話題
静寂の中、言葉を使わず「対話」 〝照れくささ〟を超えて感じたこと
ダイアログ・イン・サイレンス 体験してみると
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ダイアログ・イン・サイレンス 体験してみると
「ダイアログ・イン・サイレンス」というイベントをご存じでしょうか? 音が聞こえない状態で、言葉に頼らない「対話」を楽しむ新しいタイプの体験型ソーシャル・エンターテインメントです。現在、愛をテーマにした新作「ラブ・イン・サイレンス」が開催されています。いったいどんな体験が待っているのでしょうか?(朝日新聞社メディア事業本部・山内浩司)
会場は東京・竹芝にあるダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」です。
まずは入り口で手荷物を預けます。腕時計やスマホなど音が出るもの、情報機器もすべてロッカーへ。
ここからは「声は手話も“お休み”です」と説明を受け、ずしりと重いヘッドセットを渡されます。
装着するとまったくの無音というわけではありませんが、ほぼ音は聞こえません。ここから、約90分間にわたる「静寂の世界」への旅が始まります。
これから楽しむ人へのネタバレになってしまうので詳細は控えますが、体験会に参加した感想と共にその一部をご紹介します。
参加者はチームを組んで、聴覚障害のあるアテンドスタッフの案内で、いくつかの部屋を周りながら、ゲームやミッションを通して「LOVE」を探していくという趣向です。
「顔のギャラリー」の部屋では、顔のパーツをいろいろ動かして表情で気持ちを伝えることにチャレンジします。
アテンドの表情をまねていきますが、いやいや、眉だけそんなに器用に動かせませんって!
ふだん自分が顔の筋肉をどれだけ使っていないか、表情が乏しいか実感できます。
ほかにも、手のかたちで影絵を作り動かしてみるコーナーや、ジェスチャーだけで、与えられたお題を相手に伝えるゲームなど盛りだくさん。
最初は遠慮がちだった参加者のみなさんも、だんだん表情が豊かになり、身ぶりや手ぶりも使ったリアクションどんどん大きくなっていくのが印象的でした。
言葉を使わなくても、伝えられることはいろいろとあるのだなと気づきます。こういう体験を重ねると、言葉が通じない海外の方とのコミュニケーションにも役立ちそうです。
終盤の「対話の部屋」では、音のない世界と音のある世界の架け橋となる通訳者「サイレンスインタープリター」も交えて、お互いの感想や気づきなど自分の思いを語り合います。
参加者の皆さんが口々に話していたのは「アイコンタクト」の重要性でした。
なかには、「相手の目をしっかり見ながら、伝えようとする側と受け取ろうとする側の双方が『愛』をもって集中すれば、かなりことが伝わるのでは」「ふだん、いかに相手の目を見ずに会話しているのか反省させられた」という声も。
アテンドを務めたかりんさんは「聴覚障害のある人のコミュニケーションは相手の目を見ることから始まります」と教えてくれました。
「目を見ないということは、相手に対して関心がない・聞く気がないことを示します。だから夫婦げんかするときは、相手の顔を無理やりにこちらに向けて対話するんですよ」
そのメッセージがとても心に残り、「誰に向かって伝えたいのか」がコミュニケーションの基本だということを再確認しました。
とはいえ、私のようなおじさん世代は、「ラブ・イン・サイレンス」の参加に「照れ」があったことは否めません。特に「やらされている」と思ってしまうとなおさら引いてしまいがちです。
でもこの際、時計やスマホと一緒にそんな「羞恥(しゅうち)心」はロッカーにしまって、「静寂の世界」の一員としてやりきった方が楽しめるし、自分と向き合う貴重な機会になるのでは?と感じました。
知り合いがいると照れくささが先に立ちそうなので、「ぼっち」参加もありかもしれません。
真剣に伝えようとする自分に、見知らぬ相手が真剣に向き合ってくれて、「伝わった!」と実感できたとき、シンプルにうれしさは倍増するような気がしました。
また、わかったふりをしていると行き詰まることが多いので、表情や身ぶりを駆使して全力で「わからない!!」アピールすることも大事です。
「ありがとう」「大丈夫」「おもしろい」など簡単な手話を学べる部屋もあります。単語だとジェスチャーに近い表現も多く、意外とハードルは低く感じました。
最近では「silent」「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」をはじめ、聴覚障害者や手話が登場するドラマやエンタメ作品が話題になることも増えました。
自分の日常会話に手話の要素も取り入れていけば、言葉の壁を越えたコミュニケーションや新たな出会いが生まれるかもしれません。「好き」という言葉を口に出さず、バレンタインデーに気持ちを伝えることもできるかも?
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