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#22 親になる

妻実家で育児、合理的?シェアハウスは?子育て「協力」してきた人類

里帰りした妻子の様子を見ているとさまざまな気づきがあり……。※画像はイメージ
里帰りした妻子の様子を見ているとさまざまな気づきがあり……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

お盆の前後で実家に長めの里帰りをしていた妻子。そこでは妻のきょうだいやいとこたちが自分たちの子どもと一緒にうちの子どもを見守る環境がありました。人類史を紐解けば、人間は「協力」して子育てをしてきたと指摘する専門家も。拡大家族から核家族での育児が一般的になる中、「シェアハウス子育て」など新しいサポートの形も現れていますが、では「子育てしやすさ」とは一体、何によるものなのでしょうか。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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妻実家で育児の安心感

1歳になったばかりの我が子。自宅ではベビーサークルや壁などを使って伝い歩きをするのですが、手放しではなかなか歩きだしません。どうやら、できないことはしたくない、慎重なところがあるよう。

何かと思い切りのよい妻には「明らかにあなた似」と笑われます。本当かどうかはともかく、このくらいの年齢から性格のようなものの片鱗が見え隠れするのは、とても面白いです。

そんな我が子はお盆前後、妻と一緒にまとまった期間、(私にとっての)義実家に滞在していました。義実家は近くに住む妻のきょうだい、そして我が子のいとこにあたる小さい子どもたちが日常的に集まる環境です。

すると驚いたことに、ある日、その子らと遊ぼうとして、我が子も手放しでとことこと後をついて歩き出したのです。同世代の子どもが集まり、親同士も遠慮のない環境というのは、子どもにとってよさそうだと感じました。

義実家は戸建てで、大きな一部屋を子ども用に開放して遊ばせて、義父母や妻のきょうだい、妻のいとこなど、常に誰かしら大人の目が届く状態。ちょっとした買い物や、自分たちの食事や入浴などのときは、他の大人に「ちょっと見ておいて」と言えます。

逆に、私たちが代わりに子どもたちの食事や昼寝をまとめて引き受けて面倒を見られること、育児についての情報交換ができることも大きなメリットです。

自宅でする育児のように「常に夫婦どちらかが見守らなければいけない」という緊張感や、ワンオペになる場合の行動の制限が緩和されるだけでも、非常に安心感があり、精神的にはかなりラクになりました。

近くにあればうちも毎日のように子どもを連れて行きたいのですが、問題はかなり遠方であること。頻ぱんにはお邪魔できず、移動も大変なので、行くなら主に妻子だけがまとまった期間、私はときどき顔を出す、という形になりがちです。

妻側には「親戚LINEグループ」があるほど仲が良い一方、私は機能不全家族出身で実家とは没交渉。そもそも実家も近くないので行きやすい場所でもなく、義実家からのようなサポートは受けられません。

「夫の実家への帰省」は家族関係における長年のホットトピックなので、そのトラブルが起こり得ないのは、ある意味でいいことなのかもしれませんが……。

もし今後、第二子以降の家族計画を相談するとき、産前産後の妻の負担を軽減することを考えると、妻の居心地の良さは非常に重要になります。

私がどうしても気を遣うことを除けば、義実家のように三世代世帯の拡大家族+α(そこに集まる一緒には住んでいない親戚の家族など)の形で育児をするのがもっとも合理的なのではないか、と思い始め、調べてみることにしました。

育児で協力した人類史

生物としてのヒトが過酷な環境を生き延び、さまざまな問題を解決し、世界中で繁栄することができたのは、“協力”という能力のおかげだとするのが、今年6月に日本語版が刊行された『「協力」の生命全史:進化と淘汰がもたらした集団の力学』(ニコラ・ライハニ)。

この本では、人類の進化の歴史を鑑みれば、現代社会の核家族における育児は理想的とは言えない可能性が示唆されています。

協力的繁殖を行なうのは、同書によれば、哺乳類でもすべての種の1%以下、鳥類では多く8%前後だとされます。その理由は、協力行動を習得するのが難しく、それをする種が繁栄するために、条件が整わなければならないためです。

