YouTubeやテレビ、書籍、イベントとマルチに活躍するクイズ王・伊沢拓司さん(29)。編集長として立ち上げたWebメディア「QuizKnock」は7周年を迎えました。「楽しいから始まる学び」を基本理念に、知的なコンテンツを発信し続けてきたなかで感じる変化とは。(インタビュー全3回の1回目)
ーーWebメディア「QuizKnock」 が10月に7周年を迎えました。
伊沢拓司さん(以下、伊沢):この7年、完璧なプランがあったわけではありません。その時々で目標があり、基本的には変わり続けてきました。その上で共通して大事にしてきたことは、「知へのリスペクト」です。先達たちが積み上げた知識へのリスペクトや、「知っているってかっこいい」という考えはすごく大事にしてきました。
「知へのリスペクト」を忘れたら僕たちのコンテンツは成り立たない。「楽しいから始まる学び」という現在のコンセプトは、そんな気持ちでやっているうちに自然と出てきて、我々の目指す共通の理念になりました。
「知的であること」は僕たちの差別化要因でもありました。少なくとも集まったメンバーはみんな、知への憧れを持っていたんです。
ーーメディアとしての方針に変化はありますか?
伊沢:教育が軸であることはブレていません。Webメディアを立ち上げた当時は、情報氾濫の中にいる若者に能動的な知識の摂取を促すところがスタート地点でした。クイズは問いかけるので、それが可能になるんじゃないかなと。
今や目指すところはどんどんと大きくなり、楽しいコンテンツを見ているうちに学びへのポジティブな気持ちを醸成していければいいな、と思うようになりました。それを言語化したのが「楽しいから始まる学び」であり、それを具体的なコンテンツにどんどんと落とし込んでいるというのが現状です。
当初のターゲットは高校・大学生がメインで、上は30代ぐらいまで。Webメディアはある程度のリテラシーが必要なので、小学生は考えていませんでした。ただ、YouTubeを始めたことで小中学生にも見てもらえたので、動画をやってよかったですね。テキストを読む文化がない子どもたちにも選ばれるメディアになったと思います。
QuizKnockのコンテンツのファンになってもらいたいと考えたとき、動画はとっつきやすい。YouTube経由でWebメディアに来てくれ、Webのファンになってくれる子もいます。
SNSでWeb記事のリンクをシェアすることを、若い世代はあんまりやらないのかなと思うんですが、動画なら人に見せることがありますよね。一方で、上の世代だとWebは親しみやすい場でもあるので、うまいこと使い分けしたいと考えています。
WebとYouTubeではペルソナ(架空のユーザー像)が全く違いますし、それぞれのメディアにあった形で「楽しいから始まる学び」を出し分けていくべきだと思います。
ーーWebとYouTube、どんな風にリンクさせているのでしょうか?
伊沢:YouTubeはかなり受動的にクイズを摂取するメディアですが、Webは自分で答えを選択でき、能動的に味わえるのが一つの魅力になっています。
WebでYouTubeの名場面企画をやったり、動画に出ているメンバーが頻繁にWebに登場したりする、ファンコンテンツのようなものも提供しています。Webコンテンツを読む習慣ができた子たちに、より能動的にクイズを解いてもらうようになっている。分業ができているんです。
相互に行き来できる、というのがやはり複数のメディアを持つ大きな利点ですし、特にWebコンテンツに慣れていない人にもWebを見てもらいたい気持ちは強いです。Webにどうつなげるかは常に意識をしてきた部分です。もっと触れたい、と思わせるほどにいいコンテンツを作る、というのが、究極的には大切な仕組みにはなってきますね。
ーー動画でも視聴者自らクイズの答えを考えると思いますが、それだけではなくWebでもクイズを楽しんでほしいという思いがあるのですか?
