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〝当たり前〟じゃなかった「子どもの手の届かないところに」の難易度

成長とともに「子どもから目を離さない」の難易度は日々、上がっていくが……。※画像はイメージ
成長とともに「子どもから目を離さない」の難易度は日々、上がっていくが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

子どもの事故防止の注意喚起では、しばしば「子どもの目に触れない場所や、手の届かない場所に」「子どもから目を離さないように」と言われます。しかし、当事者になってみると、子どもの成長とともに、その難易度が日々、上がっていくことに気づかされます。子どもの事故を防ぎ、生活を守るにはどうすればいいのでしょうか。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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日々できることが増えていく

しゃべる、走り回る、背伸びをする、手を伸ばす、つかむーー。1歳を過ぎて成長が著しい我が子は日一日とできることが増えていくため、良い意味でも悪い意味でも驚かされることが多くなってきました。

この前びっくりしたのは、私がトイレに入っていたときのこと。うちの子はパパのことも後追いしてくれるのですが、さすがにトイレはゆっくりしたいので、妻に見守りを頼み、上手く気を逸らして尾行を撒くことになります。

たいていは私の一時不在を悟った子どもの泣き声をドア越しに聞くことになるのですが、そのときは違いました。

ドタバタとトイレのドアの前にやって来る足音が聞こえたと思ったら、なんとレバーがゆっくり回り、ドアが開いていき、そこには子どもの無邪気な笑顔が。えっ、あなたドア、開けられるの……。危険はないと判断した妻もニヤニヤしています。

別の機会に妻に同じことをしているところを見かけたときには、よいしょと背伸びをして、両手でレバーにしがみつき、体重をかけてレバーを下ろして、レバーを握ったまま、とてとてと後ずさりしていました。「すごいよ」と声をかけたら、妻には「見てないで止めてよ」と言われてしまいましたが、そこはお互い様な気も。

ヒヤリとするシーンも増えました。例えば、我が家の大きめのダイニングテーブルの真ん中のあたりに置いておいた大人用のマグカップを取ろうと、椅子に足をかけてよじ登り、手を伸ばしていたのです。慌てて止めなければ、ほとんど届きそうでした。

「小さい子どもの手の届くところに危ないモノを置かない」は、親としては当たり前のことだと思っていました。でも、子どもの動作はしばしば想定を超えてくるので、「手の届くところ」の範囲がこんなにも広がると対策がどうしても後手に回ります。

じゃあ、幼児用サークルで囲った範囲に危ないモノを置かなければいいのでは、とも考えて試みたものの、前述のように後追いも始まっているので、狭いところに閉じ込められるとそれだけで泣き叫びます。これ、どうしたらいいんでしょうか。
 

家庭内で起きるいろんな事故

消費者庁の「子どもを事故から守る! 事故防止ハンドブック」は「子どもの身の回りの環境を整備して、対策を立てることで、防げる事故があります」としています。まさに「言うは易し」と感じなくもないですが、ひとまずどんな危険があるのか、具体的に知っておくことは大事でしょう。

令和3年(2021年)の「人口動態調査」によれば、子どもの死亡原因の中で「不慮の事故」は0歳で4位、1〜4歳で3位、5〜9歳で2位と、上位になっています。事故の発生場所は、0歳、1〜4歳では家庭内がほとんどを占めます。

また、2016〜2021年までに5年間で418件の不慮の窒息事故(不慮の事故全体は1229件)が発生しており、ミルク等胃内容物、⾷物、⾵船等その他の物体による合計222件の窒息が発生しているということでした。

誤飲による窒息が起こりやすいのは「包装フィルム、シールなど」。誤飲では窒息以外にも、「医薬品、洗剤、化粧品など」「たばこ、お酒など」「ボタン電池、吸水ボール、磁石など」により、「重大な症状を引き起こすおそれがあります」とします。

同庁はこのようなモノについて「子どもの目に触れない場所や、手の届かない場所に保管しましょう」とします。

家庭内では窒息以外に「浴槽に転落し溺れる」「洗濯機、バケツや洗面器などによる事故」などの水まわりの事故、「お茶、みそ汁、カップ麺などでのやけど」「電気ケトル、ポット、炊飯器でのやけど」「調理器具やアイロンでのやけど」「暖房器具や加湿器でのやけど」「ライター、花火によるやけど」などやけどの事故も。

「大人用ベッドやソファからの転落」「椅子やテーブルからの転落」「階段からの転落、段差での転倒」にも警戒を呼びかけています。

このような事故については「子どもから目を離さないようにしましょう」「危険があることを教えましょう」などと同庁。

しかし、こうして並べてみると、やはり「言うは易し」で、当事者としてはとても難易度の高いことだと感じざるを得ません。
 

危険を教えながらできる限り

2007年と少し古い調査(※)になりますが、産業技術総合研究所によると、30代前半の夫婦二人の家庭で、家の中にあるモノ(食品を除く)は1118種類、4343個ありました。

※事故サーベイランスシステムに関する研究 : 日常モノデータベースとライフログとの情報統合による危険の個別可視化(デジタルヒューマン)

乳幼児が誤飲してしまう大きさの目安である4cm未満のモノは80種類(7%)、511個(12%)でした。また、子どもがいる家庭では、さらにモノの数が多くなることがわかっています。

「子どもの目に触れない場所」と言っても、好奇心旺盛な子どもは自ら積極的に隠されているモノを見つけ出してしまいますし、「手の届かない場所」は例えばジャンプを覚えて急にリーチが増したりするため、いずれも親の想定を超えてきます。

こうしたモノに気をつけていても、例えばテーブルの角に頭をぶつけたり、ドアのちょうつがい部分に指を突っ込んだりなど、しまいようがないモノによる危険もあります。途方もなさすぎて呆然としてしまいそうです。

「子どもから目を離さないように」も、例えばワンオペで家事をしている間、一瞬たりとも……というのは現実的ではないのでは、と感じます。

救いもあります。そろそろ「ダメ」と教えたことがわかるようになってきたので、真剣なトーンで「ダメ」と言うと、6割くらいの確率で止めてくれるからです。

ただ、こちらの真剣なトーンが面白いと感じるときもあるようで、そんなときは「ダメ」と言われるとむしろもっとその行動を取りたがり、子育ての難しさを痛感させられることに。

結局、対策は基本的なことしかありません。子どものいる部屋はできるだけ広いスペースを幼児用サークルで囲い、その中には子どもにとって危険なモノを入れないようにする。サークルからどうしても出たがったら、親ができるだけ張り付いて見守る。

一瞬の隙を突かれたときのために、大人用のモノは棚のなるべく上の方に置いたり、ロックのかかる引き出しに入れたりする。ドアや窓、洗濯機などには考えられる限りクッションテープを貼ったり、隙間防止カバーを付けたり、チャイルドロックをかけたりする。

危険について学んでくれる子どもの成長に期待しつつ、「できるだけ」「なるべく」「考えられる限り」で対策をしたら、あとは日々の変化に対応しながらどっしり構えないと、生活を、ひいては子どものことも守れない――最近ではようやく、そんな境地にたどり着きました。
 

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