協力的繁殖をする生き物の中でも、一度にたくさんの子どもを産まないヒトは例外的です。ヒトの母親は出産間隔を短くし、出産前後に協力を得ることで、離乳後また速やかに妊娠することができるようになったと指摘します。

ニコラ氏は、ヒトはその社会的な生活様式ゆえに、広大な社会的ネットワークの中で、子どもは両親、年長のきょうだい、おば、おじ、祖父母といった複数の保護者に育てられてきた、と説明。

「現代でも多くの人間社会ではこのような暮らしが見られるものの、多くの工業化社会では、大規模な拡大家族の役割は、学校や保育所といったより公的な施設が(ある程度)担うようになった」と述べます。

同書では、こうした理由から、核家族による子育ては理想的とは言えない可能性を示しつつ、「育児をもっと広い視点で捉え、複数の養育者や関係を取り入れる」ことや「ヒトがきわめて社会的かつ協力的な種として進化してきた長い歴史をもっと踏まえて考える」ことを勧めています。

日本でも、核家族化の流れが進み、それがもはや不可逆であることが見通されています。『2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況』によれば、世帯構造は現在「単独世帯」が全世帯の32.9%で最も多く、次いで「夫婦と未婚の子のみの世帯」が25.8%、「夫婦のみの世帯」が24.5%でした。

世帯構造は時代により大きく変わってきており、『令和4年版 高齢社会白書(全体版)』によれば、1980年(昭和55年)では世帯構造の中で「三世代世帯」の割合が最も多く、全体の半数を占めていましたが、2019年(令和元年)では「夫婦のみの世帯」および「単独世帯」がそれぞれ約3割を占めています。

ヒトとしての歴史はどうあれ、現実問題としては、親、家族に偏重してきた子育ての負担を、例えば保育制度の拡充といった社会システムを手厚くすることで均していくほかありません。政府の提唱する「異次元の少子化対策」も、おおむねその方向だと言えるでしょう。

合理的なだけではダメ

最近では、拡大家族のような形態により受けられる恩恵を、単身者や夫婦、子ども連れなど、さまざまな人が集まって住むシェアハウスなどの生活で受けようとする社会実験も、国内で複数の事例があります。

いわゆる“拡張家族”という概念で、血縁や制度に縛られずに家族になる、そして共同生活によるメリットを得るというのは、究極に合理的とも理解できます。

では、実際に自分がそこに参加するかと問われれば、「よく知らない人、育児の専門家でもない人と一緒に育児をする」ことに躊躇してしまうのも正直なところです。自分自身、機能不全家族から離れて暮らし、血縁というつながり自体を賛美することに極めて懐疑的なのにもかかわらず、です。

そして、この気持ちにこそ、現代社会の育児のしやすさを考えるヒントがあるようにも思います。

育児に限らないことですが、“協力”の前提にあるのは“信頼”ではないでしょうか。血縁はかつて、それを無条件に保証するかのように信じられており、それゆえに現代社会では綻びも出てきています。

血縁者という存在を捉え直してみると、個人のパーソナリティーや社会経済状況を把握しやすいのは確かです。一方で、血縁者であっても「必ずしも信頼できるとは限らない」というのも事実でしょう。

この前提で向き合えば、血縁者の方が、よく知らない人よりは、「大事な子どもを預けられるほど」「信頼できるかどうかを判断しやすい」とも考えられます。

逆に言えば、“信頼”なき“協力”では育児に必要な安心感は得られません。ただ合理的なだけでは、子育てはラクにはならないのです。血縁者よりもかえってシェアハウスのメンバーの方が信頼できるという人もいることでしょう。

そこまで極端でなくても、人と人との関係性はグラデーションなので、ある程度は割り切りながら(例えばすでに出来上がった関係の中に入る私が気を遣うことは避けられません)、得られるサポートの形を取捨選択していくことになります。

政府の子育て支援に批判が集まりがちであることには、結局のところ、子を持つ親として場当たり的な政策を信頼しづらい、育児をする安心感が得られていない、という根本的な原因もありそうです。その上で、もちろん個別の施策に言いたいことは、親としてたくさんあるのですが……。

公的な保育サービスは十分に拡充されるのか、単身赴任や二拠点生活、移住を検討した方がいいのか――自分や家族にとって一番よいと思えるライフスタイルの模索は続きます。

【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。

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