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〝不適切保育〟が生まれる現場 二人の現役園長「いまがチャンス」

「園の中に居続けると、違和感に慣れてしまったり、いい保育が何かわからなくなったりします」

『言葉かけから見直す「不適切な保育」脱却のススメ』(中央法規出版)を発刊した現役園長二人に聞きました。
『言葉かけから見直す「不適切な保育」脱却のススメ』(中央法規出版)を発刊した現役園長二人に聞きました。

目次

子どもの口に無理やり食事を詰め込んだり、いつも強い言葉で子どもを叱責したり――。不適切な保育はどうして起きてしまうのでしょうか。現役の保育園長二人に、その背景を語ってもらいました。

「やっと社会が認知してくれた」

――昨年、静岡県の保育園で園児が足をつかまれて宙づりにされたり頭を殴打されたりしたことが事件化したほか、今年には三重県で給食を長時間強要し失禁させた事案が発覚するなど、保育現場での不適切な保育がニュースになり、保護者の関心も高まっています。長年保育の現場にいるお二人はどのように感じていらっしゃいますか。

 

菊地奈津美さん(こどもの王国保育園西池袋園園長、YouTubeチャンネル「ちょび園長の保育・子育て応援TV」を運営)

今後の保育業界はどうなってしまうのか、というネガティブな考えを持っています。
子どもの年齢によって、保育士の配置人数が「配置基準」で決まっていますが、ひとりあたりの負担は大きく、さらに保育士は不足しています。力量が不足していても雇わざるを得ない場合があると思っています。

 

河合清美さん(都内の認可保育園園長、NPO法人こども発達実戦協議会代表理事)

「ようやく社会的にこれがいけないことだと認知してもらえた」という感覚です。
私が新人だった30年前から、不適切な保育はあったと思います。昔は、社会全体で体罰が今ほど問題視されていませんでした。4歳児クラスの先生が、逆上がりができるまで子どもたちを部屋から出さない、なんてことをやっていたのを覚えています。

怖い先生の一声が大きくなる仕組み

――河合さんから新人時代の話もありました。現場にいると「おかしいな」と思っても声をあげにくかったり、変えにくい現状があるのでしょうか。

 

菊地さん

新人の先生は特にそうだと思います。

子どもたちがギャーギャーしている(騒がしく動き回るといった)場面を私は悪いことだとは思いませんが、例えばそれを『甘やかしすぎているから言うことを聞かないのよ』と言ってくるような怖い先生もいます。そういう先生が来ると、子どもたちもピリッとします。

そこで、『ほら、私の言うことならきくでしょ』と言われてしまうと、新人の先生は『自分のせいで子どもたちが騒がしくしてしまっていたんだ』『私もあの先生のようにまとめられる先生にならないといけないんだ』と思い込んでしまうこともあります。

一方で、子どもたちを受け止める保育をする先生が来たときに子どもがギャーギャーしていると、『この先生だと子どもが言うことを聞かない』と園が評価する場合があります。すると、怖い先生のスタイルがいいものとして園の文化として作られていきます。

不適切、「園の文化」になっていると難しい

 

河合さん

園の文化になっているところだと、それを変えることは難しいです。
不適切保育のニュースの中でも、昼食を時間内に食べさせるのが暗黙のルールだったというところもありました。それがいいとされていると、保育者たちも『そうしなきゃ』と思ってしまいます。

また、古い保育文化の中での経験値をベースにした保育者の声が大きいと、その価値観が反映されがちなところがあります。
園長がいくら子ども主体の保育を目指していたとしても、声の大きな中堅の保育者が『叱ってでもダメなものはダメと言う』という考え方だったとき、それがおかしいと思っている別の保育者がいても、声の大きな保育者に従わないとつらい立場になってしまいます。

保育園不足が叫ばれる中、新園がたくさん開設される流れが続いています。
採用時に、子ども主体の保育を実現するために必要な保育士を採用することができればいいのですが、園の数を広げることを目指す法人の中では、声の大きな中堅層をコントロールする仕組みがままならない実情もあります。

