連載
樹齢900年の巨木「姥杉」止まらぬ衰え… 住民が希望を託したのは
岩手県中部の仙人山(882メートル)の登山道を歩くこと約1時間。
中腹に「姥(うば)杉」と呼ばれる推定樹齢900年の杉の巨木がそびえ立っている。
樹高30メートル、幹の周囲11.5メートル。古くは道の両脇に爺(じじ)杉、婆(ばば)杉と呼ばれる木があり、上部がくっついていたとされる。
現在は爺杉が枯れ朽ち、婆杉だけが姥杉になったのだそうだ。
かつては北上市と西和賀町をつなぎ、秋田で産出した金を平泉に運んだとされる「秀衡(ひでひら)街道」。
姥杉はその仙人峠を越える目印でもあった。
1982年に北上市の天然記念物に指定されたが、高速道路や物流が発達した今では、一部の登山客が仰ぎ見るだけの存在になってしまった。
地域の栄枯盛衰を見守り続けてきた巨木は昨今、衰えが激しい。
積雪や落雷で枝が折れることに加え、「姥杉の樹皮を患部に巻くと病気が治る」との迷信がはびこり、樹皮が乱暴にはがされるといった被害が相次ぐ。
地元の有志らは2001年、「きたかみ巨木の会」を立ち上げ、姥杉の回りにロープを張ったり、近くに市の天然記念物であることを示す案内板を設置したりして保護活動を続けているが、樹勢の衰えは止まらない。
山奥にあることもあり、修復には数千万円の費用がかかる。
2005年には姥杉の小枝を採取し、「姥杉2世」の後継木を作って近くの久那斗(くなと)神社の脇に植えた。
現在は約2メートルに育っているその若木は、しかし、地域のシンボルにはなりえない。
「それでもいいのです」と巨木の会の会長・平賀昭士さんは言う。
「姥杉は見る人に感動を与え続けてきた。この先、たとえ巨木が枯れたとしても、『2世が生きている』という事実が、我々に希望を与えてくれる……」
85歳の老人が祈るように言う。
「希望なんです。そう信じたいのです」と。
(2021年5月取材)
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