IT・科学
骨髄バンクがピンチ ドナー登録者10年以内に22万人が〝引退〟も
「若い世代のドナーが必要」でも…18~29歳の半数が〝知らない〟
骨髄バンクのドナー登録者が、10年以内におよそ22万人も減ってしまう――。血液をつくる細胞を移植する「骨髄移植」の、ドナーと患者をつなぐ「骨髄バンク」。現在は54万人が登録していますが、半数超が40、50代です。55歳でドナーが〝引退〟となるため、今後ドナー数が激減することが懸念されています。(withnews編集部・水野梓)
病気の治療のために「骨髄移植」などが必要な患者と、ボランティアで提供するドナーをつなぐ日本骨髄バンク。これまで、2万8千例を超える骨髄・末梢血幹細胞提供を取り扱ってきました。
18歳からできるドナー登録の現在の登録者数は54万7708人。しかし、55歳になると引退しなければなりません。
現在のドナー登録者は、18~29歳が16%、30代が25%、40代が40%、50~54歳が18%。
半数超が40代から50代のため、このまま推移すれば多くのドナー登録者が〝引退〟して減ってしまうことになります。10年以内に約22万人が減るともいわれています。
骨髄バンクのドナーコーディネート部長の中尾るかさんは「毎年、新たなドナー登録者数がいらっしゃる一方で、卒業していく方もいらっしゃる。今のままでは数年以内に、卒業する方と、新たに登録される方の『逆転』が起きてしまうんです」と危機感を募らせます。
水泳の池江璃花子選手が2019年2月に白血病を公表し、2018年度は4万9千人、2019年度は4万7千人が新規のドナー登録をしましたが、2020年度以降のコロナ禍では激減。
献血車を出すといった献血機会の減少とともに、「献血のついでにドナー登録」をしていた人が減り、2020年度は2万7千人、2021年度は3万2千人、2022年度は3万4千人でした。
骨髄バンクの中尾さんは「今後、口腔内の粘膜を採取して登録する、海外ではメジャーとなっている手法も採り入れて、献血に頼らないドナー登録の方法なども実現させていきたい」と話します。
しかし、移植するには、患者とドナーの白血球の型が適合しなければなりませんが、その確率は数百から数万分の1ともいわれます。
骨髄バンクを介して、新たに移植を希望する患者は1年間でおよそ2000人ほど。
そのうち年間1100件ほどが移植 に至っていますが、希望する患者の約2人に1人しか移植を受けられていない現実があります。そのため、多くのドナー登録者が必要なのです。
若い世代のドナー登録を増やすため、骨髄バンクが悩んでいるのが「認知度」の低さだといいます。
2021年度の内閣府世論調査で、骨髄バンクを知っているかどうか尋ねると、「知らない」と答えたのは23.3%。
また、若い世代に「骨髄移植」を知ってもらおうと、骨髄バンクは9月から認知度向上のキャンペーン「#つなげプロジェクトオレンジ」をスタートさせました。
シンボルカラーのオレンジを使い、「ドナー登録」を知ってもらうこと、「提供のために仕事や会社を休むこと」がもっと応援されて感謝しあえる社会になることを目指し、SNS発信などを強化していくそうです。
中尾さんは「患者さんやドナーさんを応援していく、その応援を可視化していくプロジェクトです」と話します。
以前から、ドナー向けに「適合通知書」など見落としてほしくないお知らせを、オレンジ色の封筒などで送ってきた骨髄バンク。
今回、「誰かの役に立ちたい」というドナーの〝勇気〟を赤色、移植治療が患者さんの〝希望の光〟である黄色と見立て、そのふたつが交わったときにオレンジになる――という意味づけをしたといいます。
10月の骨髄移植の普及啓発月間にも、このプロジェクトをPRしていくという骨髄バンク。
中尾さんは「若い人たちがドナー登録しやすい環境をつくるために働きかけることは、私たち骨髄バンクの責任だと思っています。でも、バンクだけではドナー登録者を激増させることはできません」と指摘します。
ドナー提供時には検査での通院や数日間の入院が必要です。社員が仕事を休めるように「ドナー休暇制度」を採り入れる企業もあります。
ほかにも、移植を受けた患者や提供したドナーたち、漫画家やスポーツ選手といった著名人が、骨髄移植の啓発に取り組んでいます。
「このプロジェクトを応援してくれる人とは仲間として一緒に取り組んでいければと思っています。ぜひ骨髄バンクの仕組みを知っていただき、社会全体で患者さんやドナーさんを応援する大きな流れをつくっていけたらと思っています」
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