IT・科学
再エネ100%で暮らせる?八ケ岳の空き家をリノベした記者の挑戦
みんなでつくったエコハウス「ほくほく」プロジェクト
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みんなでつくったエコハウス「ほくほく」プロジェクト
再生エネルギー100%の暮らしがしたい――。東京電力福島第一原発の事故で被災した記者は、節電生活を経て、八ケ岳のふもとに再エネ100%のエコハウス「ほくほく」をつくりました。再生エネルギー100%のエコハウスをつくってみてどう感じたのか? 思いをつづります。
ぼくは家をつくりました。築40年の空き家を買って、それをほとんど壊して、またつくり直して――。いわゆるリノベーションです。
時間にして5年かかり、のべ200人超が手伝ってくれました。時間も人手もかかりすぎ。でも、ぼくはただ古い家をピカピカにしたかったわけではありません。「いい家」をつくりたかったのです。
生活に必要なエネルギーのすべてを自分でつくる家。エネルギーを自給するから電気代やガス代といった光熱費は0円。地球にも財布にもやさしい家です。
不動産屋に案内されて、初めてその家に来たのは、2017年の冬のことでした。
雑草がぼうぼうに伸びきった約70坪の敷地に、どう前向きに考えてもパッとしない古びた平屋がたっていました。
まったく心躍らない。
玄関先でUターンしてそのまま違う物件に向かってもよかったのですが、せっかく来たから、一応中も拝見することにしました。
がっかり、というか予想通りでした。約40畳の室内はほぼオール畳の昭和風情で、モダンやスタイリッシュのかけらもありません。
すりガラスにあしらわれた花模様のデザインがレトロ感を際立たせています。奥に進んだ不動産屋さんが窓際のカーテンを開けます。
!!
田園景色を見下ろす向こうに、雪をいただいた南アルプスの名だたる峰が連なり、目線を右にやれば、八ケ岳まで見渡すことができました。
絶景でした。ジャーン、と開幕を告げる音楽が脳内に響きました。
「この景色を見ながら過ごせたらどんなにか、心爽やかだろう」
東京との2拠点生活の拠点として、八ケ岳の南麓、山梨県北杜市にあるこの家を手に入れることをすぐに決めました。
福島県の郡山支局に赴任していた時に、東京電力の原発事故に遭ってから、ぼくは自らの暮らしとエネルギーの関わりを見つめ直し、なるべく電気を使わない生活を心がけてきました。
電力会社との契約を最小の5アンペアにして、500wを超える消費電力の家電を次々手放し、最終的には、月の電気代170円、使用量1kwhで暮らせるまでに電気のいらないライフスタイルを確立しました。
でも結婚して、東京の賃貸マンション暮らしをしているときに子どもが生まれ、自分本位の5アンペア生活を続けることはできなくなりました。
夏はエアコンをつけ、冬はガスファンヒーターも使う。エネルギー消費生活です。
すると、むくむくと、ある気持ちがふくらみ、強くなってきたのです。
エネルギーを自給して再エネ100%暮らしがしたい。
東京での賃貸暮らしでは限界があると考え、小学生の頃から憧れていた八ケ岳を訪れ、不動産屋に案内されたのが、標高600メートルの場所にあるこの空き家でした。
眺めがいい=日あたり抜群。この家ならば、太陽の恵みを存分にもらいながら暮らせる。そう考えました。
よく結婚式でいいますよね。人生には三つ坂がある。上り坂、下り坂、そして「まさか」だと。2拠点生活をはじめると、やって来ました。そのまさか! が。
2017年5月に家を手に入れ、迎えた夏。標高600メートルだから涼しく快適だろうと思っていた家は、日あたりが良すぎたのです。
室温は35度になり、東京に逃げ帰りました。冬はやわらかな日差しが家をあたためてくれると思っていました。そんな心地いい時間は晴れた日の午後のひとときでした。
朝方、枕元の温度計は1度を切り、布団を出て、決死の覚悟でトイレに向かいます。台所では鍋の水が凍りついていました。
築40年のこの家は、ほぼ無断熱の家だったのです。もう無理だ、限界だ……。
