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世論の4割「提供したい」なのに…なぜ日本の臓器移植は増えないの?
患者や高校生、医師たちがトーク
国内ではおよそ1万6千人が臓器移植を希望して待っていますが、昨年度の移植件数は500件ほど。大阪で開かれた臓器移植のイベントで、「なぜ移植が増えないのか」をテーマに、高校生や移植を受けた大学生、医師たちが考えました。(withnews編集部・水野梓)
大阪女学院高校3年生の小泉茉子さんは、トリオジャパンの青山竜馬さんの講演を聴いたことで、移植医療に関心を持ったそうです。
青山さんの長女・環ちゃんは、2016年にアメリカで心臓移植を受けました。
当時、国内の子どもへの移植はわずか4件で、やむを得ず3億円を超える渡航費用を募金活動で集め、海外で移植を受ける道を選びました。
今も、多くの患者が移植を待っており、患者が子どもの場合は保護者が病室に泊まり込んで付き添うケースも多くあります。
小泉さんは「移植を待っている患者さんがこんなに大変だということは、話を聞くまで知りませんでした」と言います。
「難病の子にとって救いの手となるのが移植ですし、すごい医療技術だと思います。私たちが何か応援できることがないかな、と考えるようになりました」
そんな経緯で、小泉さんたち大阪女学院高校の生徒たちがトリオジャパンのイベントにボランティアで参加することになりました。
5歳の時に心臓移植を受けた大学1年生の横山由宇人さんは「移植を受けて13年。当時のことは全然覚えていないんですが、写真を見返すと大変だったのかなと思います」と話します。
拡張型心筋症と診断され、助かる道は心臓移植だけでした。
日本での移植数が今よりもさらに少なかった2010年、支援者たちが渡航費用の募金を呼びかけ、アメリカで心臓移植手術を受けました。
「中高生時代は、病気をからかってくる人も、募金の仕組みを理解していなくて『余ってるんじゃないの』と言う人もいました。もっと臓器移植について知ってもらうことが大切だと思います」と指摘します。
日本では、なぜ臓器移植がなかなか増えないのでしょうか。
2021年度の世論調査では、「仮に、自分が脳死と判定された場合または自分の心臓が停止し死亡と判断された場合に、臓器提供をしたいと思うか」と尋ねたところ、39.5%が「提供したい」「どちらかといえば提供したい」と答えています。次いで「どちらともいえない」の回答が35.8%です。
一方で、臓器移植の現場では、患者の救命にあたっていた救急医が、その家族に臓器提供の選択肢を切り出すことが難しいという声も上がります。
また、医療現場の人手不足などで「臓器移植の体制が整っていない」という医療機関も多く、「提供したい」という思いが臓器移植までつながっていない現状があります。
トークイベントに参加した衆議院議員の池下卓さんは「臓器提供の選択肢について、救急医が説明することが難しいと伺っています。代わりに、日本臓器ネットワークなどの専門家が説明するかたちで法改正できないかどうか、検討しています」と話します。
実際に韓国では、救命にあたった医師ではなく、別の専門家が説明するシステムに切り替えたことで、ドナー数が増えたという成功例もあります。
では、より多くの人に臓器移植について知ってもらうにはどうしたらいいのでしょうか。
トークイベントでそう尋ねられた小泉さんは「教育現場で臓器移植を教えることが大切だと思います」と指摘します。「子どもが学んだことで、家に持ち帰って家族と話すことができるのではないでしょうか」
横山さんは「自分の病気の経験も発信していきたいと思います。皆さんには、今日のイベントで知ったことを、身近な人に話して共有してほしいです」と語りました。
小児科医の坂口さんは、「大人も含めて、身近な人と『命って何か』を考える機会を持ってほしいと思います。そんな意識を持つことが、病気と向き合う患者さんへの応援につながります」と呼びかけました。
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