連載
#91 夜廻り猫
震災、棚から消えたお米 「今日は買えた!」喜ぶ子どもに…夜廻り猫
2011年に発生した東日本大震災。都内のスーパーに買い物に出かけた子どもは――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、SNSで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、震災のエピソードです。
3月11日が近づくと、思い出される東日本大震災の体験。都内のスーパーでも、棚からお米などが消えてしまいました。
仕事のトラブルに追われていた女性は、物資調達を息子に頼みました。
帰ってきた息子は「一袋だけお米があってつかんだのに、おばさんが『ごめんね』って突き飛ばして持ってった」と悔しそうに言います。
その翌日、米袋を抱えた息子は「買えたよ!今日は僕が人を突き飛ばして取った」と言うのです。
女性は何とも言えず、「せめて私が突き飛ばすべきだった」「いや、そもそも備蓄が…」と悩みます。
そんな震災からまもなく13年。女性は「今ではのど元を過ぎれば熱さを忘れてしまっている」と振り返ります。
作者の深谷さんは「今年は元日に能登で地震が起きてしまいました。その後もまだまだ落ち着く様子はなく、心配であるのと同時に、東日本大震災を思い出すことが多いです」と話します。
2011年3月11日に発生した東日本大震災で、深谷さんが忘れられないのは、「漫画に描いた通り、まだ子どもだった息子に苦労をかけたこと」と振り返ります。
「子どもを大人のように働かせるせことになりました。しかも他人を突き飛ばさなければ食べ物が手に入らない、そんな時にどうするのが正解なのか、今も分からないでいます」
その後、「こちらも他人である知人が貴重なお米を持参してくれて、忘れられないありがたいことにも恵まれました」とも話す深谷さん。
「これ以上悪いことが起きませんように、祈るだけでは情けないけれど、祈りながら暮らしています」
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