昨年35周年を迎えたゲームソフト「桃太郎電鉄」(桃鉄)。プレイヤーが鉄道会社の社長となって各地を巡るすごろくゲームで、11月には「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」(桃鉄ワールド)が発売されました。実は、シリーズを通して原作者にはある願いがあったといいます。「桃鉄ワールド」のシニアプロデューサーで、コナミデジタルエンタテインメント(東京)の岡村憲明さんに聞きました。
ーー「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」は13年ぶりに世界が舞台ですが、どのようなゲームでしょうか?
岡村憲明シニアプロデューサー(以下、岡村SP):「桃太郎電鉄」は、プレイヤーが鉄道会社の社長となり、各地を巡って物件を買い集めて総資産ナンバーワンを目指すゲームです。
2020年に発売した前作「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」は日本が舞台でしたが、今回は世界が舞台となっています。
進行系カードでの移動は列車デザインから飛行機デザインになり、世界旅行をテーマにした新ボンビー(貧乏神のキャラクター)「世界旅行ボンビー」が登場するなど、「ワールド」ならではの新要素が満載です。
また、今作ではシリーズ初の「球体マップ」を搭載しています。プレイヤーを地球の裏側へ飛ばす「地球の裏側カード」など、球体ならではの演出もあります。
ーー今回、新型コロナウイルスを彷彿とさせる「伝染病」が出てきます。
岡村SP:実は、あえて世界を巻き込むような歴史的に大きな出来事を採り入れています。
目的地に救援物資を届けたり、ワクチンを開発したり、「桃鉄」としては珍しくプレイヤーが協力し合うような局面も出てきます。
これには、ゲーム監督・桝田省治さんの「世界中のみんなが一つになって何かできる、世界規模で起こる出来事を採り入れたかった」という思いが込められています。
伝染病のまん延を阻止するためにみんなでワクチンを開発するのですが、プレイヤーは競争しながらも、共同作業のように体験をするわけです。
全世界的な規模で起こる出来事が発生して、それにプレイヤー全員が対応することによって、世界が一つであることを表現したい、という桝田さんの思いがありました。
ーー採り入れたのは、お考えがあってのことなのですね。
岡村SP:ゲームを遊んでいただいた方にネガティブなイメージが残るような体験にはしていない、という自負があります。
ゲーム内の表現も含めて、「世界中のみんなが一つになることを目指す」イベントという意図があって採り入れたものと考えていただければと思います。
ーー「桃鉄ワールド」はコロナ禍で控えていた海外旅行を疑似体験できますが、どのように楽しんでもらいたいと考えますか?
岡村SP:海外旅行気分を味わってほしいと思います。
日本のみなさんにはなじみがない地名がたくさん出てくると思いますが、「こんな観光名所があるんだ」「この都市はここにあったんだ」など、新しい発見をぜひしてほしいです。
監督の桝田さんは、オリンピックの開会式で入場する国や地域に対して、「桃鉄で行ったことがある」と親近感を持ってほしいとおっしゃっていました。
どこにあるとか、何が名産だったとか、すこしでも分かるようになると、世界の都市の見方が変わるんじゃないかなと思います。
ーー今作で気になったのは、ゲーム冒頭のローディング画面です。「本作は地球上のすべての都市が線路や空路でつながっている平和で自由な世界が舞台です」というメッセージが出てきますが、これまでにはなかった演出かと思います。世界情勢が不安定な現代を意識しているのでしょうか?
【ローディング画面のメッセージ】
本作は地球上のすべての都市が線路や空路でつながっている平和で自由な世界が舞台です。プレイヤーはその路線をつかってよりよい未来を創ろうとしている電鉄会社の社長さんたちです。
岡村SP:実は今回の作品に限らず、「桃鉄」では昔からスタッフロールなどに「毎日が桃太郎電鉄のような平和な日々でありますように」という、シリーズの原作者・さくまあきらさんのメッセージが表示されています。
作品によっても異なりますが、たとえば前作の「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」では100年(最長期間)プレイしないと出てきません。なかなか見られないメッセージではあったのですが、その想いは「桃鉄ワールド」でも一緒です。
むしろ「ワールド」こそ、平和な日々でありますようにという「桃鉄」の願いを反映させたいと思い、作っていました。
ーー今回ローディング画面に新たにメッセージを表示したのは、なぜですか?