伊沢:テキスト記事だけを読む人もいますし、全員にWebとYouTubeの両方を見てほしいとは思いません。
ただ、Webはゆっくりクイズを解くことができる。動画は基本的に制作者のペースで時間が流れますが、Webはのんびり読むことも速く読むこともできるし、問題を解くときにじっくり考えて選択しても、考えずに選択してもいいので、そのペース感を読者に委ねられることは魅力です。
作り手としても、動画は即興性やその場で出た言葉が大事になりますけど、Webは練り込めます。「ここで何を書いたらおもしろいか」を考えることができる。その分いいわけはできないですけど、ここでしかできないことが確実にありますね。
ーーQuizKnock立ち上げ当時から「正しい情報」を届けることを意識していたと思いますが、受け手側に変化はありますか?
伊沢:QuizKnockの読者も視聴者も、学びに対してポジティブになってきたり、おもしろい情報に対して敏感になったりしていて、変化をすごく感じます。
Web記事でクイズを解く人もそうですが、勉強に特化した「QuizKnockと学ぼう」チャンネルでやっていた生配信でも、みんなが勉強の進捗を報告してくれたり、QuizKnockを見てやる気になってくれたりする人が増えたので、人の習慣を変えられたという実感はありますね。
「正しい情報」についてのリテラシーがどうかまではわかりませんが、我々自身がそれを意識していることは常にアピールしています。
ーーなぜそこまで影響を与えられたのでしょうか?
伊沢:習慣的に成功体験を得られたことが大きいと思います。「この知識楽しいじゃん」という知的な出会いや成功体験が積み重なっていくと、「ほかのところで勉強してもうまくいくかも、おもしろいかも」というポジティブなフィードバックになります。QuizKnockは相当コンテンツを出しているので、成功体験を重ねる機会が多いんだと思います。
ひとつのコンテンツに入れられる学びの数には限りがあって、たくさん入れすぎてもおもしろくない。限りがあるならばたくさん動画やWebコンテンツを作らないといけない。何度も何度もポジティブなフィードバックを得てほしいから、コンテンツの数はこだわってきたポイントの一つですね。
ーーQuizKnockとして明確なコンセプトがあるとのことですが、入れ替わりもある制作チームのメンバーに浸透させるために何か意識してきたことはありますか?
伊沢:いま、アルバイトも含めQuizKnockには250人くらいいますが、コンテンツを作るメンバーは多くの場合、QuizKnockのファンとして入ってきています。コンテンツを見る中で構造を理解してくれたり、「楽しいから始まる学び」像があったりする人が多いわけです。
コンセプトとは方向性に迷ったときのためにあります。これはOKかな、NGかなと迷ったときは、「楽しいから始まる学び」かどうかで判断すればいいんです。
基本的にQuizKnockのファンとしてQuizKnockらしいコンテンツを作れば、それは「楽しいから始まる学び」です。意思統一というのは、これまでのコンテンツの積み重ねがなせる技なのかもしれません。
QuizKnockのファンではなかったとしても、新メンバーには過去動画のインプットはやってもらっています。過去の動画の中にはヒントや答え、我々が体現してきたものがあるので、そこは大事なところです。
それと、日々新しい何かが生み出される期待も、チーム内外にあります。ここはまだまだ枯れてないな、QuizKnockにいるとおもしろい景色が見られそうだなという期待感は強いんじゃないかと思いますね。
年々、チームの「組織力」で勝負するようになっている気がします。うちの会社はカリスマティックではなくて、「誰が精神的支柱か」と言われると、いないんです。
QuizKnockというブランドそのものが精神的支柱だし、過去の作品がコンテンツ制作チームに流れる血となり、支柱になっている。カリスマでもっている組織ではなくて、各部門が自立する組織であるというところが強みで、我々の魅力だと思います。
<伊沢拓司さん>
1994年生まれ。東京大学経済学部卒業。『高校生クイズ』で史上初の個人2連覇を達成。2016年に東大発の知識集団・QuizKnockを立ち上げ、現在YouTubeチャンネルは登録者数210万人を突破。2019年に株式会社QuizKnockを設立し、CEOに就任。『東大王』『冒険少年』などのテレビ番組にレギュラー出演するほか、全国の学校を無償で訪問するプロジェクト「QK GO」を行うなど、幅広く活動中。