IT・科学
やればできる! 光熱費0円、再エネ100%エコハウスのつくりかた
八ケ岳「ほくほく」プロジェクト
車を選ぶときは燃費を気にするのに、住む家に関しては売る方も買う方もデザイン性や間取りのことばかり。そんな時代は終わりをむかえようとしています。いま住宅業界で盛んに言われはじめたのが家の省エネ性能です。「燃費のいい家」をきわめれば、光熱費0円の暮らしも夢ではありません。「まずは一歩を踏み出そう!」。エネルギーの自給自足を実現した八ケ岳エコハウス「ほくほく」を例に、足もとからできる脱炭素時代の暮らしと住まいを考えます。
電気代やガス代が高騰して家計を圧迫する中、少しでも家で使うエネルギーを少なくしたい、と思ったときどんな方法が思い浮かびますか?
照明を全部LEDにする。エアコンや冷蔵庫を最新の省エネモデルに替える。がまんして冷暖房を控えめにする。
確かに省エネだけを考えればどれも正解です。でも、家電はいくら最新、最先端のものを買っても、その日から古くなり、型落ちになり、故障もします。省エネのためにがまんをして、健康を害せば元も子もありません。
快適さを維持しつつ、エコに暮らす。そのために必要な視点は、住む家そのものの性能を良くすること。
ぼくが再エネ100%、エネルギーの自給自足を目指して暮らしたいと考えたとき、八ケ岳の南麓の築40年の空き家に太陽光発電などの設備を取り付けるのではなく、まずエコリノベーションに取り組んだのはそのためです。
やったのは徹底的な高気密・高断熱化です。
「高気密・高断熱」とはなんでしょう。
いまの日本の約4割の住宅は無断熱です。ほくほくもそうでした。その状態を例えるならば、Tシャツ、短パンにカイロを貼っているようなものです。
カイロ(暖房)をたくさん使う場所は暖かいけど、それ以外の場所は寒くてしかたない。そこで、セーターを着る。それが「断熱」です。
さらにウィンドブレーカーを着て、すきま風を防ぐ。「気密」です。
すき間だらけの家は、穴のあいたバケツのごとし。せっかく暖房や冷房したそばから、エネルギーがどんどん外にもれ出してしまったら、もったいないことこの上ありません。
気密を高めるというと「空気の行き来ができなくて息苦しい」とか「湿気がこもって木が腐りそう」という人がいますが、それは誤解です。
外の気候がよいときは、思い切り窓を開け放てばいいのです。さらにいえば、気密が高いほど換気扇を回したときの空気の入れ替えは効率的になります。気密には室内の暖かい湿った空気を壁の中に伝えない役割もあります。
これまで日本では「次世代省エネルギー基準」が定められ、「最高等級の断熱性能」と宣伝するハウスメーカーや工務店の宣伝文句が躍っていました。
でも、実際は「次世代」と名の付けられたこの基準自体が20年前の1999年に定められた古い時代のもので、国際的に見ても非常に低いレベルにとどまっていました。
日本の9割の家が、世界保健機関(WHO)が健康を守るための最低温度とする18度を維持できていないのが現状なのです。
2022年にようやく建築物省エネ法が改正されて、25年度からすべての新築住宅に断熱性能が義務づけられることになりました。
断熱性能を高めるにはどうすればいいのでしょう。
築40年の無断熱の家だったほくほくでは日本トップレベルの気密・断熱性能を目指してリノベーションをしました。家全体を覆うように徹底的に断熱材を敷き込んだのです。
一つだけ問題があるとすれば、それはお金がかかることです。既存の壁を壊したり、床をはがしたりすることが必要なので、やはり予算や手間がかかります。
あきらめることはありません。手軽で最も効果が大きい方法を紹介しましょう。
それは窓の断熱化です。
日本ではこれまであまり断熱に目が向けられず、最も断熱性能が低い素材の一つであるアルミサッシが安価に生産され、普及してきました。
多くのハウスメーカーや工務店も当たり前のように使用してきました。ドイツでは法律でシングルガラスのアルミサッシを人間の住まいに使うことはできず、ペアガラスはもちろん、トリプルガラスが一般的になっています。
ようやく日本でも最近は、外の熱や冷気を室内に伝えにくい高性能の樹脂製や木製サッシが普及し始めました。
既存のサッシを交換しなくても、内窓をつけて二重化することで温熱環境は劇的に改善し、冷暖房の効率も良くなります。ほくほくでも予算の都合で内窓をつけた箇所があります。
断熱・気密性能が上がった結果、36畳の室内全体を6畳用のエアコン1台で冷房しています。
