は、順繰りで入れ替わる女性に挨拶を交わしていく。ただ、女性たちは軒並みシステムを理解しておらず、「違います。今これは自己紹介タイムというやつで……」と戦原が説明するたび制限時間のチャイムが鳴ってしまう。

堪らず席を立ち、イベントの担当者に「ルール説明に追われています」と訴える戦原。「今この婚活パーティーは私以前、私以後に分かれている」との名言も飛び出す中、ようやく目の前の女性と笑い話ができて戦原は表情を緩める。しかし、やはり最後はルール説明となるラストが何とも滑稽だった。

せっかくの出会いのチャンスが説明のみで終わってしまう。その焦燥感とイライラが伝わってくるのと同時に、ようやく女性と打ち解けられた瞬間のかわいげに思わず笑ってしまう。キャラクター性と展開が巧みな良質なコントだった。

2本目の「騒音でクレームをつけにきたと思いきや、実は男女関係の展開を楽しみに盗み聞きしていたアパートの隣人」を演じたコントも安定した笑いを生んだが、1本目と比べると新鮮さに欠けたのかもしれない。

とはいえ、出場資格が得られなかった2021年~23年を除けば、6大会連続のファイナリストだ。その実力は十分に伝わったのではないだろうか。
 

独自の世界が評価された吉住

惜しくも2位となったのが、女性芸人唯一のファイナリスト吉住だ。1stステージで470点と3位につけ、ファイナルステージで審査員5名のうち2票を獲得。接戦の末、優勝を逃した。

ルシファー吉岡と同じく、印象的だったのは1本目のネタだ。デモ終わりの女性が交際相手の実家に「絶対に許さない」と書かれたプラカードを持って訪問。もちろん婚約者の両親は結婚に反対するが、「私、自分の意見押し通すプロなんですよ」と女性は笑顔で圧力をかける。

突如、窓ガラスを割って投入された火炎瓶。その中に「結婚を認めろ」とのメッセージがあり、デモ仲間が近くに集結していることに気付く。女性が拡声器を手に「上がってこい! 今から座り込みすっぞ」と仲間を呼ぶと、やむなく相手の両親が意見を翻す。最後は「もっと骨のある奴らかと思ってました」と言い放つブラックなコントだった。

「結婚の挨拶」という状況設定と「デモに参加する女性」というキャラクターの組み合わせが妙な緊迫感を生んでいる。婚約者から服のシミを指摘され、「これ私の血じゃない」と答えたりする細かい描写もリアルで、見る者はいつの間にか特異な状況に吸い込まれていく。

テーマ設定に視聴者の賛否は分かれたようだが、審査員のバカリズムが「ほかの方がやってもここまで面白くできない」と称賛していた通り、吉住にしかできない世界が広がっていた。2本目のネタ「偶然にも彼氏の職場で窃盗事件が起き、隙を見てイチャイチャしようとするも浮気が発覚し態度が豹変する女性鑑識官」が評価されたのも、その点が際立っていたからだろう。

お笑い芸人としてだけでなく、女優、脚本家など活動の幅を広げている吉住。今後もその経験を生かして、独自のコントを生んでいくことだろう。来年の大会で、ぜひリベンジを果たしてほしい。
 

熱量の高さで勝利した街裏ぴんく

並みいる猛者たちを抑え、王者の座を射止めたのが街裏ぴんくだ。1stステージでは3番手で登場し、471点の高得点をマーク。ファイナルステージでは、ありったけの熱量をぶつけ、タッチの差で勝利を引き寄せた。

街裏ぴんくは、今大会で唯一の漫談家だ。どのファイナリストとも被っていないというアドバンテージこそあったが、“架空の世界を実体験のように話す”という特異なスタイルがどこまで受け入れられるのかは未知数だった。

そんな中で1本目に披露したのは、「ダイエットのため温水プールで泳いでいると、それを邪魔する歌人・石川啄木に出くわした」というもの。同じく歌人の正岡子規も登場し、啄木と取っ組み合いのケンカに発展する。

その間に「森鴎外がどうのこうの言うてました」との小ネタも挟みつつ、プールサイドで積み上がったビート板と会話するキュリー夫人を描写。まさかの「聞き役だった」と語って笑わせるなど、言いたい放題の漫談だった。

続く2本目でも、「実はモーニング娘。の初期メンバーとしてデビューする予定だった」という偽りのエピソードをリアルに振り返っていく。「1人では心もとない」とつんく♂がアラビア半島から呼び寄せたプロデューサーに気に入られたが、当然1人だけ毛色が違うことからデビューは頓挫。グループに入っていれば歴史は変わっていたと聴衆に訴えるものだ。

かねて街裏ぴんくは、芸人や業界関係者から評価が高かった。2017年7月に放送された『冗談手帖』(BSフジ)においても、Aマッソ・加納は「漫才、コント、ピンネタ、全部合わせて今一番面白い」と語り、司会を務める放送作家・鈴木おさむは「この番組を始めて面白い人たちとたくさん出会いましたけど、面白さは今まででナンバーワン」と絶賛している。

とはいえ、それからチャンスを掴むまでにはだいぶ時間が掛かった。芸歴20年で日の目を浴びた苦労人は、今大会の誰よりも熱量高く全身から声を絞り出すようにして大嘘をついた。審査員の小籔、野田クリスタル、ザコシショウは、その姿に心奪われたに違いない。
 

来年もじっくりと見られる舞台を

そのほか、真輝志はナレーションに翻弄されながら思わぬ方向へと展開するネタ、どくさいスイッチ企画は未確認生物ツチノコを巡る壮大な物語で笑わせた。

サツマカワRPGは防犯ブザーにまつわるブラックなネタ、kento fukayaはマッチングアプリをモチーフとしたネタ、トンツカタンお抹茶は「かりんとうでできた車」をテーマとする独特な世界観の歌ネタで会場を沸かせた。

個人的には、4年連続ファイナリストの寺田寛明に期待していた。昨年披露した「ことばレビューサイト」ネタを深化させ、コメント欄におけるユーザー同士の揉め事、課金に飛躍する展開など彼にしかできないスタイルを確立していたからだ。

しかし、9日に「Lemino®」で配信された『ファイナリスト全員集合!R-1グランプリ2024終わって速攻大反省会SP』の中で寺田自身が「今日はもう体一つの人の日だ」と口にしていた通り、3番手の街裏ぴんくが今大会を決定づけたように思う。

あまり抑揚をつけず、淡々とネタを進行する芸風の寺田は5番手。非常にやり辛い状況だったことが想像される。改めて賞レースは生ものであり、ネタ以外の要素も影響することを思い知らされた。

他方、点数が一部誤って表示されたトラブルこそあったものの、昨年に比べて余計なノイズは感じられず、出場者のネタに集中できる大会でもあった。やはり、放送時間は2時間半、ネタは4分がベストな尺ではないだろうか。来年もまた、じっくりとピン芸が見られる舞台を整えてほしいと切に願う。

※3月15日 記事を修正しました。

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