岡村SP:我々は(世界のさまざまな問題について)考えずにゲームを制作しているのではなく、きちんと考えていると伝えたかったこともあります。
「桃鉄ワールド」の制作が決まったときから、我々も相当悩んできました。そもそも世界に対して、僕ら自身もよく分かっていなかった部分があったからです。
世界には様々な問題が起こっている国や地域があると理解していますが、どこまで踏み込めるのか。
外務省のホームページに書いてある通りに世界地図を再現すればいい、というものでもありません。
日本の常識が世界中で通用するわけではないのだろうと考え、きちんと調べました。
冒頭のメッセージなどを踏まえてゲームをプレイしていただければ、そういった背景も、プレイヤーの皆さまに伝わるのではないかと思います。
ーー様々な考えがある中で、どのように判断されて制作を進めたのでしょうか?
岡村SP:有識者の方々や海外のグループ会社のスタッフと長い時間をかけて協議をし、判断しました。
我々は政治的な意向を持っているわけでも、特定のポジションを取るわけでもなく、「毎日が桃鉄のような平和な日々でありますように」という願いをいかに伝えるかを大切にしています。
いろんなご意見・考え方を持っていらっしゃる方がいらっしゃるのは重々承知の上で、可能な限りフラットな表現を考えました。
例えば、国や地域の旗を立てるか立てないか。結果的にいくつかの都市は、旗を立てないという選択をしました。
今回、国や地域の旗に関しては「日本旗章学協会」の苅安望さんに監修していただき、ゲーム中に表示される旗に関する説明文も書いていただきました。
こういったことについても、文化・民族的な背景などから様々な考えや意見があります。ゲーム内の表現に対しても同様で、色々な考え方があるからこそ、「桃鉄ワールド」の世界が唯一正しいわけでもないと思います。
なぜこのような表現にしたのかも含めて、プレイヤーが自分なりに考えを巡らせ、世界を学ぶ一つのきっかけになってくれるとうれしいです。
ーーサブタイトル「地球は希望でまわってる!」もポジティブなメッセージです。
岡村SP:希望は、平和という言葉に近い。
紛争だけでなく様々な問題が起きている中で、平和であってほしいというのは「希望」ですよね。
冒頭のメッセージにもあるとおり、今作は平和で自由な世界が舞台です。「こんな世界になったらいいな」と希望を持っていただけるようなゲームになっているとうれしいです。
ーー「平和なゲーム」なのに貧乏神が出てきたり、スリにあったりします。
岡村SP:昔から「桃太郎電鉄は平和なゲームか?」とはよく言われますが、貧乏神やスリの銀次も含めて僕は平和なゲームだと確信しています。
前作「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」では、SNSでものすごくゲームのプレイ動画の配信がありました。今回の「桃鉄ワールド」でも顕著で、多くの方がプレイを楽しんで、その動画をネットで配信してくれています。
「桃鉄」をやっていなくても、配信を見て楽しんでいた方もいました。
配信を見ていると、プレイしている方がすごく笑っているんですよ。みんなとても盛り上がっていて、すごく笑顔が多かった。
「毎日が桃太郎電鉄のような平和な日々でありますように」の「平和な日々」とは、貧乏神をつけられて「くそー」と悔しがることも含めて、プレイする方々の笑顔があるということなんじゃないかなと、僕自身は思っています。
楽しくゲームをして、みんなで笑い合えるような世界であってほしい、というさくま先生の想いがこもったメッセージなのではないでしょうか。
「桃鉄」の「平和な日々でありますように」という願いは、僕にとってはものすごく腑に落ちる表現なんです。
ーー12月で35周年を迎えた「桃鉄」ですが、プレイするユーザーの期待に変化はあるでしょうか?
岡村SP:みんなが集まって遊ぶ定番のパーティーゲームであると同時に、最近では子どもたちにも伝えていきたいと思ってもらえているようです。
前作「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」の累計販売本数が400万本を超えたこともあり、今作も大変多くの方に期待していただいたという実感がありました。
前作は、「子どもと一緒に遊びたい」という理由で購入された親御さんがたくさんいらっしゃいました。
僕は30年ゲームを作っていますが、「親が子どもと遊ぶために買うゲーム」って、あまり聞いたことがありません。僕自身もそうでしたが、親に「勉強しなさい」「ゲームなんかしちゃダメ」と言われても子どもはこっそりゲームで遊ぶ、というイメージがあったので驚きました。
35年前からあるゲームですから、小さいころ「桃鉄」で日本の地理を覚えたという方々が、大人になって、自分が楽しんだものを子どもに届けたいと思ってくれているのかもしれません。
「桃鉄ワールド」について発表したときも、SNSでは「世界の地理を覚えられるんだ」という反響をたくさんいただきました。
勉強しようと思って「桃鉄」を遊んでいる人はあまりいないと思うのですが、遊んだ結果として覚えていったという体験を、子どもたちにも味わってほしいということなのでしょう。
我々作り手も、きちんとその期待に応えた娯楽のあり方を考えていかなければと思っています。