連載
#18 イーハトーブの空を見上げて
1世紀を超え、花巻に根づいた「人形歌舞伎」 世界に誇る豊かな文化
文化とは何か。岩手ではそれを間近に見ることができる。
岩手県花巻市の山あいにある東和町で、一世紀以上続く「倉沢人形歌舞伎」が開かれた。
倉沢人形歌舞伎は、操り手が歌舞伎の舞台で人形を動かし、義太夫節に合わせてセリフを語るのが特徴だ。
「三番叟(そう)」や「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」、「景色」が演じられるたびに、県内外から詰めかけた約100人の観客から、割れんばかりの拍手が送られる。
1894年、創始者である菅野常次郎が17歳のときに仲間を集め、自作の人形と道具を使って人形芝居をしたのが始まりとされる。
その後、戦争や仲間の死別で衰退した時期もあったが、常次郎が88歳で亡くなった後も、地域の住民らの手によって脈々と引き継がれてきた。
現在は保存会の会員11人によって演じられている。
公演場所となっている「伝承館」は、常次郎自らが建てた家をそのまま使用している。
木造の古民家に、軽快な三味線の音と義太夫節、そして操り手たちのセリフが響く。
公演を見た花巻市の70代の主婦は「素晴らしい。これほどまでに豊かな文化を、花巻に留めておくのはもったいない。ぜひ世界に発信してほしい」と絶賛。
保存会の菊池峰雄代表(67)は「お陰様で町内外から公演要請があり、活動に弾みがついている。今後ともご支援をいただければ」とにこやかに話す。
文化とは何か。
それはおそらく、個人の「大好きだ」という熱狂が他人に伝播し、柿のように熟しては落ち、大地や世代に根付いたものなのだろう。
(2023年11月取材)
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