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〝薬でやせる〟は可能? 美容目的の処方も…飛びつくのは危険な理由

“薬でやせる”をうたう宣伝が盛んに行われているが……。
“薬でやせる”をうたう宣伝が盛んに行われているが……。 出典: Getty Images

目次

ネット上には“やせる”ための薬の情報が溢れていますが、果たしてそれは安全に使用できるものなのでしょうか。中にはまだ国内販売のメドが立っていない薬、目的外処方が横行する薬も。安易に飛びついてはいけない理由を説明します。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)

承認も販売のメド立たず

厚生労働省は今年2月、大正製薬が申請していたある薬について、国内での製造販売を承認しました。

この薬は内臓脂肪減少薬「アライ(一般名:オルリスタット)」。腸での脂肪の吸収を減らし、脂肪をそのまま体外に排出します。

約1400人が参加した海外の臨床試験では、偽薬を使った群の体重減少が1年後に平均2.3kgだったのに対し、アライを使った参加者は平均4.8kgでした。

1日3回食中~後に、運動や低カロリーな食事と組み合わせて服用。対象は18歳以上で、肥満症に至る前の段階を対象として想定しており、男性は腹囲85cm以上、女性は90cm以上で処方されます。脂質異常症や高血圧などの基礎疾患がある人や妊婦などは服用できません。

軟便になる、お尻から油が漏れやすくなるなどの副作用や、油にとけやすい脂溶性ビタミンが不足しやすくなる副作用があるとされます。

海外では古くからオルリスタットが承認されており、120mgカプセルが医療用医薬品として1997年にアルゼンチンで初めて承認。その後、欧米を中心に100カ国以上で承認されています。

さらに、医療用医薬品の半分の用量である60mgカプセルが一般用医薬品として2007年2月にアメリカで初めて承認。その後、欧州を中心に70カ国以上で承認されています。

日本でも薬剤師がいる薬局で販売できる、肥満を対象とした初めての薬になる予定でした。しかし、この薬は承認から半年以上が経った今も、販売のメドが立っていません。

大正製薬を取材すると「現時点では詳細な状況についてお答えできません」とした上で、「適正使用や供給に向けて準備をしているところです」「発売時期やその他詳細情報につきましては、準備が整い次第、改めてお知らせいたします」という回答でした。

要指導医薬品に分類されるため、購入には薬剤師との対面での相談と「3カ月以上の生活習慣改善の取り組みを行なっていること」「体重や腹囲などを1カ月以上記録していること」「定期的に健康診断を受けていること」などが必要になります。

販売の遅れについては、こうした確認のフローの整備が困難であることを指摘する専門家もいます。また、“やせる”ための薬は、その乱用が国内でも問題になっています。

適応外での乱用が問題に

“やせる”効果のある別の薬の乱用については、厚労省や消費者庁、国民生活センターが連名で注意を呼びかけています。少し複雑な経緯なので、順を追って説明していきます。

問題になっているのは、いわゆるGLP-1受容体作動薬と呼ばれるもので、インスリンの分泌を促して血糖値を下げる働きがある、2型糖尿病の治療薬です。この薬には食欲を抑える働きがあり、欧米では肥満症の治療でも使われています。

国内でも今年3月、新しい肥満症治療薬「ウゴービ(一般名:セマグルチド)」として薬事承認されました。​製造販売元のノボ ノルディスク ファーマ株式会社によれば「肥満症の適応で承認された日本で初めてのGLP-1受容体作動薬となります」。

ただし、服用できるのは「高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る」とされ、「BMIが27以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する」か「BMIが35以上」の人のみが対象です。

つまり、すでに食事と運動習慣の改善に取り組んでいて効果がない、医学的に治療の対象になるほどの肥満の人のみが、この薬を使えるということです。

このように、肥満症治療薬としては服用できる人が限られているGLP-1受容体作動薬。現時点では基本的に2型糖尿病患者への治療薬として使われているこの薬が、美容や対象ではない人のダイエットなど「適応外」といわれる状態で乱用され、問題になっています。

厚労省は7月、「GLP-1受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」という事務連絡をしました。適応外の目的でGLP-1受容体作動薬が乱用された結果、本当にこの薬を必要としている2型糖尿病患者にこの薬が行き渡らなくなっているためです。

前述のウゴービも、5月と8月の薬価収載が見送られ、現時点で日本での販売のメドが立っていません。今、“やせる”薬として手に入るGLP-1受容体作動薬は基本的に、同じ成分の糖尿病治療薬が適応外で処方されたものと考えられます。

このように、適応外で処方されるGLP-1受容体作動薬について、厚労省や消費者庁、国民生活センターは「糖尿病でない人への安全性と有効性は確認されていない」として注意喚起をしています。

副作用には吐き気・下痢・嘔吐といった胃腸障害だけでなく、重大なものとしては、低血糖、急性膵炎、胆嚢炎などもあります。

“やせる”薬は、そもそもかなりの肥満の人に使われるもので、かつ日本では有効性や安全性が確認されている薬がまだ発売されていない状況です。美容やダイエットなど適応外の目的で使用するのは、リスクのある行為です。

現時点では“薬でやせる”は現実的ではないこと、薬を使う場合も、食事や運動習慣の改善が前提になることは、知っておいてほしいことです。
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