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クラシック「あるある」ネタじわり人気…ピアノ歴30年、異色の芸人
ピアノ芸人・まとばゆうさん
ピン芸人の中には、モノマネやギターなどの優れた一芸を武器に笑わせる芸人もいます。芸歴12年目でピアノ芸人として活動する女性ピン芸人のまとばゆうさんも、その一人。クラシックの「あるある」ネタを織り交ぜながら演奏するコンサートは、なんと月に30回も出演しているといいます。(ライター・安倍季実子)
「月にピアノコンサートを30回、TikTok30本アップ!」と意気込みを話してくれたのは、芸歴12年目のピン芸人まとばゆうさんです。
クラシックの「あるある」をはさんだピアノ演奏のショート動画を配信し、「へー」「なんかひとつ賢くなったかも」と思える内容がじわじわと人気を得ています。
ピアノ歴は30年以上。なんと、レパートリーは1000曲以上もあるそう。
「基本的に、毎日どこかでコンサートをしてます。多いのは介護施設で、レギュラーは月に15本。そのほかには、商業施設などでの演奏、お笑いライブや寄席の出演が数本入ります」
1公演は約1時間。前半30分はクラシックのあるあるネタや豆知識をはさみながらのピアノ演奏。残りの30分は、お客さんと一緒に歌を歌います。
「作曲家がどんな人物だったのか、どんな恋愛をして、どういった人生を送ったのかがわかる豆知識を入れるんですが、みなさん好意的に聴いてくださいます。以前、『先生のおかげで、シューマンとクララがどんな新婚生活を送っていたのかが知れました』と書かれた手紙をいただいたこともありました」
【1分 #クラシック】ベートーヴェンも#婚活 をしていた?! pic.twitter.com/NXj7dtSA3Q
— まとばゆう (@yufantoday) November 19, 2022
後半の歌の時間では、大正や昭和初期に流行った歌謡曲をよく歌います。おじいさんには芸者さんやお座敷遊びの歌が、おばあさんには恋愛の歌が人気なのだそう。
「好きな曲や懐かしい曲になると、みなさん目を輝かせながら合唱してくださいます。でも、ただ人気の曲を歌えばいいというわけではありません。一度、クリスマスコンサートで、歌謡曲『お富さん』を歌ったら、『聖なる夜には聞きたくない』と言われてしまいました(苦笑)。それ以来、季節感やイベントなども意識しながら、リストを作るようにしています」
また、コンサート中の衣装も白黒の地味な色合いは避け、季節にあわせた装いを意識しているそうです。
「歳を重ねたお客さんは、無意識のうちに、四季や行事など一年の流れを感じるものを大切にされているんだと思います。日本人らしさのようなものを感じますし、尊敬するべき人生の大先輩はステキな人ばかりだなと思いますね」
まとばゆうさんの一日は、朝7時から始まります。支度を終えたら施設のある街へ向かい、カフェでその日の演奏リストやあるあるネタを考えます。
それが終わったら本を読んだり、YouTubeやテレビ番組の配信動画サービスなどを見たりして、クラシックや世間の流行りなどの情報をインプットします。
「コンサートは大体14~15時まで。その後は、寄席やライブがあれば、そちらに向かいますが、なければ帰宅します。ほかに月1回ピアノレッスン、月4回ボイストレーニングに通っています」
介護施設でのピアノコンサートの出演料は、1回6,000円から。月の平均的な収入は18万円だといいます。
ピアノコンサートに出演するようになったのは、大学4年生の頃。当時のアルバイト先の社長のアイデアがきっかけでした。
「大学時代はコンビニや飲食店でバイトをしていたんですが、どれも3ヵ月以上続かなくて(苦笑)。大学4年生の時にメガネ屋さんでバイトを始めたんですが、案の定、仕事がうまくできなくて……」
「それを見ていた社長が電子ピアノを購入してくださって、『まとばさんは店内でピアノを弾く仕事をしてください』と言ってくださったんです。その後、介護施設での補聴器の相談会の営業を任されて、そこから介護施設でピアノコンサートをする生活がはじまりました」
自分の特技を活かせる仕事を任されると、東京・神奈川・埼玉にある介護施設に、次々と飛び込み営業をしたといいます。
「たぶん、100ヵ所以上は回ったと思います。現在のレギュラーのほとんどが、その頃からお付き合いしているところです」
今でも、すぐに飛び込み営業ができるように、手紙を持ち歩いているといいます。
お笑い芸人というよりも、フリーランスのピアニストのような生活を送っているように思えるまとばゆうさん。実際に、芸人になった経緯もユニークです。
「子どもの頃から有名になることが夢だったので、大学在学中に色んな芸能事務所に履歴書を送りました」
その後、お笑いタレントを多く抱える芸能事務所に受かって「ピアノ芸人」としてデビューしました。
「大学生の頃、爆笑問題の太田光さんを招いた講演会で、『自分は大学の頃と同じような活動を続けてきたから売れたんだ』とおっしゃっていました。それを聞いたときに、私もピアノを続けたまま有名になりたいと思ったんです」
さらに背中を押したのは、あこがれの北野武さんの存在です。
「北野武さんは芸人でもあり、映画監督でもあります。ほかにも、俳優や作家といった多方面で活躍されている芸人もたくさんいるので、私も芸人になったら、たくさんの人に音楽が面白いってことを伝えられると思いました」
しかし、デビューして数年で、『R-1ぐらんぷり』や『THE W』などの準決勝・決勝に残ったり、『TEPPEN』(フジテレビ)や『中居正広の金曜日のスマイルたちへ(TBS)』に出演できたりしたことで、「売れたい欲」が満たされてしまった時期もあったそうです。
「毎日、ピアノコンサートができるだけで幸せだなと思っていたんですが、介護施設の職員さんやおばあさんたちに『次はいつテレビに出るの?』と聞かれるようになって、『やっぱり売れたい!』『テレビに出たい!』と思うようになりました」
毎日のピアノコンサートは趣味でもあり、生活のためでもありますが、芸人としての研鑽を積む場でもあり、売れたい欲を奮い立たせてくれる場所でもあります。
芸人として売れるためにも、介護施設のおじいさんやおばあさんたちのためにも、「テレビ出演」は大事な目標です。
「いわゆるネタ番組には出たことがないので、『ネタパレ』(フジテレビ)はあこがれですね。準優勝で終わった『TEPPEN』ではリベンジを果たしたいですし、いつかは『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)にも出たいです」
ピアニストとしての夢も壮大です。
「年に一度、ピアノコンサートを開催しているんですが、いつかはツアーで全国各地を回れるようになりたいですね。そして、音楽の楽しさやクラシックの面白さを、もーーーっとたくさんの人に伝えたいです」と話しています。
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