連載
#31 親子でつくるミルクスタンド
ドバイで愛されるラクダミルク コブの中身は水分?砂漠に適した生態
観光牧場を訪ねると…
もともとは砂漠の漁村だった中東の都市・ドバイは、ラクダと深いつながりがあります。今の乳製品の主力は「牛乳」に変化してきているものの、今でもスーパーにはさまざまなラクダミルクが並び、ドバイの人びとに愛されています。現地の観光牧場を訪ねてみました。(木村充慶)
アラブ首長国連邦(UAE)の都市・ドバイのお土産屋にいくと、必ずと言っていいほどラクダがあしらわれたグッズがあります。
そして、スーパーマーケットにはずらっとラクダミルクが並びます。
砂漠ツアーに行くと、ラクダを見ることができますが、実際にはどのように飼われているのでしょうか。
ドバイの街で見かけることはありませんでしたが、車に乗って街を離れたらすぐにラクダを発見。幹線道路の脇に数頭のラクダがいました。
何もない広大な砂漠でラクダを見かけると、野良ラクダと勘違いされる方もいますが、ほとんどは飼われているラクダだといいます。
ラクダ飼いたちは朝の搾乳をした後は牧場から出し、昼間は砂漠に放牧しているそうです。
ドバイ近郊の地図を見ると、ドバイ市街から車で30分〜1時間くらいのエリアにラクダの牧場が点在していることがわかりました。
ラクダの飼育の様子が知りたくなり、近郊にある牧場に行きました。
外国人向けの観光牧場では、ラクダのほかに、牛、ヤギ、羊、鳥など様々な動物が飼育されていました。
肝心のラクダは20頭以上おり、訪問客がふれたり、餌をあげたり、乗ったり、色々な体験ができるようになっていました。
飼われているのは「ヒトコブラクダ」という種類です。背中にどんと一つ大きな山のようなコブがあります。
ラクダは、こぶの数で大きく2種類に分かれます。
ドバイをはじめとした中東、アフリカにいるのは「ヒトコブラクダ」で、モンゴルのゴビ砂漠などにいるラクダはふたつのコブがある「フタコブラクダ」です。
砂漠で暮らせるイメージから、その特徴的なコブに「水分が蓄えられているのでは?」と考えている人も多いかもしれません。
実はコブは脂肪でできていて、エネルギーを蓄えたり、脂肪分が直射日光を遮ってからだの温度調整をしやすくしたりしています。
そのため、ラクダは数日間、食べなくても平気だそう。コブをさわると想像以上に硬く、水分ではないことがすぐに分かります。
コブのなかに水が蓄えられないとすると、ラクダはどのようにして乾燥した砂漠で生存に必要な水分を確保しているのでしょうか。
まずは、飲める時に一気に飲んで、体内で水分をキープできるとされています。
生息しているのが乾燥地帯なので、水分はこまめにとれません。そこで、ラクダはオアシスなどで一気に水を飲みからだに蓄えます。
牧場主によると、100リットル以上の水を一気に飲むこともあるそうです。
ラクダには胃が三つありますが(第3胃と第4胃を分けて四つとする意見もありますが、差がほとんどないため三つとするケースがほとんどだそうです)、第1胃が大きく、その中に飲んだ水をたくさん蓄えられます。
しかし、胃の中でずっとキープするわけではなく、ラクダは血液中にたくさんの水分を蓄えています。
牛やヤギといったほかの動物では、大量の水分が入ってしまうと血液が希釈され、赤血球が壊れてしまいます。
しかし、ラクダは血液の水分量が急激に増えても耐えられる構造をしているのだそうです。
さらに、ラクダの平熱は37度ほどですが、42度になるまで汗をかかず、内臓の節水能力もたけており、排泄物の水分量も少ないそうです。
水分を蓄えるだけでなく、節水機能も兼ね備えているからこそ、乾燥した砂漠で生きていけるのです。
ラクダはミルクの利用にも秀でているそうです。
牛と比べてやや小ぶりな乳ですが、1頭あたり1日平均2~5kgくらいが搾乳されるといいます。10kgほど出る場合もあるそうです。
さらに、ラクダの寿命の長さも利点なのだそうです。牛の寿命はだいたい10年前後ですが、ラクダの寿命は30歳くらいです。
そしてラクダは5歳くらいから繁殖できるようになり、妊娠は1年おきに可能。ざっと数えても、12回ほど搾乳する機会があることになります。
今では、中東で飲まれるミルクも、メインは牛乳になってきています。
しかし、砂漠に適した生態を持ち、長く生きて何回もミルクを搾らせてくれる――というありがたい存在のラクダは、今でも中東の生活に根づいて愛されていることを感じました。
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