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キャンバス地で制作、巨大な龍 東京・銀座の交差点に出現したアート
波打つように漂う、真っ白な龍――。東京・銀座の交差点に面したウィンドーディスプレーが道ゆく人たちの目を楽しませています。今年の干支(えと)にちなんだオブジェを作ったのはアーティストの下田昌克さん。キャンバス生地を用いてミシンや手でコツコツ縫った作品について聞きました。(デジタル企画報道部・菅光)
銀座4丁目交差点のランドマークともいえる、時計塔で知られるSEIKO HOUSE GINZA(セイコーハウス銀座)。
ウィンドーいっぱいに巨大な龍が現れ、雪男のようにも見えるヒトが龍をまとっているようにも見えます。
海外からの観光客とみられる人はもちろん、多くの通行者が足を止めてスマホのカメラを向けています。
制作者の下田さんは「昨年の夏、奈良のお寺で見学した護摩たきで、高い天井に立ち上った煙が、龍が舞っている姿に見えた」と着想のきっかけを話します。
下田さんはデザインの専門学校を卒業後、さまざまな仕事を経て、1994年から海外旅行へ出かけました。南アジアを中心とした2年間の旅のなかで、出会った人たちのポートレートを色鉛筆で描き、アーティスト活動を始めました。
創作活動を広げる中で2011年、恐竜の骨をモチーフにしたかぶり物をミシンで作り始めます。
東京・上野の国立科学博物館で開かれた「恐竜博2011」を訪れ、「自分でも恐竜を作りたい」と思ったことがきっかけでした。
材料となったのは絵に使う道具として身近にいっぱいあったキャンバス生地。下田さんにとっては「当たり前にあるもの」で、「いちばん意味を持たないものだからちょうどよかった」と話します。
慣れないミシンを使って試行錯誤を重ねながらコツコツ作り続けた恐竜のかぶり物は、次第に注目を集めます。
デザイナーの川久保玲さんの目にとまり、コムデギャルソンの2018年秋冬コレクションのランウェーに恐竜のヘッドピースとして登場。同じくデザイナーのヴァージル・アブローからも直接連絡を受け、オフホワイトの2021年秋冬コレクションにも採用されました。
一方で、アジアを長く旅した経験を持つ下田さんはこれまでも龍をモチーフにした絵を描いてきました。
龍は想像上の生き物です。神話や伝説にあらわれ、水中や地中にすみ、ときに空中を舞い、雲や雨を起こし、稲妻を放つといいます。
今回の龍の作品の着想のはじまりは、奈良の山のお寺で見学した護摩たきの煙でした。外はそれまで晴れていたのに、突然、雨が降って雷が鳴りました。
煙の龍の光景を絵に描きとめた下田さんは、今回のプロジェクトが決まる前から、キャンバス生地で龍の顔を作り始めていたといいます。
セイコーグループからプロジェクトの依頼があり、12月中旬、龍の顔部分が完成。ディスプレーの制作会社の作業場に持ち込む日の朝には、自宅の窓から見える明治神宮の上空に、龍のように見える雲がたなびいていたそうです。
その後、作業場で鉄骨を組んで木の板をはめて骨格をつくり、700枚以上のうろこを貼り付けて白い龍が完成しました。
銀座の中心で生まれた龍は、世界各地から集まった人たちのスマホに収まり、SNSなどを通じて世界中に広がっていきます。
今回の展示でアートディレクターを務めたセイコーグループの武蔵淳さんは「下田さんによる龍のフィジカルな表現が、見る人の心に響いたと思う」と話しています。
※「SEIKO HOUSE GINZA」での展示は24日まで
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