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宿便という〝キャッチコピー〟のウソとホント 騙されないための知識

「宿便」という言葉が広く浸透しているが……。※画像はイメージ
「宿便」という言葉が広く浸透しているが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

「宿便」という言葉が広く浸透していますが、この言葉の使われ方にはウソも混じっています。宿便とは一体どのような状態なのでしょうか。健康食品などを売るための“キャッチコピー”化した宿便の本当のところを紹介します。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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「宿便」は医学用語?

子どもの頃、近所の薬局で見かけた貼り紙のうたい文句が今も印象に残っています。そこには“「宿便」健康な人でも3〜4kgはあるんです”と書かれており、腸とその壁(のひだ)にこびりついた便のイラストが添えられた貼り紙の絵面は強烈でした。

この貼り紙は「朝からスッキリ」とうたう健康食品の宣伝をするものでした。しかし、宿便にまつわるこのような“キャッチコピー”には、ウソが含まれています。ただし、ホントのことも含まれているため、わかりにくいのです。こうした宣伝に惑わされないためには、正しい知識が必要です。

かく言う記者も、刷り込みというのはあるようで、時が経っても、積極的に「宿便」の存在を疑ってはいませんでした。しかし昨今、「宿便はウソ」という言説もちらほらと見かけるようになりました。

宿便とはそもそもどんな状態なのでしょうか。また、何がウソで、何がホントなのでしょうか。

まず、宿便は「医学用語ではない」と言われることがあります。しかし、実際に医学論文を探してみると、複数のジャーナルで「宿便性腸閉塞」「宿便性潰瘍」といった病名が確認できます。この言葉が医学用語に含まれているのは事実であるようです。

これらは慢性の便秘により腸にたまった便によって、物理的に腸が圧迫されたり、腸が閉塞したりすることにより起きる病気です。

「宿便」という言葉は一般的にも使われ、国語辞典では「排出されないで大腸や直腸内に長い間たまっている大便」などとされています。​​

宿便という言葉が医学用語に含まれること、「慢性の便秘」などにより「長い間たまっている大便」を指すことはホントです。こうした状態は望ましくないでしょうから、宿便が悪いものというイメージもウソではないでしょう。しかし、もう少し詳しくみてみると、事情は変わってきます。
 

“キャッチコピー”のウソ

まず、宿便の量についてです。おなかの調子を整える食物繊維の必要量は「1日1回規則的に排便がある」ことが一つの目安で、この状態の人の排便量は1日に約150g(見た目ではMサイズの鶏卵で約3個分)とされます(※)。

※食物繊維の必要性と健康 - 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html

大便の量を測定することは難しいものの、一般的に、日本人の大便量の目安は150〜200gとされます。

このことからわかるのは、冒頭のように宿便が数kgあるというキャッチコピーは、1カ月分くらい便がたまった重度の便秘の状態を指すことになります。その時点で健康とは言えないので、これが健康な人にもあるというのはウソだと考えられます。

また、宿便という言葉は、キャッチコピーとしては、「腸の壁(のひだ)にヘドロのようにこびりついた便」というイメージと共に用いられることがよくあります。宣伝ではこうした宿便を落とすことで「やせる」「キレイになる」ような印象を持たせる場合もあります。

しかし、便が体の外に出て体重が軽くなるだけなので「やせる」わけではありませんし、そもそも定義が難しい「キレイ」になれるかどうかは断言できるものでもありません。もちろん、便秘が解消されるならいいことではあるのでしょうが、便秘の解消の基本は食物繊維の豊富な食事など生活習慣の改善です。

また、腸はぜんどう運動をしており、内容物を出口へと押し出しています。その細胞は常に置き換わり、古くなって脱落した腸の細胞は大便の主な構成物の一つです。つまり、健康な人にも「腸の壁(のひだ)にヘドロのようにこびりついた便」があるというのは、考えにくいのです。

便秘が長く続くようであれば、医療機関に相談を。そうでなければ食事や運動など生活習慣に注意を。宿便のキャッチコピーに騙され、効果の疑わしい健康食品に頼ることなく、本質的な解決をすることをおすすめします。
 
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