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#19 親になる

テレワーク「仕事と育児の両立」できる?「3歳まで在宅勤務」その後

厚労省が公表した報告書では「テレワークは仕事と育児の両立に資する」とされたが……。※画像はイメージ
厚労省が公表した報告書では「テレワークは仕事と育児の両立に資する」とされたが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

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『「3歳まで在宅勤務」、企業に努力義務』そんなニュースが駆け巡り、「テレワークを強制するのか」「できない職種はどうするのか」といった批判的な指摘が相次ぎ、一時はTwitterのトレンドになるほどでした。しかし、落ち着いて厚生労働省が公表した報告書を読み解くと、これらの指摘も押さえた、イメージと異なる内容で――。在宅勤務をしながら育児に携わった1年を振り返りつつ、「テレワークは仕事と育児の両立に資する」とする報告書を紐解きます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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「テレワーク強制」ではない

もうすぐ1歳を迎える我が子は、最近になって一気にハイハイ、つかまり立ち、伝い歩きを習得。急に上がった自分の体のスペックを試したいのか、ベビーサークルやベビーベッドの中で大暴れ。転んだり倒れたりもこれまでより増えてきました。

成長をほほえましく思うとともに、これまで以上に目を離せなくなり、肉体的、精神的になかなか削られます……。

そんな私を含め、苦労の絶えない親たちからさまざまな意見が飛び出したのが、5月半ばの「子供3歳まで在宅勤務、企業の努力義務に 厚労省」(日経新聞)というニュースでした。SNS上では批判も多く、一時「在宅勤務」がTwitterでトレンド入りするほどに。

今月12日、その詳しい内容が厚生労働省の有識者研究会「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」の報告書案の中で公表されました。その内容を読んでみると、5月時点で取り沙汰されたニュースの内容とは、ややイメージが異なりました。

一つ目のポイントは、今回の案が、すでにある子育てのための複数の制度に、新しくテレワークを加える性質のものであること。

まず、この報告書では、育児期の働き方に関する労働者側のニーズとして、厚労省委託事業の2022年度(令和4年度)労働者調査により、女性正社員、男性正社員ともに「残業をしない働き方や、出社や退社時間の調整、テレワークによる柔軟な働き方を希望する割合」が高かったことを挙げます。

その上で、現在では「残業免除」が3歳になるまでに限られており、テレワークの導入については育児・介護休業法上規定されていないことを指摘します。

そして、特に、コロナ禍で一定の広がりが見られたテレワークに「通勤時間の削減」などのメリットがあり、柔軟な働き方の選択肢として職場への定着が進めば、「育児・介護が必要な状況においても有用な働き方となる」「積極的に活用を促進していくことが望ましい」と説明。

そこで、現在もある「育児目的の休暇」や「始業時間の変更等(フレックスタイム制、時差出勤制度、労働者の養育する子に係る保育施設の設置運営等)」の努力義務や、「短時間勤務制度」「残業免除・制限」「子の看護休暇」などの権利・措置義務に加えて、「テレワーク」を努力義務とする方向性が示されたのでした。

5月に話題になったときには、ニュースの見出しが先行してしまい、一部で“テレワーク強制”のように受け取られてしまいましたが、「選択肢が増える」こと自体は、悪いことではないはず。

一部メディアが使用した「選択的テレワーク」という言葉の方が、実態に即しているようにも感じます。

保育サービスの利用が前提

二つ目のポイントは、保育サービスの利用を前提にしていること。SNSでは、在宅勤務で仕事をしながら子どもの面倒を見るのは現実的ではないことから、「子育てをナメてる」「無理ゲー」といった意見が支持されましたが、さすがにそれは理解されていたようです。

テレワークを推進するにあたっては「就業に集中できる環境の整備やテレワーク中の健康管理など、利用の際の課題にも留意することが重要」とされ、「就業時間中は保育サービス等を利用して業務に集中できる環境が整備されていることが必要」とあります。

また、環境の整備のためには「例えば、保育所等への入所に当たり、居宅内での勤務と居宅外での勤務とで一律に取り扱いに差異を設けることのないよう、保育行政において徹底していくことが必要である」とも明記されました。

