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医療的ケアが必要な息子と初のディズニー「安心感があった」親の思い
外出に伴う困難とは?
多機能トイレはあるか、食事は準備できるか……。医療的ケアが必要な子どものお出かけには、下調べや綿密な準備が欠かせません。子どもを楽しませたいと思っても、ためらってしまうこともあるようです。東京都に住む親子は昨秋、親子遠足で初めてテーマパークへ出かけました。障害児保育園が開催した遠足には、保育士のほかに看護師も同行し、母親は「安心感があって、息子と楽しく過ごすことに専念できた」と振り返ります。
昨年10月、子育て支援の認定NPO法人「フローレンス」(東京都千代田区)が運営する障害児保育園「ヘレン」の親子遠足が開かれました。行き先は、初の東京ディズニーランド(千葉県浦安市)です。
たんの吸引やチューブを使った経管栄養といった医療的ケアが必要な子どもの家族6組に、保育士・看護師ら6人が同行。ボランティアスタッフも含め、35人ほどが参加しました。
午前中から、シアターでコンサートを聴くようなスタイルの「ミッキーのフィルハーマジック」と、世界一周をイメージした船旅「イッツ・ア・スモールワールド」の二つのアトラクションを体験し、レストランで昼食をとった後に自由解散したといいます。
「息子は目をキラキラさせて、楽しむことに集中していました」。遠足に参加した篠原里佳さん(33)はそう話します。
長男の凛太朗さん(2)は筋力が低下する難病「先天性ミオパチー」を患っていて、飲み込む力が弱く、たんの吸引やおなかから栄養を入れる「胃ろう」、人工呼吸器による呼吸のサポートが必要です。自ら移動することは難しく、子ども用の車いすを利用します。
遠足には夫の健太朗さん(30)と3人で参加しました。普段のお出かけは、近所の公園が中心。家族でディズニーランドを訪れるのは初めてで、「遠出や人が多い場所へ出かけることは難易度が高かった」といいます。
遠足中、息子の表情を観察していたという篠原さん。特に印象的だったのは、「フィルハーマジック」でした。
暗い空間で流れる映像とともに、大音量の曲がかかり、時には風や水が飛んでくる演出です。「怖がって泣くんじゃないかな」と不安でしたが、凛太朗さんは「笑って前のめりで楽しんでいた」といいます。
終わった後も、ひとさし指を立てて「もう1回見たい」とアピールしていたそうです。
「やっと息子を楽しいところに連れてきてあげられて、喜びを感じました。五感で全力で楽しんでいるのが伝わってきて、本当にうれしかったです」
これまで公園や公共交通機関では、周囲の視線が気になることもありました。しかし、ディズニーランドでは集団行動だったからか、来場者それぞれが楽しむことに集中していたからか、「じろじろ見られることなく、当たり前にその場にいられた」と感じたそうです。
篠原さん夫婦はこの日、朝5時過ぎに起き、凛太朗さんの朝食を準備したり、たんの吸引などケアを万全にしたりしていました。
自宅からテーマパークまでは介護タクシーを利用しました。車いすには、人工呼吸器や加温加湿器、酸素ボンベ、たんの吸引器、おむつ、着替えなどお出かけ用の荷物を載せます。荷物だけでも10kgを超えるほどです。
外出先では、顔色が悪くなっていないか、誤嚥(ごえん)していないかなど常に不安がついて回ります。
しかし、篠原さんは「行く前は外出先で何かあったらどうしようという心配がありました。でも、いつも息子をみてくれている先生たちがいる安心感はとても大きかったです」と話します。
仮に家族だけでテーマパークへ行く場合、乗れるアトラクションや巡るルート、救護室・トイレの場所、車いすで入れるレストランなどを事前に細かく調べ、万が一にも備えておかなければいけません。
今回の遠足では保育園のスタッフが下調べをしていたほか、看護師が付き添ってくれているため気負わずにいられたという篠原さん。夫とも「息子と楽しい時間を過ごすことに専念できた」と話していたそうです。
保育園では、ディズニーランド内でのアトラクションやルート、レストランについて遠足の2カ月ほど前から下調べをしていました。
事前にパンフレットを取り寄せてバリアフリー情報を確認。車いすや医療機器があっても楽しめるアトラクションをリストアップし、最終的には、下見で現地のスタッフに確認して決めたといいます。
また、子どもたちに慣れておいてもらおうと、遠足前の保育中からアトラクションを意識してディズニーの音楽や風を感じる遊びを採り入れていたそうです。
当日は、家族がアトラクションに並ぶ前に保育スタッフの一人が先回りし、ランドのスタッフに車いすの子どもが複数来ることを伝えたため、スムーズに入ることができたといいます。
食事はペースト食を提供してくれるレストランを選び、到着の時間を伝えていました。席は事前にボランティアやスタッフが昼食をとりつつ確保していたそうです。
保育園の園長は、「当日になるまで読めないことも多く不安もありましたが、スタッフ同士で臨機応変にやりましょうと話していました。日々大変な子育てをしている保護者の方々にも楽しんでもらいたいと思っていました」と振り返ります。
にぎやかな空間でしたが、「みんなすごく楽しんでいて、落ち着いて過ごしていた」といいます。
お昼ごはんを食べて解散した後は、パレードを見たり、別のアトラクションを楽しんだりする家族もいたそうです。家族をサポートするため、スタッフもランド内に待機していました。
園長によると、以前からディズニーランドへの遠足を望む声はありましたが、予算などの関係で実現できずにいました。今回は、外資の保険会社からの寄付があったため、移動にかかる費用や人件費などをまかなえたそうです。
医療的ケアのある子どもの外出について、保育スタッフの一人は「とにかく荷物が多く、食事の準備などもあって大変。でも、親子遠足が外に出るきっかけになって、保護者の方の自信につながればと思います」と話します。
厚生労働省の2019年の調査では、医療的ケア児と暮らす家族の65.3%が「医療的ケアを必要とする子どもを連れての外出は困難を極める」と答えました。
その状況を改善するために必要なサービスとしては、「送迎等の移動支援」(57.9%)、「外出時のヘルパー同行支援」(48.5%)などを求めました。
遠足に参加した篠原さんは、「親が休めるように一時的に看護師さんがみてくれる『レスパイト』という制度はありますが、外出先では利用できません」と吐露します。
「お出かけのときも家族が楽しむことに集中できるように第三者の力をお借りしたいです」
ディズニーランドではペースト食を提供してくれるレストランがあることに感激したといい、「医療的ケアの子も楽しめるレストランが少しずつでも広がるといいなと思います」と話しています。
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