親ウケのための保育なのか、子どものためなのか

――河合さんから「子ども主体の保育」という言葉がありました。例に出されたような「叱る保育」とは反対のものだと思いますが、こういった「保育観の違い」というのはなぜ生まれるのでしょうか。

 

河合さん

保育者が、親ウケするパフォーマンスをしたいのか、それとも子どものことを考えた保育をしたいのかどうかだと思います。

誰のための保育か、というところでズレがあります。例えば食事。『私が担任になるとよく食べるようになる』と言う保育者がいたとします。『よく食べるようになる』の経緯が、子どもにとって『先生に怒られるから、しょうがなく食べる』だとしたら、その保育は親ウケのためのものです。
ですが、『よく食べるようになる』の経緯が、食育をしっかりした上で、食への興味関心からであれば、それは子どものための保育ができているということになります。

 

菊地さん

別の視点だと、『いま言うことを聞く』をゴールにしているか、『子どもが人生を幸せに生きていけること』をゴールにするか、もあります。本当は人生を幸せに生きていけることが大事だと私は考えています

「園での違和感、外での学びで気付いて」

――保育観というのは、園の文化でもあるということがわかりました。そのズレに気付いた保育者は、どのようなことができるのでしょうか。

 

菊地さん

保育者には、ぜひ園の外に学びに出ていってほしいと思います。

研修に行ったり、本を読んだりしてほしい。もし園内で不適切保育が行われていたら、外での学びで『あれ、違うぞ』と感じると思います。

自分自身が園での違和感を感じていたとしても、園の中に居続けると、その違和感に慣れてしまったり、何がいい保育なのかわからなくなったりしてしまいます。

自分の引き出しを広げるという意味でも、目の前の保育を鵜呑みにしすぎないという意味でも、ぜひ外に出ていってほしいです。

 

河合さん

一番もったいないなと思うのは、自分の目指す、子ども主体の保育ができずに辞めてしまうことです。

潜在保育士の問題もありますが、中には目指す保育ができず、もしかしたら『向いていない』とまで言われて保育士を辞めたという理由の方もいると思います。

自分が保育を嫌いにならないために、外の意見を聞いたり、原点になる人に会いに行ったりしてほしい。研修に行くハードルが高いのであれば、ネットでの配信でもいいです。ちょびちゃん(菊地さん)もYouTubeで発信を続けています。そういうものに触れ、向かいたい方向性を見つけてほしいです。

保護者も保育園にしっかり質問を

――子どもを保育園に預ける保護者が「ズレ」に気付いたときにできることはなんでしょうか。

 

菊地さん

これから預ける先を探す方は、保育園見学のときに園の方針や大事にしていることを必ず聞いた方がよいです。
保育室の見学ツアーはするけど、保育の話をほとんどしないところもあると聞きます。そういうところがイコール不適切な保育をしているわけではないですが、思いのある園であれば、園の方針を聞けばきっと話をしてくれるはずです。

 

河合さん

すでに保育園にお子さんを預けている方は、もしいまいる園になにか疑問に思うことがあれば、ちゃんと聞いてみてください。普段の関わりでも、疑問に思ったことがあったら尋ねてみてください。それは保護者の権利でもあります。

社会のアンテナが高いいまだからこそ変えられる

――最後に、不適切保育をなくすために、現役の園長として、また、SNSや書籍などでも発信を続けるお二人のお考えを聞かせてください。

 

河合さん

先日、菊地さんと共同編著で、『言葉かけから見直す「不適切な保育」脱却のススメ』(中央法規出版)を発刊しましたが、これからもみんなで勉強していきたいです。
いまやっと不適切な保育が『考え方の違い』で許されない時代になり、みんなで子どもにとっての幸せを考えられるチャンスだと改めて思っています。

 

菊地さん

不適切保育がここまで話題になったことはこれまでにありませんでした。
保護者も含めて社会全体のアンテナが高いいま、残っている不適切保育の文化を変えないと、今後ずっと変わらないと思っています。情報を共有して対話し、『変えなきゃいけない』と思う人を増やし、保育業界を諦めずによくしていくための人を増やせればと思っています。

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