一方で、未だに「待機児童」「隠れ待機児童」の問題は残っており、認可保育所よりも高い保育料を負担しながら、認可外の保育所に子どもを通わせざるを得ない家庭、認可外の保育所にも入れず育休を延長する家庭も多くあります。

「保育サービス等を利用して業務に集中できる環境」が理想だけにならないようにする取り組み、具体的には認可保育所の拡充や保育料の減免の拡充、育休中の収入の増加などを、引き続き強く求めていかなければいけないでしょう。

また、在宅で働く保護者が「通勤時間が短い」などの理由から、外で働く保護者より保育所に入所する際の優先度が低く設定されていたことについては、コロナ禍を経て各自治体における是正も行われています。

もともと「居宅内での労働か、居宅外での労働かという点のみをもって優先度に差異を設けることは望ましくなく、個々の保護者の就労状況を十分に把握した上で判断すべきである」ということは内閣府・厚生労働省の連名事務連絡として、2017年に示されており、あらためてこのことは周知されるべきです。

今回の案への批判には、他にも「在宅できない職種はどうするのか」「子どもができればテレワークが既得権益になるのか」といったものがありました。

これらについても、あくまでテレワークは制度の一つであることや、育児だけでなく介護時の利用も想定されていることから、報告書を読むと、やはりイメージが変わるかもしれません。

また、そもそもこの案は、5月に話題になる前、3月下旬の時点で「育児期のテレワーク促進へ 少子化対策、企業に努力義務案―厚労省」(時事通信)などとして報道されていました。5月に知った私も、記者としてだけでなく、親として関心をより広く持たないといけないと反省したのでした。

仕事と育児の両立に資するか

こうした条件が整えば「テレワークは、フルタイムで勤務できる日を増やせることも含めて仕事と育児の両立に資するものである」というのが、この報告書の見解です。

記者はこの1年、主に在宅勤務をしながら、まさに育児との両立を目指してきました。育休中の妻がメイン、私はサブというスタンスで、基本的に自宅で子育てをしています。その経験からすると、テレワークで確かに子育てはやりやすくなりました。

具体的には、休憩時間や退勤後に当たる時間に、パッと育児や家事のタスクを肩代わりできるというメリットがあります。昼休憩のときに離乳食をあげたり、合間におむつを替えたり、夜になる前に沐浴をさせたり……。

妻に話を聞くと「一人じゃないと思えるのが大きい」ということでした。妻の育児・家事分担が多いのは事実で、一つのタスクが詰まると物理的に後がつかえてしまいます。

そんなとき、家の中には仕事中の私がいるので、ヘルプを頼むことができるし、産後のメンタルが不安定なときにも、精神的にも落ち着くことができたそうです。

また、地味に助かっているのは、今も継続中の夜泣き対応です。細切れにしか眠れず、ひどい時は合計しても3、4時間しか睡眠時間を確保できない日が続きます。そうすると、通勤時間のぶんだけでも1時間ほど多く、睡眠にあてられる時間を確保できるというのは、生命線とも言えるほどのインパクトがあります。

一方で、この案への批判にもあったように、そもそもリモートワークができない職種の人もいます。我が家で言うと、医療職の妻がそれにあたります。子どもが保育園に入ることができて、妻が仕事復帰した場合、まさに時短勤務や夜勤の免除など、リモートワーク以外の選択肢を職場に掛け合うことになるでしょう。

また、私が在宅勤務できるのは今の部署、仕事内容だからであり、会社員である以上、状況は常に変わる可能性があります。保育園に入ったら入ったで、仮に3歳になったらなったで、その時々の困りごとがあることでしょう。

こうしてみると、「一つで子育ての課題すべてをカバーできる」ような施策はない、ということがよくわかります。一長一短の選択肢を組み合わせながら、各家庭にとっての最適解を探していくしかありません。

ただし、前提になるような課題、この件で言えば保育園の預けにくさなどが未解決のまま、議論が進んでしまうことは望ましくないことです。

厚労省は来年の通常国会に、育児・介護休業法改正案などの提出を予定しているということです。あらためて、何が前に進んで、何は進んでいないのか、「異次元」といったキャッチコピーに動じずに、目を向けていくべきではないでしょうか。

※この記事はwithnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。

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