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フィットネス〝苦境〟も規模拡大 イベント、オンライン…人気の理由

コロナ禍以降、フィットネス業界は“苦境”から抜け切れていないが……。※画像はイメージ
コロナ禍以降、フィットネス業界は“苦境”から抜け切れていないが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

コロナ禍を経て苦境の続くフィットネス業界。従来的な業態のジムが変化への対応を迫られる中、実店舗とリアルイベント、オンライン配信を組み合わせて事業の新しい柱にする企業も現れています。利用者数を伸ばし、新サービスの立ち上げや大規模イベント開催など、規模を拡大するバイクエクササイズを取材しました。(朝日新聞withHealth)
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フィットネス業界に訪れた変化

新型コロナウイルスの感染拡大により、フィットネス業界は大きな打撃を受けました。依然として経営状態がコロナ禍以前の水準に戻らない事業者もあります。

経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、フィットネスジムの利用者数のピークは2018年の延べ2億5600万人。以降は伸び悩み、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年には1億7100万人に急減しています。2022年の利用者は延べ2億1000万人と回復傾向にありますが、それでもピークには届きません。

公益財団法人日本生産性本部の「レジャー白書」では、フィットネス業界の市場規模(推計値)は2021年に前年比29%増の4130億円に拡大しましたが、コロナ禍前の19年比では17%減。2022年は伸び率がさらに下がりました。人口に対するフィットネス業界の市場規模は、海外と比べて小さい状態にあります。

もともと、一般的なジムは「幽霊会員」が大きな割合を占めるとされます。独立行政法人中小企業基盤整備機構の2017年の調査によれば、ジムの利用者の利用頻度について、利用者全体では「年に1回以下」が51%ともっとも多い結果に。半数はいわゆる幽霊会員です。

自分が入会していることを忘れている場合も多く、休眠ユーザーを掘り起こそうとして、かえって退会につながってしまうという運営の悩みも聞こえてきます。コロナ禍で顕在化しただけで、もともと構造的な問題を抱える業界だったとも言えるでしょう。

こうした状況を受け、フィットネス業界誌の『フィットネスビジネス』編集部が発行する『日本のフィットネスクラブ業界のトレンド 2021年度版』では「従来型のビジネスモデルを大きく変えたり、場合によっては新しい業態・サービスを創造したりしなければならない」と指摘されています。
 

一般ジムよりアクティブな理由

FEELCYCLEのスタジオ内部の様子
FEELCYCLEのスタジオ内部の様子 出典: 写真提供:FEEL CONNECTION
そんな中、規模を拡大しているのが、いわゆる「暗闇フィットネス」の一つであるFEELCYCLE(フィールサイクル)です。

FEELCYCLEでは、屋内のクラブのような空間で流れる音楽に合わせて、インストラクターの指示で行う「コリオ」と呼ばれる振り付けの動作をしながら、フィットネスバイクを漕ぎます。コリオには腕立て伏せや腹筋などの要素も含まれ、有酸素運動と筋トレ両方が可能なエクササイズです。

1レッスンは45分間、FEELCYCLEを運営するFEEL CONNECTION社はアフターバーン(運動後も継続するカロリー消費効果)込みで最大800kcalをうたい、運動効率の良さが特徴です。

東京・銀座の1号店開店から11年、現在、全国に約40店舗のスタジオを構えます。2022年6月には銀座京橋に、2023年4月には京都河原町に、それぞれ大型スクリーンを設置し映像に合わせてエクササイズをする新店舗を出店しました。

同社によれば、会員数は2023年10月時点で都度利用を含め約18万人に上るといいます。

2020年時点では、同社は利用者数を10万人としており、コロナ禍を経て8万人を積み増したことになります。幽霊会員の問題についても、FEELCYCLEでは「8割以上の会員が月に1〜2回は利用するなど、かなりアクティブ」(広報担当者)だということです。

人気の大きな理由の一つが、FEELCYCLEに所属する約300人のインストラクターです。レッスンの参加者を、コリオの指示や投げかけるメッセージ、歌、ダンスなどで励まし、盛り上げるインストラクターは、舞台に立つアーティストやモデルのような存在です。

