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オンライン経由で「人と会うな」だけでは…tinderが感じる課題
他人と出会い、内観し、自己表現を。
近年、20代の3割近くが利用しているとされるマッチングアプリ。190カ国でサービスを提供するマッチングアプリ大手「Tinder」の、カントリーマネジャーのチョウ・キョさんは「日本のユーザーには『マインドセット』に課題を感じる」と語ります。オンラインでの出会いを楽しもうとするとき、どのような視点を持つべきなのか、聞きました。
――Tinderは世界190カ国で利用できますが、日本での事業展開の特徴はありますか。
Tinderはオンラインのアプリサービスですが、日本ではオフラインの広告展開にも力を入れています。
Tinderがアメリカでローンチしたのは2012年で、すでに10年を超える歴史があります。
ただ、日本でサービスの提供が開始したのは2016年で、本格的に広告などにも力を入れ始めたのは2018年です。
日本は後発国で、すでに成熟した市場がある他国に比べてTinderの認知が低いです。そのため、ユーザーの半数を占めるデジタルネイティブであるZ世代が「新鮮さ」を感じるオフラインの展開にも力をいれています。
――どんな取り組みがあったのでしょうか。
例えば、2022年には渋谷・センター街で「スワイプマート」というコンビニを4日間限定でオープンしました。
実際のコンビニで販売されているような商品を販売した他、Tinderのオリジナルグッズはアカウントの登録を条件に無料で提供しました。また、Tinderのコンセプトを感じられるような写真撮影のブースも設置しました。
背景として、日本のユーザーのマインドセットに課題を感じていることがあります。
具体的には、アメリカなどの成熟した市場に比べて、マッチングアプリの使い方、安心・安全機能の認知、オンラインデーティングの正しい楽しみ方や、オンラインで人とコミュニケーションする時のポイントなどを含めた意識の持ち方に課題を感じています。
そのため、オフラインでもブランドコンセプトなどに触れていただける機会も大切にしたいと思っています。
――オンラインデーティングのマインドセットというと、オンライン経由で人と出会うときの心構えといったことでしょうか。どんな課題感があるのですか。
過去には学生を対象として、同意の大切さを考えるトークイベント「Let’s Talk Consent」や、「デーティングウェルネス」をテーマにして、デートをする上で正しい知識を持つためのトークイベント「コンセントカフェ」などを開催したりしました。
参加者とのやりとりから、日本では、オンラインでの「出会い」を安心安全なものにするための情報が不足しているように感じました。学校などでは、単純に「オンラインで人と会うな」としか教えていません。
コンセントカフェの「Consent」は「同意」という意味があります。参加者に「コンセントと言う言葉を聞いたことありますか?」と尋ねると、ほとんどの人がありませんでした。「聞いたことがある」と答えてくれるのは帰国子女など、ごく少数です。
――確かに日本でコンセントというと、和製英語のプラグの差し込み口を思い浮かべる人が多いでしょうね……。
「Consent」は、日本では「同意(性的同意)」とも表されています。他人と出会う時、必ずお互いがそれぞれ違うルールや意図、願望を持っています。だからこそ、コミュニケーションをとりながら、お互いの「同意」を確認することが大切なんです。
マッチングアプリは、サービスツールとして存在し、効率よくマッチングするための情報もたくさん出回っています。
でも、「自分の想像と違った相手とのデートを断りたい」とか、「ハラスメントを受けた場合はどうしたらいいか」といった場合の正しい情報がまだまだオフィシャルに出回っていません。
Tinderでも、安心・安全に利用してもらうために2020年11月から「セーフティーセンター」という機能を設け、「使い方」「ツール」「情報」の3項目の情報をアプリから見られるようにしました。
「使い方」の項目では、Tinderで禁止されている事項や、マッチした相手と実際に会う時の注意点などをまとめ、「情報」では問題に応じた適切な相談先や通報先の情報をまとめたを確認することもできます。また、「使い方」には、メンバーが自身の身を守るための知識を試すクイズも盛り込まれています。
でも、もっと大事なのは、ユーザーのマインドセットです。
恋愛でも、交友関係も、自分の身を守ったり、傷つかないために、正しい情報をまず備えて、正しい心構えでオンランデーティングを楽しんでもらいたいのです。
――日本では近年、学校や家庭での性教育が不足していると指摘されています。
知識を広めようと活動されている団体はたくさんありますが、発信力が及ばない部分もあるのだろうと思います。
Tinderのユーザーの半数はZ世代です。団体とイベントなどでご一緒させていただくことで、そのリーチに貢献できればと思っています。
――こういった取り組みは他の国でもやっているのでしょうか。
“同意”について考えることができるオリジナルサイト「レッツトークコンセント」は、インドやオーストラリアでも展開しています。また、多様なジェンダーについて学べ、深めることのできるオリジナルサイト「レッツトークジェンダー」も複数の国で展開しています。
国ごとの文化や考え方の違いもあるので、監修してもらえるような専門の団体がその国にあるかどうかでコンテンツの展開や、イベントの開催は判断されています。
――Z世代のユーザーからはどんな悩みが聞かれますか。
イベントで聞かれることの多い質問が「断り方がわからない」というものです。
特にマッチングアプリでは、双方が「ライク」し合って初めてマッチし、メッセージのやりとりなどが開始できるシステムです。
自分がライクしてしまって、後から「ちょっとやだな」と思っても言い出せないと。イベントでは毎回同じ質問が出てきます。
――「一度ライクしちゃったけどやっぱり違いました」と言えたらいいんですけどね。
自分の意見を素直に伝えることを遠慮してしまうユーザーも多いです。
もう一つ多い悩みが、欧米のユーザーに比べて「最初の一言目に困る」というもの。
欧米のユーザーは、自分のコミュニケーションのスタイルがあって、最初の一言目も自分なりのバリエーションを持っています。
日本のユーザーは「自己表現」が苦手なのかなと思います。
自己表現も、コンセント(同意)も、結局は「自分を知る」ということだと考えます。まずは内観して、「自分はこういう人間で、『ノー』というラインはここだ」と認識してほしいです。
――自分の意識や状態を、自分で観察するという「内観」という言葉が、マッチングアプリの取材で出てくると思っていませんでした。とても興味深いです。
「他人とつながることがなぜ大事なのか」ということともリンクするんですが、一人だと自分を内観するチャンスが少ないですよね。
多くの場合、人は誰かとふれあっていく中で、「自分はこういう人間で、何が好きで、これはよく思わない」ということを知っていきます。
他人と出会ってこそ、自分がどういう人間かを考えることができるのだと思います。
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