窓を制するものが断熱を制する。いまは政府や自治体が内窓を設置するための補助金を出しているので「内窓 補助金」などと検索サイトで調べてみてください。これを機に、ぜひ活用しましょう。
家の性能アップさせると、冷暖房のための電気や灯油など、化石燃料に由来するエネルギーの使用を減らすことができます。
大きな視点でみれば、いまは産油国など海外に流出させてしまっている資金を、断熱改修で国内の工務店やメーカーに渡すことによって、地域でお金が回ることになります。
また、断熱材や高性能の窓は家電やソーラーパネルなどの住宅設備のように、すぐ型落ちになったり、故障したりするということがありません。きちんと施工さえしていれば、ずっと効果を発揮し続けてくれる強い味方なのです。
高性能化することで家の資産価値も上がり、なにより大量のエネルギーをかけずとも、夏は涼しく、冬はあたたかい暮らしを手に入れることができます。
では、省エネ住宅を建てようと思ったら、業者選びはどうすればいいでしょう。ポイントを3点挙げます。
①これまでに高気密・高断熱の家を建てた経験があるか。
高性能な省エネ住宅は、プロなら誰もが建てられるというわけではありません。経験と実績をみましょう。
②一軒ごとに気密性能を測定したり、断熱性能をシミュレーションしたりしてくれるかどうか。
ハウスメーカーのサイトなどを見ると「高断熱」を掲げているところもありますが、それでは実際の断熱の中身はわかりません。
断熱は数値化できます。きちんとそれをシミュレーションして示せるかどうかが大事です。
また、気密性能は建てた後に実際に測定します。
まだまだ実測する工務店やハウスメーカーはごく少数ですが、気密性能は施工の丁寧さを示すバロメーターでもあります。
建てたら終わりではなく、施工後にきちんと気密検査をして数値を測ろうとする業者は研究熱心で、施工にも自信あり、と覚えておきましょう。
③業者の建設現場や、これまで建てた家を訪ねることができるか。
施工後にも顧客と業者の信頼関係や結びつきがあるかどうかが見極められます。
家を訪れることで家の良しあしを体感できるし、実際の住人に話を聞くこともできます。
自分の仕事に自信を持つ業者ほど、情報公開には積極的なものです。
ほくほくのエコリノベーションを担当した梶原建築(山梨県富士吉田市)の一級建築士で大工の梶原高一さんもこのポイント3点をすべておさえていました。
予算は、どの程度の性能にするかによりますが、一般的には通常より10%ほどプラスになるイメージです。3千万円の家なら300万円といったところでしょうか。
それを高いと感じるか安いと感じるかはその人次第ですが、建築費だけでなく、ランニングコストまで考えることは重要です。
燃料費がどこまで高騰するかわからない時代にあって、燃費がいい家は、冷暖房費が確実に減り、なにより生活が快適になります。
車であれば、燃費や性能を調べるのに、もっと価格が高い家になると、途端に外観や設備の充実・豪華さだけで買ってしまう人が多いのはなぜでしょう。一生の買い物だからこそ、デザインや間取りだけでなく、建物の性能そのものにもしっかり目を向けることが大事です。
ほくほくは断熱・気密工事を徹底して日本トップレベルの性能を持つ家に変え、使うエネルギー自体を減らしたことで、ソーラーパネルの枚数や暖房、給湯に使う薪の量も最低限で再エネ100%自給自足の暮らしを実現しました。
「再エネは不安定なエネルギー」「再エネだけで暮らすのは無理」と言う声も聞きます。
ぼくもやる前はできるのか自信はないままこのエコハウスプロジェクトに取りかかりました。そして、試行錯誤や多くの人の協力を経て、やったらできた。それが「ほくほく」です。
「やってもできない」なんて、やる前から未来を閉ざさなくても大丈夫。どうすれば冬はあたたかく、夏は涼しく、かつカーボンニュートラルを実現する家が実現するのか。その方法はもう明らかなので、あとはこれを「特別」な家ではなく、日本標準にしたい。そう思っています。
冬には、「ほくほく」見学会を企画する予定ですので、外がキンキンに冷えていても、ほくほく室内の「ほくほく」を体感してみてください。
先日は現役大学生で、環境アクティビストとしてテレビやラジオ、SNSで積極的に発信を続ける黒部睦さんが初めて、ほくほくを訪問。カーボンニュートラルを実現したエコハウスを体感していきました。
楽しそうな場所には人も集まる。地球にもやさしいこのエコハウスでは、たくさんの人の笑顔が見られます。
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