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映画「夜明けのすべて」さらにハマる…監督と主演の「副音声」とは

「バリアフリーも普通になってほしい」

生きづらさを抱えながらも前に進もうとする2人を描く映画「夜明けのすべて」
生きづらさを抱えながらも前に進もうとする2人を描く映画「夜明けのすべて」 出典: ©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

目次

2人の若者が生きづらさを抱えながら前に進もうとする姿を描く「夜明けのすべて」が公開中です。この映画を観ながら、監督と主演2人が作品の裏話を語る「副音声コメンタリー」が聴けるようになりました。より深く作品を知ることができ、リピートして観る人などに好評です。体験した副音声の魅力、アプリを運営する「Palabra」株式会社の代表、山上庄子さん(40)が、副音声も映画のバリアフリーも「普通になってほしい」と話す思いとは。

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監督と出演者の副音声トーク、不思議で贅沢な体験

副音声コメンタリーを聴くには、事前に無料のアプリ「UDCast」(ユーディーキャスト)(https://udcast.net/)をインストールし、作品の副音声コメンタリーのデータをダウンロードする必要があります。記者は2月の週末、アプリとデータを準備して映画館で初体験しました。

「夜明けのすべて」本編が始まると、シーンに合わせて三宅唱監督、主演の松村北斗さん、上白石萌音さんの3人のトークが聴こえてきました。音漏れ防止と、映画本編の音が聞こえなくならないよう、ボリュームは抑えめで聴きました。

1人で観ていながら、同時に3人の思いも共有しているような、不思議で贅沢な体験でした。

1回目は副音声なしで映画を観て、2回目以降にさらに作品を深く楽しむ際にかなりおすすめです。

「夜明けのすべて」副音声コメンタリーのテキスト版。松村北斗さんの言葉は青で表示している=Palabra提供
「夜明けのすべて」副音声コメンタリーのテキスト版。松村北斗さんの言葉は青で表示している=Palabra提供
「夜明けのすべて」副音声コメンタリーのテキスト版。三宅唱さんの言葉は黄色、上白石萌音さんはピンクで表示、内容の理解に必要な本編のセリフや音声は白色の字幕が入っている=Palabra提供
「夜明けのすべて」副音声コメンタリーのテキスト版。三宅唱さんの言葉は黄色、上白石萌音さんはピンクで表示、内容の理解に必要な本編のセリフや音声は白色の字幕が入っている=Palabra提供

瀬尾まいこさんの同名の小説が原作の今作。上白石さんが演じる「藤沢さん」は、月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラがおさえられなくなります。

松村さんは、パニック障害があり、不安で気力が持ちづらい日々を過ごす「山添くん」を演じます。

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

副音声では、2人がどのように役と向き合い表現したか、PMSや障害についての話もありました。

さらに、友達でも恋人でもなく支え合う藤沢さんと山添くんの関係性や職場の描写などについて三宅監督と2人が語り、作品から伝わるあたたかいまなざしが感じられます。

音声で聴けるほか、一部の対応劇場ではテキスト版の字幕ガイドを読むこともできます。

映画のバリアフリーのためのサービス

元々「UDCast」は、視覚や聴覚に障害がある人に向けた映画の音声ガイドやバリアフリーの字幕を利用したり、バリアフリー上映の作品を検索したりできるサービスを提供しています。

「夜明けのすべて」も音声ガイド、バリアフリー字幕の上映があります。

アプリを運営する「Palabra」の山上さんは、三宅監督の前作でろう者の女性ボクサーの実話を元にした「ケイコ 目を澄ませて」(2022年)の音声ガイドとバリアフリー字幕の制作などを通じて三宅監督と交流してきました。

「夜明けのすべて」の音声ガイドやバリアフリー字幕制作にも三宅監督は「映画の仕事として当然のようにかかわってくれた」そうです。

副音声コメンタリーについて、山上さんは「フィルムでの撮影や光へのこだわりなど、三宅監督の映画への真摯な向き合い方が伝わってきます。上白石さん、松村さんと監督とのお話から、作品への愛情の深さが伝わってくると思います」。

また、「映画など作品によって障害の描かれ方はさまざまですが、『夜明けのすべて』は障害者としてではなく、一人の日常に寄り添って表現されていること、演じた2人が身近な友達のことを話しているかのように藤沢さん、山添くんのことを話す様子が素敵ですね。作品を通じてより考えるきっかけにもなるのではと思います」。

「鑑賞の選択肢広がり、観客増にも」

副音声コメンタリーの取り組みは、2018年にヒットした映画「銀魂2 掟は破るためにこそある」(監督・福田雄一)で「UDCast」の音声ガイドや字幕の機能を使った取り組みとして初めて提供されました。

元々、ブルーレイなどパッケージ化された際の特典としてつけることが一般的だった副音声コメンタリーを、上映中に届けることができるようになりました。

副音声コメンタリーを通じてアプリをインストールする人が増えることで、Palabraが取り組む「映画のバリアフリー」が知られることにもつながると山上さんは言います。

「副音声も、バリアフリーも、映画の一つのみかたとして普通になってほしい。鑑賞の選択肢が広がり、観客が増えることにつなげたいです」

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

改正障害者差別解消法の施行で、4月1日からは障害者が社会生活を送る中での社会的障壁を取り除くための「合理的配慮」が民間事業者にも義務づけられます。

一方、音声ガイドやバリアフリー字幕を利用できる映画作品は一部にとどまり、映画の予約や映画館の設備などのバリアフリーも途上です。

山上さんは「コンテンツも、コンテンツの周辺の映画へのアクセスについても映画界が前進することが必要です。義務でなく、創作活動の延長としてバリアフリーに取り組んで、誰もが文化芸術を共有できるようになってほしいです」と話します。

「夜明けのすべて」の副音声コメンタリーや音声ガイドは、アプリを使って、上映している全国の映画館で利用できます。

スマホやタブレットのマイクで拾う映画の音響と連動してアプリで音声を再生するそうで、上映中は機内モードに設定しても楽しめるそうです。

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