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リベラルと陰謀論とスピリチュアル ワクチンへの懐疑にはまる理由は

投稿を分析した研究者と参政党に聞きました

ワクチンへの懐疑はSNSを通じて広がっている
ワクチンへの懐疑はSNSを通じて広がっている 出典: Getty Images ※画像はイメージです

目次

「人はなぜワクチン反対派になるのか」。東京大学がそんなタイトルで発表したプレスリリースが、X(旧ツイッター)で話題になりました。陰謀論やスピリチュアルへの関心が「ワクチン懐疑論」への入り口になり、懐疑論をとなえる参政党への支持拡大にもつながった、との内容です。研究チームの鳥海不二夫・東京大教授に分析の手法などを聞いたうえで、この研究をどう思うか、参政党からもコメントをもらいました。(朝日新聞デジタル企画報道部・小宮山亮磨)

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1億ツイートを集めて分析

研究は東大のほか、早稲田大と筑波大の研究者によるもの。論文が2月、計算社会科学の専門誌で発表されました。

公衆衛生のためには、ワクチン接種は大切です。ワクチンを疑う人は、なぜ疑うようになったのか。それを調べるのが目的だと、鳥海さんはいいます。

どんな手法だったのでしょうか。

「ワクチンに関するX上のつぶやきを2021年の1年間に1億ツイート(投稿)くらい集めたところ、ワクチンに懐疑的なツイートを拡散しているアカウントが19万7千個、見つかりました。今回の研究では、こういうアカウントをたくさんフォローしているアカウントを『ワクチンに懐疑的な人たち』として扱っています」

懐疑派にはリベラルが多い

分析結果について、東大のプレスリリースは大きく三つに分けて紹介しています。

第一に、ワクチンに懐疑的な人たちは政治的な関心が強く、中でも右派よりリベラル派を支持している人が多かったこと。

「日本共産党」「れいわ新選組」「原発」「ネトウヨ」「民主主義」といった言葉が、プロフィル文に使われているケースが目立ったのです。

出典: 東大のプレスリリース

鳥海さんはこう言います。

「コロナ以前から、基本的にリベラル寄りの人のほうがワクチンに反対するということは分かっていました。ワクチンは公衆衛生の観点から『みんなが打たないと効果が薄くなる』なので、どうしても全体主義的なところが強く、自己選択を重視するリベラル的な発想からすると、受け入れづらかったのではないでしょうか」

第二に、新型コロナの流行が始まったあとにワクチン懐疑派になった人は、以前から懐疑派だった人と比べて政治的な傾向が弱く、一方で陰謀論や「スピリチュアル」なことへの関心がきわめて強かったことです。

たとえば「三浦春馬」「集団ストーキング」「波動」「宇宙」「スピリチュアル」「柔軟剤」といった言葉が、プロフィル文に頻繁に登場していました。

出典: 東大のプレスリリース

「もともと懐疑派でなかった人たちが、懐疑派に変わっていく。それにはスピリチュアルなものなどとの親和性がきっかけになっている。その様子が見えたところに、一定の価値があると思います」

第三に、コロナ禍をきっかけに懐疑派になった人では、2022年3月から9月にかけて、参政党のアカウントをフォローする割合が急増していたこと。参政党は同年7月にあった参院選で、政府の新型コロナワクチン推奨策の見直しを訴えていました。

政治への関心が薄かった人が、ワクチンへの疑いを通じて参政党の支持者になっていった可能性があるというわけです。

参政党は「国際ユダヤ資本」に関する陰謀論などを選挙中に用いていたとも、研究チームは指摘しています。

この研究について、参政党に取材したところ、以下のようなコメントをもらいました。

今回のプレスリリースは、党が主張するワクチンに対する考え方の誤認や、根拠なく「陰謀論」として例示された内容を含んでおり、これに触れた人々が参政党に対して否定的な印象を持つように思われ、大変遺憾です。

私たちは、新型コロナワクチンの安全性や副反応に関する情報が不十分であるため、子供への接種には慎重な判断が必要だと考えていますが、大人については個人の判断に委ねるべきだという立場を取っています。そのため、定義もなしに「反ワクチン」と断定するのは誤りです。

また、「国際ユダヤ資本などの陰謀論を選挙キャンペーンに用いた」との記載もありますが、ロスチャイルド家やウォーバーグ家などの資本家の存在は事実であり、どの点が陰謀論なのか示されていません。

今回、事前に研究者から党に対する事実確認はありませんでした。部分的に引用された発言が、誤った解釈や印象の歪みを招く可能性があります。研究にあたっては、本部の正式な発信や政策を中心に据えて分析いただくべきだと考えます。

我が党が支持を得たのは、SNSを中心に政治に関心がない層にアプローチした結果であると考えています。

政治的な関心が薄かった人たちから参政党が支持を得るようになったということについては、党と研究者との間で意見が一致しているようです。

一度なったら戻ってこない

以上の3点のほかにもポイントがあると、鳥海さんは言います。

「ワクチン懐疑派になる人はいたけれども、逆はほとんどない。一度懐疑派になった人が戻ってくることは少ないんです」

2020年1月から2021年12月にかけて、ワクチンへの懐疑心が「低い」グループから「高い」グループへと変わったアカウントは約2千個ありましたが、逆に「高い」から「低い」へと変わったアカウントは一つもなかったのです。

懐疑心が「中」から「高い」へ移ったアカウントは6千個ありましたが、「中」から「低い」への移動は1千個だけでした。

研究チームは論文のタイトルで「反ワクチンの『ウサギの穴』」と表現しています。

「不思議の国のアリス」の主人公が穴に入ったときのように、陰謀論やスピリチュアルが入り口になって、ワクチンへの懐疑心を代弁してくれる政党への支持という「森」へ迷い込むーー。そんな意図をこめたといいます。

また東大のプレスリリースには、ワクチンを疑わない人は「ウマ娘」への関心が強い人が多いことを示したイラストがあり、Xで話題になりました。

出典: 東大のプレスリリース

「あれは『ウマ娘をやっているとワクチン懐疑派にならない』ということではなくて、日本のツイッター空間には『ウマ娘勢』のような、ゲームとかマンガを好んでいる人が多かったというだけの話です」

この研究の成果から、私たちが参考にできることはあるのでしょうか。

「疑い始めると、次から次へとどんどん新しい『ネタ』を見ることになって、そこから抜けづらくなります。人間には一貫性を保とうとする性質がある。『ワクチンは悪いものだ』と考えると、『そのワクチンを推奨している政府は正しくない』となる。すると、『正しくない政府が進めてくる政策は正しくない』と判断せざるを得なくなる。連鎖的に続いていってしまう」

「『脱原発』がきっかけで政府に批判的になり、その結果としてワクチンにたいして不信感を持つということもあります。一貫性を保つことは人間の性質ではあるものの、そこまで単純化せずに物事には良い面も悪い面もあると柔軟に考えることも必要ではないでしょうか」

情報も「偏食」には要注意

偏食が体によくないのと同じで、偏った情報にばかり触れるのは好ましくない。鳥海さんはそんな考えから、「情報的健康」の大切さを訴えています。

「SNSで一定の思想をもった人たちばかりをフォローすることは、情報に偏りを生じさせる大きな危険性があります。その危険性を認識して、それでも特定のものしかみないのは自由ですが、そのことを知らないというのは問題でしょう。『朝日新聞しか読まない』というのは自由ですが、朝日新聞がどういう新聞なのかを知ったうえで読むことが大切です」

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