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連載

#10 イーハトーブの空を見上げて

江戸の火事がきっかけ?300年続く祭 町に響くかけ声「ヘーヨー」

約300年の歴史を誇る伝統行事「日高火防祭」
約300年の歴史を誇る伝統行事「日高火防祭」
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

「岩手県南部」と書けない理由は…

私が担当する地域・岩手県の南域は、表記の仕方が少しややこしい。

宮城県であれば「宮城県南部」と書いて問題ないが、岩手県だとそうはいかない。

廃藩置県で岩手県ができるまで、主に北域を「南部藩」が、南域を「伊達藩」がそれぞれ統治していたからだ。

つまり岩手県の南域を「岩手県南部」と書くと、それが岩手県の「北域」を指すのか、「南域」を指すのか、誤解を招いてしまうのである。

なので、新聞では「岩手県南」「県南」という表記を使用している。

約300年の歴史を誇る伝統行事

その岩手県南の主要都市・水沢で4月末、約300年の歴史を誇る春の伝統行事「日高火防(ひぶせ)祭」が開かれた。

藩政時代、水沢城主だった伊達宗景が江戸で暮らしたとき、あまりの火事の多さに驚いたことに端を発するお祭りだ。

水沢に戻った宗景は江戸のいろは組にならって、6町にそれぞれ町火消しを作った。

人々は「仁心火防定鎮」(仁心をもって火防定鎮す)の6字から各町に1字ずつ与えられた文字を消防の旗印として掲げ、街を練り歩く。

金や朱、碧色の彫り物で豪華に飾り付けたはやし屋台の数々。

そのひな壇には「お人形さん」と呼ばれる少女たちが日本髪姿で腰掛け、「ヘーヨー」という古風なかけ声に合わせて風情あるはやしを奏でる。

日暮れ時、ぼんぼりに照らされたいくつものはやし屋台が水沢駅前に集まってきた。

そろって楽曲を演奏する幻想的な「揃(そろ)い打ち」。

闇夜に漂う甘美な囃子の音とともに、岩手県南は短い夏の訪れを迎える。

(2023年4月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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