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連載

#4 イーハトーブの空を見上げて

「鬼の牙」33本が眠る大船渡の古寺 なぜ後世に残そうとしたのか

歴史ある古刹(こさつ)に保管されている33本の「鬼の牙」
歴史ある古刹(こさつ)に保管されている33本の「鬼の牙」
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

「鬼の牙」が残る古刹

北上山地を越えた先に「鬼の牙」が残る古刹があると聞いて足を運んだ。

岩手県大船渡市の長谷寺を訪ねると、責任総代長の田村長平さんが寺で保管している33本の「鬼の牙」を見せてくれた。

寺伝などによると、鬼死骸村の大武丸(おおたけまる)と同様、この地域には平安時代、「赤頭」と呼ばれる蝦夷(えみし)が暮らしており、やはり朝廷から派遣された坂上田村麻呂によって討ち取られたらしい。

坂上田村麻呂はその際、赤頭の首を埋めた墓の上にお堂を建て、十一面観音立像を祀ったというのだ。

寺に残る「鬼の牙」は、その討伐された赤頭の歯だという。

「鑑定したみたところ、『鬼の牙』は実際には原始水牛の歯である可能性が指摘されています」と田村さんは淡々と言った。

「たとえそうだとしても、当時の世相を伝える貴重な史料であることに違いありません」

歴史は勝者によってつづられる

北東北で暮らす蝦夷は長らく、中央朝廷から「鬼」とさげすまれてきた。

それなのになぜ、坂上田村麻呂は「鬼」の墓の上にわざわざお堂を建て、人々はその「牙」を後世に残そうとしたのか。

田村さんは言う。

「赤頭はかつて、この地を平安に治めていた主だったのではないでしょうか。彼らは朝廷の侵略から地域を守るため、必死に闘い、だから敵も地域の人々も、その奮闘を後世に伝えようとしたのではないのかと」

101歳で亡くなった東北のジャーナリスト・むのたけじは書いている。

東北各地で田村麻呂が建立したとされる社寺がたくさんあって、それがすっかり受け入れられているでしょ。おかしいでしょ。侵略された側は、侵略者に対してどう対応するかというと、原点はとことん戦う。それで勝てなかったら寝返る。正確には「寝返ったふりをする」でしょうな。そうすればいじめられないもの。そうしている間に、彼らはいなくなる。そして安心して暮らせる。生きる知恵ですね。民衆はしたたかなものですよ。
むのたけじ著「日本で100年、生きてきて」朝日新書

歴史は勝者によってつづられる。黒ずんだ33本の「牙」は、その不条理に抗おうとした、先人が未来へと託した「声」なのかもしれない。

(2022年9月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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