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#12 「健康にいい」の落とし穴

「プリン体0ビール」を選ぶ〝落とし穴〟 食品の含有量を見てみると

ビールがおいしい季節になったが……。※画像はイメージ
ビールがおいしい季節になったが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

尿酸値を気にして、プリン体0のビールを選んでいませんか? でも、その行動には大きな落とし穴が隠れています。“プリン体0”をうたうマーケティングについて考えます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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「プリン体0」は意味ある?

健康診断の結果、尿酸値が高いことを指摘されて、「ビールはプリン体0のものを選ぶようにした」――。身の回りにこんなことを言い出した人はいないでしょうか。でも、そんな人ほど見落としがちなことがあります。

例えば「ビール」「ブロッコリー」「あん肝(生)」「納豆」のうち、100ml/100gあたりのプリン体含有量(mg)がもっとも多い食品はどれだと思いますか。

正解は「納豆」です。『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』のプリン体含有量の表では、それぞれの数字を「ビール(3.3〜6.9)」「ブロッコリー(70.0)」「あん肝(生)(104.3)」「納豆(113.9)」としています。健康によさそうな納豆は、プリン体含有量があん肝(生)より多いのです。

この数字を見てもわかる通り、売っているビールが「プリン体0」を打ち出していても、そもそもビールに含まれるプリン体の量は多くありません。地ビールではもう少し増えますが、それでもガイドラインの表では多くて100mlあたり十数mg。

さらには、ビールでも、蒸留酒でも、そもそもアルコール自体が、体内の尿酸値を上げる方向に働きます。ことさらにビールのプリン体を気にしすぎるのはあまり意味がないこと、とも言えます。

また、納豆よりプリン体含有量が少ない生のあん肝は、調理方法によってプリン体の含有量が変わります。「あん肝(酒蒸し)」になると、含有量は100gあたり399.2mgに。一方、プリン体は水に溶ける性質があるので、例えば生のものを鍋に入れた場合、摂取するプリン体の量は減ると考えられます。

また、納豆は1パック(40g)あたりにすると、その含有量がグッと減ります。その理屈で言えばあん肝の酒蒸しも、そんなに大量に食べるものでもありませんよね。プリン体の多寡を考えるときには、こうした点に注意が必要です。

何となく「体にいいこと」だと思っていることが、実はそうでもないとわかる例が、このプリン体だと言えます。

商品の説明をよく見てみると…

そもそも、なぜ私たちがプリン体を避けているのかといえば、それは「痛風」という病気を防ぎたいからでしょう。

厚生労働省によれば、プリン体は肝臓で代謝され、最終的に尿酸となって体の外に排泄されます。このとき、尿酸が多くなりすぎると、血液の中に尿酸が溜まって、高尿酸血症を引き起こします。

高尿酸血症の状態が続くと、尿酸が結晶化した尿酸塩が関節に沈着し、急性関節炎を引き起こします。これがいわゆる痛風で、ほかに腎臓や尿路に沈着して腎臓障害や尿酸結石を引き起こすこともあります。

健康診断などで尿酸値が7.0mg/dLを超えている場合、高尿酸血症と判断されます。成人男性の20%が高尿酸血症であると言われ、高尿酸血症は痛風関節炎だけでなく、腎障害やメタボリックシンドローム、心血管障害とも関連があります。

一方、プリン体は肉や魚、大豆など体に必要なたんぱく源に多く含まれ、避けるのはあまり現実的ではないものです。また、食物から取り込まれるほかにも、体内で合成されるプリン体もあります。

こうして見ると、少なくともプリン体0のビールを選ぶことは、あまりインパクトの大きい痛風対策ではありません。

「プリン体0ビール」の商品を手に取ってみます。実は、どこを読んでも、「尿酸値」や「痛風」と結びつけた説明はないということに気づきます。商品がうたうのは、あくまで「プリン体が0」という事実だけ。前述した「健康にいい」イメージに乗っかった、マーケティングのためのキャッチコピーにすぎないのです。

厚生科学研究所の『ヘルスアセスメントマニュアル―生活習慣病・要介護状態予防のために』によれば、痛風予防には、まず食事の量とともにすべての種類のアルコールの量を減らし、プリン体(ビール・鶏卵・魚卵・肉・魚などに多く含まれる)の摂取が多い人はそれらを控える、水分と野菜を多くとる、軽い有酸素性運動を行う、などが有効としています。

なお、前述の『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』では、過度な運動や筋トレなどの無酸素性運動を行うと、尿酸が産生されやすくなり、尿酸値が上昇すると解説しています。尿酸がすでに高い人の場合は、ウォーキング程度の軽い有酸素性運動にとどめる必要があるということです。

もちろん、美味しいものは食べたいですよね。何事もほどほどに、イメージ戦略に踊らされることなく、納得できる選択を心がけたいものです。
 
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