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つわりや妊婦健診で減る有休 休みやすくするため動く、企業や自治体
「よほど体調がつらい日以外は頑張って有休を節約する」という妊婦さんも…
「つわりや妊婦健診で年次有給休暇(有休・年休)を使わざるを得ない」「有休は何かあったときのために取っておきたいから少しくらい無理をしてでも出勤する」。妊娠期間中の仕事との向き合い方は、働く妊婦にとって悩みの一つです。そんな社員をサポートしようと、妊娠中に特別に使える有休を導入する企業もあります。制度はあっても社員が使うのを躊躇するという中小企業のため、ある自治体では奨励金を出す事業を始めました。
「つわりで体調が悪かったときは全然起き上がれませんでした」。2022年に出産した都内の会社員瀧口さゆりさん(32)はそう振り返ります。
つわりがひどいときは休んだり、出社からリモートワークに切り替えたりして対応したそうです。「妊娠初期の頃は、万が一の可能性も考えて会社に妊娠を伝えていなかったので、つわりで休むと言えないつらさもありました」
別の会社員の女性は、つわりで一日中吐き気が止まらず、仕事に集中できなかったといいます。しかし、休職したり有休をまとめて取得したりすることは考えなかったそうです。
「有休は産後の子育てに取っておきたい、減ると困ってしまうのではという不安がありました」
SNSでも、「よほど体調がつらい日以外は頑張って有休を節約する」「通院で有休減るし不安」「つわりで有休使い果たして、あとは休めば休むだけ給料マイナスになる」といった声は後を絶ちません。
つわりや妊婦健診で休む妊婦やパートナーをサポートするため、企業独自の特別休暇を設ける動きもあります。
ヘルスケア事業を展開するベンチャー企業DUMSCO(東京都)は今年5月、社員やそのパートナーの妊娠中に利用できる「プレママ・プレパパ有休」の運用を始めました。日数は勤続年数によって異なりますが、妊娠期間中に10~25日付与されるといいます。
つわりなどの体調不良のほか妊婦健診にも利用でき、パートナーが妊娠中の社員が健診に付き添う場合にも使えるそうです。
有給無給問わず、こうした独自の制度を採り入れる企業は多々あります。一方で、制度はあっても人手不足のため「休みを取りづらい」という声も上がります。
そんな声を受け、行政が動いたケースもあります。
兵庫県丹波市では4月、市内の中小企業を対象に、従業員が妊婦健診のために特別休暇を取得した場合、条件付きで1事業所あたり10万円を交付する事業を始めました。
市の担当者によるとまだ実績はありませんが、30社ほどから問い合わせがあったそうです。
「市のアンケートでは『休みづらい』『土曜日に通院するしかない』という妊婦さんの声が上がってきました。奨励金の交付で会社側から休みを取るように勧めてもらいやすくなるのでは」と期待を込めます。
丹波市の制度は、企業が有給の特別休暇を導入していることが条件です。「法律で定められた妊婦健診なので、無給ではなく有給にしていただきたい。そこを市が補塡する形で交付します」
無給の制度を運用する企業も多い中、前出のベンチャー企業DUMSCOの担当者は、「有休を使い果たしてしまって欠勤になった場合、育児休業中の給付額に影響が出ます。欠勤を避けるため無理して出勤せざるを得ないケースを解決したい」と有給にしたそうです。
一般的に育休中は給与が支払われませんが、生活を支えるため雇用保険から給付金を受け取れます(条件あり)。
期間は原則として子どもが1歳になるまで。支給額の基準となるのは、育休開始前の6カ月の賃金合計を180で割った額です。最初の180日間はその67%、181日目からは50%が受け取れます(上限・下限あり)。
育休前の6カ月の賃金といっても、対象は11日以上働いた月とされます。例えば、つわりなどで欠勤が続き、勤務日数が10日以下の場合の月は6カ月に算入されません。
仮に使える有休がなくなり、欠勤しながら11日以上働いた月があった場合、通常勤務の月よりも賃金が減るため育休中の給付金に影響することも考えられます。
妊娠中つわりや貧血などの症状がひどい場合、主治医に相談した上で「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」を利用して休みや時短勤務を申し出ることができます。一方で、厚生労働省によると、休みを取ることになった場合も有給か無給かは勤務先の就業規則によるため確認が必要です。
育児をしながらの働き方に詳しいコンサルタントの山口理栄さんは、企業が制度を手厚くすることについて「従業員やその職場を目指す人に対するメッセージ。『こういう価値観を持って雇っています』ということを表しています」と説明します。
また、妊娠中の社員だけでなく、社員の妊娠中のパートナーにも職場が配慮する姿勢は大切だと指摘します。
「男性社員が、妊婦であるパートナーの付き添いやケア、上の子の育児を全て担うこともあり、会社や上司が理解を示す必要がある」と話します。男性が妊婦健診に付き添うことは、子どもが生まれたあとの意識にも影響してくるそうです。
一方で、企業が制度を導入する場合、「特定の条件の人に手厚くして、ほかの社員からみて不公平になっていないかという視点も重要。妊娠した人たちだけでなく、不妊治療をしている人や子どものいない人とのバランスも考えなければいけない」と話します。
「制度を手厚くするだけではなく、どの社員も働き続けられる環境を整えることが大切です」
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