連載
#19 小さく生まれた赤ちゃんたち
「母乳バンク」を知ってほしい 認知広げるため、高校生が考えたこと
小さく生まれ、母親から母乳を得られない赤ちゃんのために、ほかの母親(ドナー)から集めた母乳(ドナーミルク)を提供する「母乳バンク」。その存在を知ってもらう活動に取り組んでいる高校生に話を聞きました。
「ドナーミルクを利用することが、当たり前の社会になっていってほしい」
今春開かれた、母乳バンクの報告会。福井南高校(福井県福井市)の生徒3人が、総合的な探究の時間の授業で母乳バンクについて調査研究した結果を発表しました。
「ドナーミルクを当たり前に〜高校生の私達にできること〜」と題して発表したのは、看護や福祉を勉強している3年生の小林詩奈(しいな)さん、北野里奈さん、竹野千花さんです。
2022年9月、同校に清涼飲料水の寄付型自動販売機が設置されました。売り上げの一部が「日本母乳バンク協会」(東京都)に寄付される仕組みで、生徒たちはそこで初めて「母乳バンクって何?」と関心を持ったそうです。
母乳バンクは、1500g未満で生まれた小さな赤ちゃんに母親が母乳をあげられない場合、ほかの母親(ドナー)から提供される母乳(ドナーミルク)を低温殺菌処理し、病院からの要請を受けて提供している施設です。現在日本では東京に2カ所、愛知に1カ所あります。
日本人の平均出生体重は約3000gですが、約10人に1人が2500g未満で小さく生まれていて、その割合は近年横ばいです。
1500g未満で生まれた赤ちゃんは、腸など様々な器官が未熟で、病気や感染症のリスクが高いと言われています。一方で、母乳にはそのリスクを減らす効果があります。
日本財団母乳バンクによると、2022年度、ドナーミルクの利用病院は75施設(前年度55施設)。ドナーミルクを提供した赤ちゃんは813人で、前年度の倍以上になりました。
高校生3人はまず、日本母乳バンク協会代表の水野克己さんに話を聞いて母乳バンクについて学びました。その後、ドナーミルクを提供した母親や助産師にインタビューをしたり、啓発活動のためのSNS発信について勉強したりしているそうです。
探究活動について北野さんは、「『母乳バンク』とは何かを調べるところから始まり、多くの人に知ってもらうためにはどのようにしていけばいいかを考えました」と話します。
実際、同校の生徒を対象に母乳バンクの認知度などを調査した結果、「知らなかった」と回答したのは、看護を学んでいない生徒では約9割、看護を学んでいる生徒でも約7割だったそうです。
母乳バンクをいつのタイミングで知るとよいかという質問には、全体の4割が「高等学校」と回答。「結婚、出産を含めて将来のことを考える時期だから」という意見があったそうです。
発表では、「母乳バンクの知識を得る機会が少ない」ため認知が上がらないと考察。「学校で知る機会を作って子どものころから理解につなげたい」「啓発活動をするためにシンボルマークを作りたい」と話しました。
母乳バンクの探究活動を通して、竹野さんは「母乳が出ないお母さんや小さく生まれる赤ちゃんがいることを知って、自分にも何かできないかを考えました」と振り返ります。
自分たちの出生時や赤ちゃんの頃についても、改めて家族に聞いたという3人。北野さんは「私も2400gの低体重で生まれました。母乳バンクの存在は身近に感じますし、引き続き勉強していきたいです」と話しました。
3人は卒業までドナーミルクの啓発をテーマに探究活動を続けていくといいます。
今年度、新たに2、3年生3人が探究活動に加わりました。同世代に母乳バンクを知ってもらうためのパンフレットを作成し、7月末に行われた同校の学校説明会では中学生向けにドナーミルクの必要性を発表したそうです。
指導教諭として伴走してきた夏目恵実さんは、「以前から探究活動を続けている3人は、後輩の指導者役となって活動を引っ張ってくれています。今後は中高生のみなさんを中心に、ドナーミルクの必要性について知ってもらえるように、啓発方法をブラッシュアップしていきたい」と話しています。
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