連載
#13 イーハトーブの空を見上げて
猫とはいったい何者なのだ? 〝猫神様〟が神社でまつられる理由
近所に珍しい「神様」がいると聞いて、一関市の蚕養神社を訪ねた。
JR花泉駅から南西に1.2キロ。社殿はなく、その跡地に大正時代に奉納された高さ約90センチ、横約1メートル、幅約60センチの石造りの「猫神様」が祀られている。
猫の石像としては国内最大級らしく、全国から猫愛好家がやってくる。
なぜ猫なのか?
一関市の文化財調査委員・山川純一さんによると、旧花泉町では昭和初期まで養蚕が盛んで、蚕養神社は羽養権現社を前身として明治中期に創建された。
その際、蚕をネズミから守る「神様」として石造りのネコが祀られたのではないかという。
「養蚕が盛んだった頃には、花泉駅から社殿まで参拝の列が続いていたという伝承もあります」
社殿は東日本大震災で激しく傷み、2012年に取り壊された。
神社内には猫の木像や彫刻などが多数あったが、それらは現在調査に携わった宮城県村田町の歴史みらい館で保管されているという。
歴史みらい館に出向くと、館長の石黒伸一朗さんが倉庫に保存されている猫の木彫りや墨絵などを見せてくれた。
「養蚕の神様として猫をまつる風習は岩手県の南部から福島県北部の広い範囲に広がっています」と石黒さんはどこかうれしそうな表情で言った。
「でも、あれほど大きな猫の石像は本当に珍しい。研究者たちも驚いています」
猫よ、一体お前は何者なのだ?
人間の悲しみや寂しさを癒やす愛玩か?
それとも森羅万象を司る神か?
(2021年9月取材)
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