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「まるで写真」な〝色鉛筆画〟 不登校だったアーティストの歩んだ道
中3で起立性調節障害に…SNSに救われた
色鉛筆を使って、〝写真のような絵〟を極める男性がいます。「ニンテンドー3DS」の絵をSNSに投稿して話題になった、色鉛筆アーティストの慧人(けいと)さん(20)。学校に行けなかった中学生の頃に始めた絵は、「感情をぶつけられる場所」でした。
紙に置かれた「ニンテンドー3DS」の上を、なめらかに転がる色鉛筆。
〝写真のような絵〟を描くメイキング動画には、立体に見える作品が紛れもなく平面の「絵」だという様子が映し出されています。
SNSを中心に作品を発表している慧人さん(@Yassun0222K)はこれまで、ファンタの缶やコカ・コーラの瓶、メガネ、コップなど多くの立体画を描いてきました。
リアルすぎる絵に、毎回「すごすぎる」「ほんとに絵?」といった声が寄せられています。
慧人さんが色鉛筆画を始めたのは、中学3年生の終わり。
ツイッターで見た色鉛筆画家の作品に感銘を受け「僕も描きたい」と思ったことがきっかけでした。
色鉛筆を10本ほど買って描き始めたものの、まったく思うようには描けません。
「もともと美術は好きでしたが、突出した才能はなくて。でも憧れの人に並びたいと思って、色鉛筆を追加で30色以上買い足して描き続けていました」
中学3年の春休み、多様な色を重ねて描いたダイヤモンドの絵をツイッターに投稿すると、想像以上の「いいね」がついたそうです。
「まだ全然うまくなかったのに、たくさん反応をもらえてとてもうれしくなりました。こんなに人から褒めてもらったことはなかったので、もっと頑張ったらそれ以上の反応をもらえるかもと思ったんです」
色鉛筆画にのめりこんだ理由には、憧れだけでなく「現実からの逃げ」もあったといいます。
幼いころから家庭環境に悩んでいた慧人さん。誰にも相談できず、感情をぶつける先もありませんでした。
小学5年生の頃いじめに遭い、人間関係にもトラウマが残りました。
「嫌われるのが怖くて、中学時代にはほかの子の話を聞いてただ共感するような振る舞い方をしていました。自分のことはほぼ話しませんでした」
一時はテニスに打ち込んで気持ちを晴らしていましたが、大きな解決策にはなりませんでした。
だんだんと夜眠れず、朝起きられない状態になり、高校受験のストレスも重なって、倦怠感や頭痛といった症状のある起立性調節障害と診断されました。
中学3年の2学期からは、学校へ行くことができませんでした。
ツイッターで色鉛筆の達人たちに出会ったのはそんなとき。本物そっくりに描いたり、立体に見えるように表現したり――。クリエイターたちの技術を独学で習得しました。
「絵を描いている時間だけは、嫌なことを忘れられるんです」と振り返ります。
中学卒業後、通信制の高校に進学。パン屋でバイトをしながら、時間があれば毎日絵を描き続けました。
「絵に感情をぶつける。『逃げ』であり、『癒やし』でした。ツイッターに載せると、ありがたいコメントをもらえます。僕にとって『写真にしか見えない』はすごくうれしいんです」
幸いなことに、通信制の高校では悩みを共有できる友人もできました。ようやく、自身の生活を朝起きて夜眠るというリズムに戻せたそうです。
ツイッターでバズったことは、「認めてもらえた」「自分を出していいんだ」という自信につながったと慧人さんは振り返ります。
2023年6月には、初の著書『色鉛筆で写真のような絵が描けるようになる本』(SBクリエイティブ)を上梓。使用する道具や色鉛筆の持ち方、描き方を細かく解説しています。
「本を出す」という中学からの夢を実現しましたが、色鉛筆アーティストとしてはまだまだ「未熟」だと話します。常に改良を重ねることで、成長している実感もあるそうです。
本の出版と同じころ、ツイッターで出会ったクリエイターと共同で初めての作品展を開きました。ずっと慧人さんのファンだったという香港からの留学生も訪れ、交流できたといいます。
「作品展を通じて、ツイッターのやりとりだけでは伝わらないことがあるなと思いました。実際に会ってお話をすると、感情の伝わり方が全然違いますね」
今後は、展示会で来場者に楽しんでもらえる作品にも力を入れるなど、「同じ表現を続けるだけでなく、新しいことに挑戦していきたいです」と話します。
「でも、まずは自分が楽しむことを大事にしたいですね。技術を突き詰めたら、周りの反応も絶対ついてきてくれると思っています」
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