連載
#21 イーハトーブの空を見上げて
豪雪地、わら人形かつぐ〝奇祭〟 「やめようか」悩んでも続ける理由
伝統行事「白木野人形送り」
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#21 イーハトーブの空を見上げて
伝統行事「白木野人形送り」
Hideyuki Miura 朝日新聞記者、ルポライター
共同編集記者豪雪地帯として知られる岩手県西和賀町の白木野地区で、奇祭として伝わる伝統行事「白木野人形送り」が行われた。
わら人形に疫病神を背負わせて、集落のほとりの山の木に結わえつけ、無病息災を祈る習わしで、江戸時代に疫病を封じるために祈願したことが始まりとされる。
その日は朝から雪に埋もれそうな地域の公民館に住民が集まり、2時間ほどかけて高さ約1メートルのサムライ姿のわら人形を作った。
地域の公民館長の中島正行さんが教えてくれた。
「江戸時代までは地域一帯で行われていたらしいのですが、近代になってほかの集落はどこも取りやめてしまったようなのです。白木野集落もそのとき一度辞めたようなのですが、集落内でスペイン風邪が流行したため、行事を復活させたと聞いています」
参加者の一人が笑いながら口を挟んだ。
「わら人形を作れる人も年々少なくなってきてね。みんな年だし、もうやめようか、という声がいつも出るんだけれども、神様がどこかで見ているかもしれないでしょ。みんな『お迎え』が近いからね。やめたくても、やめられなくて。でも伝統って案外、そういうものなんじゃないかしら」
できたわら人形を担ぎ上げ、ほら貝や太鼓を鳴らして集落を練り歩く。
雪に足を取られながらもエッチラオッチラと雪山を登り、高台の一本に人形をくくりつけた。
疫病を背負ってくれている人形に向かってみんなで拝む。
下界では新型コロナウイルスが猛威を振るっている。「コロナを退散してください、孫に会わせてください」と願う。
取材中、ずっと気になっていることがあった。木に縛り付けられたわら人形は男性器がやたらと大きい。
「昔は子孫繁栄の意味もあったのかもしれないけれど……、年々大きくなっているような気がしないでもない」
年配の男性が照れて笑った。
「やっぱり男のミエなのかなあ」
明るい笑い声が木霊して、周囲の木からどっさと雪が落ちてきた。
(2022年1月取材)
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