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連載

#6 イーハトーブの空を見上げて

心のあり方を映し出す〝鬼〟 「福は内、鬼も内」と叫ぶようになった

断崖絶壁にはりつくように建てられた、達谷窟毘沙門堂
断崖絶壁にはりつくように建てられた、達谷窟毘沙門堂
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

断崖絶壁に建てられたお堂

岩手で暮らしていると、至る所で「鬼」と出くわす。

仕事場から車で約15分。三重の鳥居を抜けると、断崖絶壁にはりつくように朱塗りのお堂が建てられている。

達谷窟(たっこくのいわや)毘沙門堂。

絶壁の高さは約35メートル、幅約150メートル。まるで寺と荒々しい崖が一体化しているようにも見える。

約1200年前の平安時代、ここにも悪路王と呼ばれる「鬼」が住んでいた。坂上田村麻呂は「鬼」を討ち取り、その勝利を記念してかつて砦のあった岩肌に、清水寺を模した毘沙門堂を建てた。

「鬼」をどう捉えるかは……

「鬼」とは一体何なのか――。

北上市にある「鬼の館」を訪ねると、学芸員の相原彩子さんが教えてくれた。

「東北には鬼にまつわる地名がたくさん残っています。一関市の鬼死骸村だけでなく、大船渡市の越喜来(おきらい)地区は『鬼喜来』とも呼ばれ、海に流した蝦夷(鬼)の死骸が流れ着いた所とも伝えられています」

少しほほ笑んで続けた。

「結局、鬼をどう捉えるかは、その人次第です。どんな相手でも『鬼』になったり、『優しい人』になったりする。つまりはその人の心のあり方なのです」

地獄にすんでいる鬼卒像。亡者の首に刃物を突きつけている=岩手県北上市、三浦英之撮影
地獄にすんでいる鬼卒像。亡者の首に刃物を突きつけている=岩手県北上市、三浦英之撮影

人の心に鬼は住む。でも、それは果たして悪いことなのか。

人はモノを作り出すとき、ときに鬼の業火を必要とする。

節分の時、私はいつの頃からか、「福は内、鬼も内」と叫ぶようになっている。

(2021年8月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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