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お金と仕事

元なでしこのキャリア観 ベテラン選手の「サッカーしかない」に疑問

U-20女子W杯の優勝経験 鈴木あぐりさん

FIFA U-20女子ワールドカップ2018に出場した際のゴールキーパーチーム。左から福田まいさん、スタンボー華さん、GKコーチ西入俊浩さん、鈴木あぐりさん=鈴木さん提供
FIFA U-20女子ワールドカップ2018に出場した際のゴールキーパーチーム。左から福田まいさん、スタンボー華さん、GKコーチ西入俊浩さん、鈴木あぐりさん=鈴木さん提供

目次

FIFA女子ワールドカップ(W杯)2023で、決勝トーナメントに進出したなでしこジャパン。「将来、彼女たちの力になれたら」と話す鈴木あぐりさん(24)は、元なでしこリーガーです。U-20女子W杯の優勝経験者ですが、21歳で突如、引退を発表。現在はアスリートの就労支援と育成の仕事をしています。今のキャリアを希望した理由や、スポーツ界を離れて気づいたことについて聞きました。(ライター・小野ヒデコ)

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鈴木あぐり(すずき・あぐり)
1998年、山形県生まれ。仙台にある常盤木学園高校在学中に、U-20サッカー日本女子代表に選出。卒業後、2017年にマイナビべガルダ仙台レディース(現在はWE.リーグ所属の「マイナビ仙台レディース」)に入団。 FIFA U-20女子ワールドカップ2018ではU-20日本女子代表に選ばれ、優勝をした。ポジションはGK(ゴールキーパー)。2019年12月に引退後、総合情報サービスのマイナビのアスリートキャリア事業部に所属し、就職支援アドバイザーを経て、現在はマーケターとして活動中。
 

仕事も競技も中途半端だった10代

オーストラリア・ニュージーランドで開かれているFIFA女子ワールドカップ。ベスト8に進出したなでしこジャパンの勇姿を見て、「立場は違うけど、負けていられない」――。

そう話すのは、総合情報サービスのマイナビでアスリートキャリア事業部に所属する鈴木あぐりさんです。

鈴木さんは小学校4年生の時にサッカーを始めました。ポジションはゴールキーパー(GK)。高校卒業後、なでしこリーグ所属の「マイナビべガルダ仙台レディース」(現在はWE.リーグ所属の「マイナビ仙台レディース」)に入団しました。

FIFA U-20女子ワールドカップ2018 で優勝した日本代表選手21人と監督、コーチ、スタッフ。鈴木さんは最上段の右から4番目=鈴木さん提供
FIFA U-20女子ワールドカップ2018 で優勝した日本代表選手21人と監督、コーチ、スタッフ。鈴木さんは最上段の右から4番目=鈴木さん提供

2020年に女子プロサッカーリーグ「WE.リーグ」が発足するまで、女子サッカーはアマチュアリーグしかありませんでした。選手は働きながらサッカーをする「デュアルキャリア」が一般的だったと鈴木さんは言います。

「なでしこリーガーになった18歳の頃は、仕事より競技の方を考えてしまい、結果的にどちらも中途半端になってしまっていました。そこで、仕事と競技とを分けず、目の前のことを全力でやろうと心に決めました」

引退の理由は「新しい自分に出会いたかった」

その結果、サッカーも仕事もパフォーマンスが上がり、20歳で「FIFA U-20女子ワールドカップ2018」の日本代表に選出。そして、優勝を勝ち取り、世界一になる経験をしました。

年齢的にも体力的にも、なでしこファンたちに伸び代を感じさせていた鈴木さんですが、翌年の2019年末、突如、引退を発表しました。

「引退のきっかけの一つはケガですが、『新しい自分に出会いたい』と思ったことの方が大きかったです。ケガのリハビリ期間に自分自身と向き合った時、サッカー界という狭い世界でしか生きてこなかったと感じたんです」

FIFA U-20女子ワールドカップ2018で優勝した日本代表選手=鈴木さん提供
FIFA U-20女子ワールドカップ2018で優勝した日本代表選手=鈴木さん提供

選手時代から、引退後は「スポーツ×キャリア」の仕事に就きたいと考えていたという鈴木さん。あるベテラン選手との会話が心に残っていたからだそうです。

その選手のことを尊敬していて、前向きな答えを期待しながら「なぜサッカーを続けているのですか?」と尋ねたところ、「自分にやれることはサッカーしかないからだよ」という答えが返ってきました。

「すごく悲しくなって。スポーツを続ける目的や目標があるのではなく、『ほかにないから』という答えが、『外の世界に出るのが怖いから何となく競技を続ける』という風に感じられてしまって、違和感を覚えました」

「アスリートだけが「『プロ』ではない」

引退後、社内面接を経て、希望するアスリートキャリア事業部に異動した鈴木さん。フルタイムで働き出し、改めて感じたのは「アスリートだけが『プロ』ではない」ということでした。

「遅まきながら『プロフェッショナル』ってスポーツ選手以外にもたくさんいることを痛感しました。サッカーでは世界一になれたけど、ビジネスではスタートラインにも立てていない現実を目の当たりにしました」

「選手時代に培った『状況判断をして、様々な選択肢から最適なものを選ぶ力』は、仕事においても役立っている」と鈴木さん=本人提供
「選手時代に培った『状況判断をして、様々な選択肢から最適なものを選ぶ力』は、仕事においても役立っている」と鈴木さん=本人提供

キャリアアドバイザーとして仕事をしていた時に感じたのは、競技が生活の中心となり、競技の外の人と出合う・関わることが少ないアスリートは、自分の社会的な立ち位置を俯瞰してとらえることに慣れていないことでした。

その時に心がけていたのは、「選手たちの“挫折”に寄り添い、向き合うこと」だったと思い返します。

スポーツは人生を豊かにする手段の一つ

引退して3年が過ぎ、キャリアアドバイザー職から同部署のマーケター職になった鈴木さん。主にサービスの認知度拡大に従事するなか、「スポーツは人生を豊かにする手段の一つ」と感じているそうです。

「現役中は『スポーツ=人生』と考えていました。でも、スポーツをやめても人生は続きますし、選手時代の経験は、その後も生かし続けられるので、すべてつながっていると思っています」

元女子サッカー選手で、現在マイナビアスリートキャリア事業部に所属する鈴木さん=本人提供
元女子サッカー選手で、現在マイナビアスリートキャリア事業部に所属する鈴木さん=本人提供

鈴木さんがこの仕事を通して実現したいのは、「スポーツは人を育てることを、社会に示していく」こと。

「『スポーツをしてよかった』と心から思えるアスリートを、ひとりでも多く増やしていきたい。そのためには、現役中だけではなく、次のキャリアも充実していることが大切だと思います」と話します。

「今、活躍中のなでしこジャパンの半数とは、これまで共にプレーをしたことがあります。いずれ彼女たちにも引退の時期が訪れるはずなので、その時には、何か力になれたらと思っています」

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