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連載

#3 障がい児・医療的ケア児を育てながら働く

運動発達が遅い娘、通常学級を希望していても…小学校入学へ親の悩み

教師には「お母さんが学校に来てくれたら」と頼まれたといいます

来春小学校入学を控えた長女。運動発達に遅れはあるものの、好奇心旺盛で勉強への意欲も高く、両親は通常学級へ進むことを望んでいます
来春小学校入学を控えた長女。運動発達に遅れはあるものの、好奇心旺盛で勉強への意欲も高く、両親は通常学級へ進むことを望んでいます 出典: 母親提供

目次

障がいのある子や医療的ケアが必要な子どもの場合、学校に保護者が付き添ってケアを求められるケースは少なくありません。「一度は仕事から離れたけれど、また働きたい」と思う親にとって、学校で子どもがどの程度サポートを受けられるのかは重要な問題です。来春小学校入学を控えた長女(5)を育てる女性(38)は、学校側との調整にもどかしい思いを抱いたといいます。

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小学校入学前の面談で

「お母さんが学校に来てくれたら助かります」

札幌市に住む女性は、小学校での面談で教師から言われたその言葉に頭を抱えました。

来春入学予定の長女は、背骨が左右に曲がる「側彎(そくわん)症」や、体の片側を動かすと反対側も無意識に動いてしまう「鏡像運動」がみられ、体をうまく動かせません。

遺伝子疾患の疑いで運動発達の遅れもありますが、知的発達に遅れはなく、現在は支援体制の整った幼稚園に通っています。

教師の発言は、長女を通常学級に通わせた場合、学校にはどのようなサポートをお願いできるか女性が確認したときのことでした。

小学校には、支援が必要な児童に対して勉強や学校生活をサポートするスタッフが配置されていますが、全学年に対して2人のみ。「必ずしもお子さんが困った状況でサポートに入れるとは限らない」と言われたそうです。

「親が学校にいることで娘も甘えてしまうでしょうし、私は働きたいと思っていたのでとても困りました」

絵本を読む長女。好奇心旺盛で勉強へのやる気もあります
絵本を読む長女。好奇心旺盛で勉強へのやる気もあります 出典: 母親提供

14年勤めた会社を辞め、ケアに専念

女性は20歳で短大を卒業後、長女を出産するまで14年の間、金融機関で正社員として働いていました。

妊娠34週(妊娠9カ月)1764gで生まれた長女には誕生時から様々な症状があり、すぐにNICU(新生児集中治療室)へ入院しました。女性は医師から次々と聞かされる診断名に「パニック状態だった」と話します。

長女は生後2カ月で退院しましたが、その後も検査や手術などを複数回経験しました。

子どもの発達の遅さを心配した女性は、1年だった育休の予定を半年延長することに。しかし、リハビリへ通う必要もあったため、長女が1歳の年に退職を決意しました。

「幼児期にできることをやっておきたいと思っていたので、会社を辞めるときは腹をくくっていました。そもそも時短ができない職場で、復職しても娘をリハビリに連れていく余裕はなかったと思います」

「いつか働ける日がきたら、自分がやりたいことをやりたい」と思っていた女性。昨年はスキルアップのためパソコン教室に通ってエクセルを学び、就職先も探しました。しかし、希望の条件に合う求人には出合えなかったといいます。

今年は長男(3)が幼稚園に入園したため、これまでより女性が1人の時間を取れるようになりましたが、その矢先に長女の「小学校問題」に頭を悩ませることになりました。

2歳離れた弟と遊ぶ長女(左)
2歳離れた弟と遊ぶ長女(左) 出典: 母親提供

「娘がやりたいことを伸ばしたい」

長女が幼稚園に入園した頃は、将来の選択肢として特別支援学級や特別支援学校も考えていました。小学校の支援学級では、保護者が付き添わなくても教員がサポートをしてくれるそうです。

しかし、長女は、幼稚園の先生にも「みんなと同じことをやりたがって果敢に挑戦する」と言われるほど意欲が高く、好奇心も旺盛。勉強へのやる気もあります。

女性もこの3年で精神・体力面ともに長女の成長を実感し、通常学級での学びが「やりたいこと・やれることを伸ばす、成長につながる」と考えました。

小学校の先生の多忙さは理解しているつもりですが、通常学級では最初から親の協力を前提にしていて、付き添いが得られない場合は支援学級を勧められることへの疑問も感じました。

「学校はどこまでなら受け入れてくださるのか。図工や音楽など作業が伴う教科のときに、少し多めに声をかけていただくことができるかどうかの確認を取りたいだけなんです」

以前の面談には娘が同席していなかったため、「私の話だけで『すごく支援が必要な子』だと重く捉えられたのかもしれません」と話す女性。今後、改めて娘と一緒に面談に行く予定だといいます。

小学校に入学したとしても、背骨が曲がっている長女はランドセルを背負って歩くことが難しく、送迎は保護者が付き添わなければならないとは感じています。会社員の夫(40)は勤務地が遠いため、付き添う場合は女性が担当せざるを得ません。

「どのような生活になるかはやってみないと分かりませんし、小学校に入ったばかりのときは仕事ができないかもという覚悟もあります。ですが、家計のこともありますし、自分の人生も大事にしたいんです」と女性は訴えます。

「子どもが巣立っていったとき、『自分の人生』ってなんだったっけ……とは思いたくありません。子どもにも、『お母さん楽しそう』と思ってもらえるような背中を見せたいんです」

そのためにも、行政には子どもが学校生活を送るうえで必要な支援を提供してもらい、企業には働きやすい環境作りをしてもらいたいと願っています。

長女は来春小学校に入学予定です
長女は来春小学校に入学予定です 出典: 母親提供

専門家「学校教育に伴うケアは公的に保障を」

保護者が学校への送迎や付き添いを求められる現状に対し、佛教大学社会福祉学部の田中智子教授(障がい者福祉)は「学校に親が付き添えなければ教育を受ける権利が保障されないのは問題があると思います。学校は子どもたちにとって自立を目指した学びや生活の場であり、それに必要なケアは家族ではなく公的に保障されるべきです」と指摘します。

障がいや医療的ケアの状況、地域によっては、特別支援学校でも保護者が付き添わなければならないのが現状です。しかし、いまのままでは保護者が体調不良などで付き添えなくなった場合、子どもが教育を受けられない状況も考えられます。「子どもの学ぶ権利の保障と親の生活保障が対立的な関係に置かれてしまっているのです」と田中教授は訴えます。

日本社会には「家族を子どもの生活を支えるための『無償の含み資産』とみなす風潮がある」といい、それを変えていくためにも、「障がいのある子や医療的ケアが必要な子どもを育てる親たちが、自身のキャリアや生き方など『ケアラー(ケアを担う人)以外の属性』に着目した発信をしていくことが大切」と話しています。

【関連サイト】障がい児・医療的ケア児を育てながら働く(朝日新聞デジタル)

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