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#24 親になる

乳幼児へのワクチン接種推奨、親になってわかった〝万が一〟への葛藤

自分が親になってみると意外な変化が訪れた。※画像はイメージ
自分が親になってみると意外な変化が訪れた。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

日本小児科学会が新型コロナのさらなる流行に備えて、ワクチンの接種を推奨することを発表。合理的な判断をしたいと思う一方で、実際に親になると“万が一”への葛藤も生じます。ワクチン情報の伝え方にまつわる過去の医学研究や、夫婦での話し合いなどを通じて、子どもの健康を守るためにどうすればいいかを考えました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
 
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親は“ストーリー”に弱くなる

緊急帝王切開で生まれて以降は、大きなケガや病気もなく、健やかに育つ我が子は1歳とちょっとに。子どもができたことによる、自分に訪れた意外な変化は「ドラマや映画などで子どもがひどく傷ついたり亡くなったりするシーンでもれなく泣く」ことでした。

フィクションであっても、また、これまで数百回と観てきた展開であるはずなのに、やはり我が家の出産から今までの出来事を重ねてしまい、精神的に“来る”ものがありました。

子どもにまつわる事故や事件、戦争などのニュースを見聞きしても同じで、いたたまれなくなります。あまねく子どもにはどうか健やかであってほしい……。

子どもという存在が実感を伴って身近になったのだと思いますが「こんなことは自分の子どもに起きてほしくない」という気持ちが芽生えると、たとえすでに筋を知っている物語でも、感じ方がまったく異なることに驚きました。

自分が“親”という当事者になったときに、こうも動揺するのかというのは、一つの気づきでした。そして同じ時期に気づきがあったのが、乳幼児へのワクチン接種のことです。

今年の秋冬の子どもへの新型コロナワクチンの接種について、日本小児科学会は10月3日、「考え方」を発表しました。その中で同学会は、新型コロナへの感染や重症化を防ぐためにワクチン接種は効果があり、引き続き「すべての小児に接種を推奨する」としました。

小児への新型コロナワクチン令和5年度秋冬接種に対する考え方 - 日本小児科学会
http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=531

同学会は今後、変異ウイルスなどにより流行の拡大が想定されるとし、この秋以降接種されるワクチンは従来のワクチンより「発症予防効果が向上することが期待されています」と説明。

接種を推奨することについては「国内の約半数は未感染者であり今後も感染機会が続く」「小児においても重症例・死亡例が発生している」こと、「小児へのワクチンは有効である」ことを理由に挙げました。

安全性については「国内全体で4億回以上のワクチン接種が行われ、5~11歳の小児に対しては、のべ430万回以上、0~4歳の小児については40万回以上の接種が行われています」と説明。

一方で、重篤な副反応としてアナフィラキシー、心筋炎などが報告されていて、国内での検討では「心筋炎の発生率は5~11歳で100万回接種あたり0.6件」「0~4歳の小児では報告がありません」。

そのため「接種後30分はその場で健康観察をすること」や「接種後数日の間に胸痛、息切れ、ぐったりするなどの症状があった場合は医療機関への受診が必要」と注意喚起しました。

ワクチンの情報発信の難しさ

何が気づきだったかと言えば、子どもを目の前にすると、自分もワクチン接種によるナラティブ(物語)を想像するようになった、ということです。

より具体的に言えば、「もし親がワクチン接種をさせて、子どもに何かあったらどうしよう」というストーリーです。

私はなるべく「感情的ではなく合理的でありたい」と考えています。そんな自分でも、このようにマイナスのストーリーにとらわれるというのは、驚きでもありました。

もともと、例えば副反応の起きる割合などについては、数字で高い低いを判断していました。しかし、どんなに低い割合でも、自分の子どもがそのn=1になってしまったとしたら……と思うと、判断にも迷いが生じます。

ここで、2014年に発表された、ワクチンの推奨に関する有名な研究を紹介します。

Effective messages in vaccine promotion: a randomized trial - Pediatrics. 2014 Apr;133(4):e835-42. doi: 10.1542/peds.2013-2365. Epub 2014 Mar 3.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24590751/

