安全性について疑問がついてまわる電動キックボード。日本自動車連盟(JAF)がその事故を想定した試験結果を公表し、ネットで大きな話題を集めました。新しい交通手段にはどのような危険があり、どう避ければいいのでしょうか。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
7月1日から、改正道路交通法の一部施行により、特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)という電動キックボードの規格が新設されました。
特定小型原付のポイントは「最高時速20km(歩道は時速6km)」「ヘルメットの着用は努力義務」「16歳以上であれば運転免許なしでも運転可能」であること。「自転車並み」とも評されます。一方で、その安全性には疑問の声も上がっていました。
日本自動車連盟(JAF)は同月、電動キックボード運転中の事故を想定した試験の結果を公表しました。電動キックボードでは、最高時速が低くても、衝突事故になったときに利用者や巻き込まれた歩行者に大きなダメージが加わるおそれがあること、被害を軽減するためにはヘルメットが重要であることがわかりました。
JAFがYouTubeでその試験の結果を紹介した動画には、ユーザーの「歩いててもキックボード来たら怖い」「巻き込まないでほしい」といった声が集まりました。
JAFの試験では、電動キックボードが街中で遭遇しそうな場面を再現。走行速度やヘルメットの有無によって、衝突・転倒時の危険度がどう変化するのか検証しました。
電動キックボードにダミー人形を乗せてレールにセット。6km/hもしくは20km/hの一定速度で、「縁石」「歩行者」「自転車」「自動車」に衝突させました。その際の頭部損傷を示す値(HIC値)をそれぞれ計測し、ケガのリスクを検証しています。
HIC値とは、Head Injury Criterionの略で、衝突や落下などの衝撃による脳や頭蓋骨への損傷程度を表す数値のことです。HIC1000の基準を超えると脳損傷の可能性があり、HIC3000を超えると非常に高い確率で重篤な傷害が発生するとされます。
まず、縁石に乗り上げて転倒した際には、ヘルメットを着用している場合でも、HIC値が1000を超える結果となり、頭蓋骨骨折のリスクがあるほどの衝撃でした。
ヘルメット非着用の場合は、HIC値が7766.2と、ヘルメット着用している場合の約6倍の数値となり、重篤な頭部損傷を負ったり、亡くなったりするリスクが高い結果でした。
歩行者と衝突した際には、歩行者が後方に倒れ、地面に頭部を打ち付けたと想定した場合のHIC値は基準の約4~7倍の数値となり、頭蓋骨骨折や脳損傷、死亡のリスクが高い結果でした。また、電動キックボードの速度が速いほど、危険性が高くなる傾向がありました。
自転車と衝突した際、双方がヘルメットを着用していれば、HIC値は1000を超えることはありませんでした。ただし、歩行者の場合と同様、電動キックボードの速度が速いほど、危険性が高くなる傾向がみられました。
最後に、ヘルメット非着用の状態で、自動車との出会い頭を想定して車両前輪へ衝突させたところ、ダミー人形はいったんフロントガラスに乗り上げた後、後頭部を路面に打ち付けました。HIC値は6346.3と非常に高くなり、頭蓋骨骨折や脳損傷、死亡のリスクが高い結果となりました。
JAFはまとめとして「電動キックボードが対象物に一次衝突したときよりも、転倒して地面に二次衝突したときのほうがHIC値は高くなり、より影響が大きいことが明らかとなった」とコメント。
「電動キックボードに乗る際は、あご紐を確実に締めるなど正しくヘルメットを着用し、交通ルールやマナーを守り、安全に走行しましょう」と呼びかけています。