連載
#16 ナカムラクニオの美術放浪記
自由に過ごすヘルシンキの図書館 木の温もりが心地よい〝秘密基地〟
ナカムラクニオの美術放浪記
「ついに未来が、やってきたんだな」
フィンランドの首都ヘルシンキの中央駅の近くにオープンした図書館「Oodi(オーディ)」を訪ねたときにそう感じた。
ここは、フィンランドの独立100周年を祝い、国民への贈り物として建設された複合施設でもある。
洗練された建築デザインだけでなく、図書館という概念を拡張している「機能性」が素晴らしいと思った。
建物は、まるでノアの方舟のようだ。入口を抜けると、まず驚くのは柱がない。
滑らかな曲線を描く木材で建物が支えられた最先端の造形。巨大な鯨に飲み込まれたような感じだった。
3Dプリンター、レーザーカッター、大判のポスターを出力できるプリンター、コンピューターなどが並び、人々が何かを制作したり、仕事をしたり、自由に楽しんでいる。
ミシンのコーナーでは、皆が自分たちの洋服を楽しそうに作っていたのが印象に残った。
レコーディング機材も設備された音楽スタジオでバンドの練習をする若者もいた。機材は、スタッフが操作をサポートしてくれる。
キッチンスタジオは、料理教室や撮影もできるし、食事会に使ってもいい。カフェ、映画館などもある。
メンバーカードなどをつくる必要もなく、ネット上で登録したアカウントがあれば、予約することも可能だ。もちろん市民は、無料で利用できるし、観光客も自由に滞在することができた。
約10万冊の蔵書が並んでいるが、背の低い本棚しかないため、圧迫感はない。日本のように壁一面を本で飾る文化と真逆の発想だ。
何よりも驚いたのは、返却された本がすべてロボットによってジャンルごとに分類され、書架の並ぶ3階まで自動で運ばれていることだった。おそらく近い将来、世界中の図書館でもこのシステムは導入されるだろうと思った。
それでもデジタルだけでなく、紙の本という存在が愛されていて、素晴らしいと思った。まさに「本の天国」だ。
元々「図書館利用率が高い国」としても知られるフィンランド。新しい時代の図書館の理想の形態を探し求めた結果、「情報」を自分たちでカスタマイズできるリビングルームのような存在になったのだと思う。
本を読む空間というよりは、巨大な部室のようでもあり、地下の秘密基地のようでもある。
柔らかな自然の光が降り注ぎ、木の温もりが心地のよい空間で、自由に創作したり、昼寝したり、遊んだりもできる。
「人々が考える究極に幸せな空間って、まさにこんな感じなのかも」と思った。日本の図書館が、このような形へと進化するのは、あと何年くらいかかるのだろうか?
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