米ダートマス大学の研究チームによる、ワクチンに対する情報提供と接種意欲の関係について検討した研究です。

子どもを持つ親1759人をランダムに5群に分け、MMRワクチン(麻疹・ムンプス・風疹混合ワクチン)についてそれぞれ別の方法で情報を提供、接種への意識の変化を調べました。

MMRワクチンについては、「自閉症のリスクになる」という誤解が根強いため、テーマに選ばれました。前述の“別の方法”とは下記の通りです。

a.ワクチンと自閉症には関係がないことをデータで示す
b.ワクチンで防げる感染症がいかに危険かをデータで示す
c.感染症にかかった子どもの写真を見せる
d.感染症で重症化した子の親のナラティブを聞かせる
e.ワクチンとは関係のない情報を聞かせる

その結果、対照群のe.と比較した結果は、「すべての群に有意差なし」でした。噛み砕いて言えば、いずれのアプローチも効果がなかったのです。

さらに、a.ではもっともワクチンに対して忌避感が強かった人たちの接種意欲がかえって有意に低下。c.とd.ではむしろ、ワクチンと自閉症の関連を疑う人が増えたり、重大な副作用を心配する人が増えたりしていました。

研究グループはその理由として「逆噴射効果」、つまり「人が自分の信条に反するデータを示されると、よりそれに固執する傾向」や、「危険プライミング効果」、つまり「恐怖や不安などの状況下で提示される情報には、忌避感が生じやすい傾向」が考えられるとしています。

この研究から、コロナ禍の恐怖や不安が強い状況下では、正しい情報を示しても、危ないと脅かしても、受け入れやすそうな近い属性のナラティブを聞かせても、結局、人は自分の思い描くマイナスのストーリーから逃れられないのではないか、とも思ってしまったのでした。

ナラティブを共有してみると

日本小児科学会の発表にもあるように、リスクとベネフィットを考慮すると、ワクチン接種をする方が合理的に思われます。ワクチンによる発症予防や死亡抑制効果(=ベネフィット)が、副反応などのリスクを上回るからこそ、このように専門学会が注意喚起をしているわけなのですが。

今は少しずつ社会が元に戻っていく中なので、恐怖や不安の程度は、これまでよりは少し軽くなっているかもしれません。だからこそ、どちらかに頑なになるでもなく、迷いが生じやすい状況とも言えるでしょう。

結論から言うと、あくまでも我が家の場合ですが、子どもに新型コロナのワクチンを受けてもらうことにしました。決め手になったのは、医療従事者の妻とおたがいのナラティブを共有し、「万が一」への恐怖や不安がさらに落ち着いたからでした。

日本小児科学会の発表では、前述したように、小児における重症例・死亡例が発生していることも説明されています。妻は「ワクチンを接種させないことでそうなることも怖い」という意見でした。

それを聞いて、私はこうしたとき、結論を先送りにしがちであることを反省しました。リスクと言うなら、ワクチン接種を受けていないこともリスクです。

そこは「ワクチンを接種する」という自己決定を親が肩代わりせざるを得ないためか、「自分の判断で万が一にも子どもに何かあったら」という心の防衛反応が働いていたようにも思います。

先送りにしているうちに、時期を逃してなあなあになってしまう――しかし、子どもの健康を守るのも親の役目なら、子どもがワクチン接種を受けるタイミングを逃したというのは、「子どもにワクチン接種を受けさせない」という決定をしたということと同義です。

実際に新型コロナの流行が続く中、思考停止してしまうと、それこそ「そんなつもりじゃなかった」と慌てることになりかねません。

あらためて、小児における重症例・死亡例、発症予防や死亡抑制効果、副反応発生の状況を鑑み、私と妻とで話し合い、子どもにワクチン接種を受けてもらうことにしたのでした。

繰り返しますが、あくまでもこれは我が家の場合です。それぞれの家庭でそれぞれの判断があり得ることでしょう。何か他の家庭にも参考になることがあるとするなら、それは家庭の中でおたがいのナラティブについてしっかり話し合うことかもしれません。

決定をするときに「自分一人で抱え込む」という状況には、自分のナラティブ、マイナスのストーリーを増強してしまったり、それを客観視できなくなったりするリスクもあると言えそうです。あらためて、子育てを共にするパートナーの存在に感謝する機会になりました。

【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。

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