できるか、できないかはわからない。でも、ぼくはこの無断熱の家を、徹底的に断熱リノベーションして、再エネ100%のエコハウスにすると決意しました。
空き家をエコハウスに変身させることができたら、全国で増え続ける空き家問題を解決する糸口にもなるかもしれない。
この決意がのちに八ケ岳エコハウス「ほくほく」プロジェクトとなって、たくさんの人を巻き込むことになりました。
それぞれの知恵や経験、やさしさがフル動員されて、日本エコハウス賞の「NEXT創エネの家賞」を受賞するのですが、その顚末はまた近々、紹介しようと思います。
日本は2050年の脱炭素社会実現を目標に掲げています。その議論の中で「再生可能エネルギーは不安定で基幹エネルギーにはなり得ない」という人もいます。
プロジェクトを立ち上げて5年がたったいま、わかったのは空き家をリノベーションして、再エネ100%、脱炭素の暮らしを実現するのはけっこう難しい、ということです。
でも、もう一つわかりました。それは簡単ではないけど不可能なことではない、ということです。そこにはちょっとした考え方の変革が必要なのです。
ほくほくでは再エネが立派な基幹エネルギーです。使う電気は100%、庭に組んだ架台に載せたソーラーパネル(2.7Kw)で自給します。
夜や雨の日でも電気が使えるように、太陽光がつくった電気は蓄電池(19Kwh)にためています。
一般的な家庭で、1日の電気使用量は10Kwhと言われているので、2日分をためられる計算です。
お湯をつくるのも100%再エネで、太陽熱温水器でつくります。太陽の熱であたためられた水は100度近くまで上がることもあります。
天気が悪いときには薪ボイラーを使います。庭の薪をボイラーに投入して火をつければ、貯湯タンクの水が湯になる仕組みです。暖房はエアコンのほかに、薪ストーブも活用します。
エネルギー危機がさけばれ、世界的に燃料費が高騰しています。
地球の一部地域にだけある地中資源を、世界中の人が奪い合う格好になっているのですから、強い者が取り、弱い者が泣くのはある意味で当然のことなのかもしれません。
発電量の7割を化石燃料に頼っている日本でも、電気代は上がり続けています。
ほくほくで大きな役割を果たすのが太陽です。地面を掘り起こさなくても、タンカーで運んでこなくても、契約を交わして使用料を払わなくても、太陽は毎日のように顔を出して、誰ひとり分け隔てなく膨大なエネルギーを降り注いでくれます。
ほくほくの9枚のソーラーパネルでつくった電気は、売ることなく自家消費に使います。
たくさんの売電収入を得ようとする一部の業者などが、森や山を切りひらいて自然を破壊しながらソーラーパネルを敷き詰めて各地で問題になっていますが、本来、電気は金を儲けるためにあるのではなく、生活に使うためのものです。
生活をする分ならば、庭先のソーラーパネルで電気の自給はできてしまいます。
10年以上前に製造されていたソーラーパネルには有害とされる物質が使われていましたが、いまはヒ素やカドミウムなどについては使われておらず、適正処理のために、各メーカーは化学物質の含有状況を明示するようになっています。
パネルの構成部材の約6~7割がガラスなので、再利用されています。
また日本市場のシェア95%を占めるシリコン系パネルはほぼ100%がリサイクル可能です。
営利目的で森林破壊のメガソーラー建設ではなく、既存の建物の屋根を利用してソーラーを設置する。そういう考え方に転換していくことが、再エネ100%の暮らしを実現に近づけるはずです。
そうそう。東京の我が家は10アンペア生活で、電子レンジやトースターは使いません。
でも、太陽光で電気をつくるほくほくには、レンジのほかにもIHクッキングヒーターなど各種家電がそろって、「普通のくらし」ができます。
それでも、電気代、ガス代は0円。もちろん設置の時にお金がかかったとはいえ、ランニングコストがないのですから、これはなかなかありがたいものです。
これから、見学会なども開催していきますので、機会があればぜひ「ほくほく」に足を運んでください。
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