FEELCYCLEにおいては、インストラクターを中心としたファンダム(ファンによる文化)が形成され、会員のアクティブ率を上げるだけでなく、インストラクターが同社が販売するジムウェアやプロテインといった物販をすることにより、客単価が上がるという効果もあります。

いわばフィットネス業界の“推し活”が、コロナ禍でも経営を支え、活路を拓いたとも言えるでしょう。
 

1万円超のチケット4000枚が…

LUSTERの様子
LUSTERの様子 出典: 写真提供:FEEL CONNECTION
その強みが最大限に発揮されるのが、FEEL CONNECTION社が2016年から開催するリアルイベント「LUSTER(ラスター)」です。LUSTERでは、ライブなどに使用される会場を数日にわたり貸し切り、ライブレッスンを行います。

通常45分のレッスンに対して、過去5回のLUSTERの公演は60分だったり、80〜90分だったりと長め。特別なセットリストが組まれ、複数の人気インストラクターが出演します。

会場には物販エリアやフォトブースが開設され、まさにアーティストのライブさながらです。FEELCYCLEはそのコンセプトに“IT'S STYLE. NOT FITNESS.”を掲げ、フィットネスの枠にとらわれないメッセージを打ち出しており、LUSTERはその代表例と言えます。

元より音楽へのこだわりは強く、ジャスティン・ビーバー、ビヨンセなど海外ビックアーティストとのコラボも多いのが特徴。ライブイベントとの親和性は高いと言えるでしょう。ただし、コリオに合わせて体を動かし、バイクを漕ぐのは通常のレッスンと同様で、あくまでもフィットネスの要素と両立しています。

2022年12月2〜4日に豊洲PITで開催された「LUSTER 2022」では、全12公演の1万1900円〜1万7900円のチケット約4000枚がおよそ10分で完売。あらためて、インストラクターへの求心力の大きさがうかがい知れました。

6回目となる「LUSTER 2024」の開催も4月に決定しており、会場は幕張メッセと、さらに大規模に行われる予定です。こうしたライブイベントを定期的に開催することで、会員のサービスへのロイヤリティを醸成していると見ることもできます。
 

リアルの強みがもたらす多様性

FEEL ANYWHERE専用バイクとタブレット
FEEL ANYWHERE専用バイクとタブレット 出典: 写真提供:FEEL CONNECTION
FEEL CONNECTION社はインストラクターという強みを、世界的なトレンドであるオンラインフィットネスの事業にもつなげています。

それがFEELCYCLEの人気インストラクターのレッスンを、オンラインで受講できるサービス「FEEL ANYWHERE(フィールエニウェア)」です。専用バイクとタブレットを設置すれば、どこでもFEELCYCLEのレッスンを受講できます。

バイクは自宅での利用を想定して設計され低騒音・低振動、必要なスペースはヨガマット1枚程度。タブレットは​​23.8インチの大画面で、4つのスピーカーを搭載し、臨場感を伝えます。

録画したレッスンの配信だけでなく、定期的にライブレッスンを開催。ライブレッスンでは、ウェブサイト経由で出演インストラクターとリアルタイムのコミュニケーションを取ることができます。

2021年8月にFEELCYCLEの会員を対象に販売を開始し、その際には26万9千円と高額のバイク1000台が3日間で完売しました。2022年10月より法人販売も開始。同社によれば、現在はジムや医療機関に導入されているということです。

オンラインフィットネスとして、テクノロジー面での進化も続いています。バイクには元々、ペダルの回転数や負荷を計測できるセンサーが内蔵されています。「今後はこうした数値をリアルタイムに反映し、より音楽との親和性を高めるような機能を搭載することを検討している」(同社)そうです。

コロナ禍を経て、フィットネス業界が直面したのは、同じ業態のままでは環境の変化に弱いという、生存競争の原則だったと見ることもできます。自社の持つ強みを活かしながら、業態に多様性を加える同社の事例は、アフターコロナの戦略として今後に注目するべきものと言えるでしょう。
 

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