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#16 イーハトーブの空を見上げて

「泣く子はいねぇが~」見た目は鬼のようだけど…ナマハゲって一体?

男鹿真山伝承館で行われているナマハゲの実演
男鹿真山伝承館で行われているナマハゲの実演
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

「ナマハゲ」とは何か?

岩手県から奥羽山脈を越えて秋田県に出張した。選挙関連の取材だったが、ついでに足を運びたい場所があった。

秋田県北部で日本海に突き出た男鹿半島。冬の伝統行事「柴灯(せど)まつり」が開かれる真山神社の宮司に「ナマハゲ」とは何かを聞きたかった。

それはやはり「鬼」ではないという。宮司の武内信彦さんが教えてくれた。

「形相は鬼のようですけれど、山から下りてくる神様です。地元の人々の悪事や災難を追い払い、『みんなが健康で一生懸命働くことで、良い年になるんだよ』と知らせてくれる、ありがたい神様なんです」

大みそかの伝統行事に

ナマハゲが最初に文献に出てくるのは江戸時代。そこには以前から行われていたものとして伝えられているため、男鹿半島で農耕が始まった弥生時代からのものとして考えられているらしい。

大正時代までは旧暦の小正月に行っていたが、昭和のはじめごろには新暦の小正月になり、今では大みそかに行われている。

「ここでは古くから農業を営むなかで、自然を神様として祈りながら、良い稲作ができるようにとお願いしてきた。

家族みんなが力を合わせて1年間の農作業に当たると良い年になるんだよと、そういうものを伝える行事だったんです。

ところが戦後になると、だんだん子どもたちが怠けないように、家の手伝いをするようにと、そういう教えが見受けられるようになってきた。

『泣く子はいねぇが~』という有名なセリフがその典型ですね」

コロナ禍も変わらぬ存在

そのナマハゲも新型コロナウイルスで大きな影響を受けた。

「大みそかのナマハゲは家々を訪れますし、その家には故郷に帰省中の方もいる。

ナマハゲがコロナに感染したり、感染させたりする恐れがあったため、2020年は約130集落のうち、半数の集落が大みそかのナマハゲを中止しました」

一方で、コロナでナマハゲとの向き合い方は変わりましたか、と問うと、宮司は笑って首を振る。

「いえ、全く変わっていません。もともと、ナマハゲというのは悪いモノを追い払う、という意味があります。

いつの時代も、ナマハゲは私たちを守ってくれる、ありがたい存在だと信じています」

(2021年10月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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