今年1月にDMM TVで配信がスタートし、SNSを中心に反響を呼んでいるドラマ仕立てのコント番組『インシデンツ2』。1年前に配信された前作とは、具体的にどんなところが違うのか。1990年代の映画を思わせる作風、第1弾とは異なるコンセプト、配信の仕方で違う“引きの作り方”など、プロデューサー・佐久間宣行氏への取材内容を交えて最新作の魅力に迫る。(ライター・鈴木旭)
第1弾が話題となり、約1年後に早くもシーズン2の配信が開始した『インシデンツ』。“脱法コント”と銘打たれた刺激的な世界観はそのままに、今回は前作よりもストーリー性を重視したものになっている。
フリーター・綿貫小次郎(伊藤健太郎)は、ヒーローアニメ「インシデンツ」のオフ会と称してTVディレクター・橋爪武蔵(さらば青春の光・森田哲矢)、ボランティア団体代表・金子弥生(ヒコロヒー)、俳優・茂木宗矩(さらば青春の光・東ブクロ)、新興宗教団体の教祖・富岡以蔵(みなみかわ)を呼び出し、強盗団を結成。
いざ銀行強盗を決行すると、騒動になる前から警察が現場に到着するなど、予想だにしない事態が立て続けに起こる。一方で強盗を指示した反社会組織組長・明智秀秋(極楽とんぼ・加藤浩次)は、この計画を不審に感じた組員を次々と暗殺。果たして明智の本当の目的とは何だったのか……という内容だ。
前作と同じく、元テレビ東京の佐久間宣行氏が企画総合プロデュース、作家のオークラ氏が構成・脚本、演出家の住田祟氏が監督を担当。極楽とんぼ・加藤を除けば、メインキャストも変わっていない。かもめんたる・岩崎う大、アルコ&ピース・平子祐希、オードリー・春日俊彰、かが屋・加賀翔、賀屋壮也、ザ・マミィの酒井貴士、林田洋平らもシーズン1と同じく脇を固めている。
彼らに加えて新作では、俳優・東出昌大やアンジャッシュ・渡部建、TKO・木下隆行、木本武宏、三四郎・小宮浩信、相田周二、ラブレターズ・塚本直毅、溜口佑太朗が登場するなど、出演者の顔ぶれだけでも興味をそそるものがあった。
新作を見ながら最初に思い浮かべたのは、イギリスの映画監督ガイ・リッチーの初期作品だった。
ガイ・リッチーは、1998年に公開された『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』で注目を浴び、続いて2000年(日本では2001年)に公開された『スナッチ』でも高い評価を受けた。いずれもギャングやマフィア、強盗団など悪人の世界をベースに、一見関係ないと思われるシーンが後になって結びつく緻密な脚本で構成された群像劇だ。
インシデンツ2でも、まずは強盗団5人の背景が描かれたうえ、銀行強盗の決行中に“どう仲間を裏切るか”というそれぞれの思惑に焦点を当てつつ、そうはうまくいかない現実とのギャップによって滑稽さをあぶり出していく。こうした細やかな見せ方が、前述のガイ・リッチーの映画に通じている。
1994年公開のアメリカ映画『パルプ・フィクション』(クエンティン・タランティーノ監督)でも、時系列を無視して殺し屋の淡々とした日常を描いている。1990年代はアメリカとソビエト連邦の冷戦終結後であり、世界的な緊張状態が一時的に緩和した“奇妙な安息”を感じさせる時代でもあった。
だからこそ、それまでになかった「淡々とした悪人側の日常」「時系列にとらわれない群像の世界」を描く作品が生まれやすかったのかもしれない。インシデンツの脚本を担当するオークラ氏、プロデューサー・佐久間氏は、これらの作品を10代後半から20代の多感な時期に観ていたことが想像される。
シーズン2がラストまで勢いを失っていないのは、2人がガイ・リッチーやタランティーノに感化された世代だったことも関係しているのではないだろうか。
前作との具体的な違いについても触れておきたい。新作はシーズン1と同様にコントブロックも挿入されているが、第4話から最終話まで強盗団と反社会組織とのストーリーにスポットを当てている点で大きく異なる。
これは、そもそものコンセプトが違うためだろう。前作は、お笑い番組(もしくはコントグループ)と国家という“構造”によって展開していった。その大筋はこうだ。独裁者フスキ・ゼンに支配された架空の独立国家「NEPPON」。コントグループ「LOL」は、そんな国でお笑い番組を作り続けている。
ある日の撮影中、LOLのメンバーがNEPPON国の軍隊に狙撃され現場は騒然に。国の思想に反するコントは作ってはいけない。そう警告されたLOLは、笑いと国を守るためどう立ち向かっていくのか……というものだった。
つまり、シーズン1は何度もコントを披露する必然性があるのだ。この作風についてプロデューサーの佐久間氏に尋ねると、「体制に対する笑いによる風刺、という劇中劇だったので、後で見て二重の意味になるように意識しました」と語ってくれた。
『空飛ぶモンティ・パイソン』(1969年から1974年まで放送されていたイギリスのコメディー番組)を思わせるグロテスクなアニメーションを使用しているのも、国営放送のBBC で王族や政治家をおちょくるネタを披露したコメディーグループ「モンティ・パイソン」をベースに企画が練られていったからだろう。
一方、シーズン2はメインキャストや脇役たちの日常でコントブロックを作っている。そこから銀行強盗の決行を機に、一気にストーリーが走り出す展開が見ていて痛快だ。「はじめから4話、5話でびっくりさせようと思っていた」と語る佐久間氏の狙いが見事に的中したと言えるだろう。
ガラの悪い男が何度も芸人を殴るドッキリ番組、ロケ番組の収録中に性行為をしてしまう俳優、潜入YouTuberの撮れ高をサポートしようとするぼったくりバーなど、地上波にはそぐわないであろうシーンも少なくない。
しかし、それらは単純に“脱法”に寄せたコントではなく、インシデンツの世界観を保ちながら、あくまでも笑える作りになっている。この点について佐久間氏は、「お金を払って見てもらう、というにはいくつかの理由を積み重ねないといけないので、結局作品に誠実であることな気がします」と口にする。
また、同じ動画配信サービスの番組であっても「一挙配信か、毎週配信かでちょっと引きの作り方を変える」という。佐久間氏がプロデュースしたNetflixの『トークサバイバー!』は全話一挙配信。これに対してインシデンツは1、2ともに、まず第1話から第3話までが同日に配信され、その後は毎週金曜に最新話が追加されていった。
加えて、YouTubeで第1話が無料公開され、DMM TVで出演者が撮影の裏話を語る特典映像が見られるのもインシデンツの特徴だ。佐久間氏の言う“引きの作り方”には、そのあたりも含まれることだろう。
いずれにしろ、インシデンツ2はさらば青春の光の芸風ともフィットしており、久々に胸躍る痛快なコメディー作品だった。毎回コンセプトが違う中、高いクオリティーを保つのは骨が折れるだろうが、ぜひ次回作にも期待したいところだ。