WHOが先月発表したガイドラインでは、いわゆる“ゼロカロリー”“糖質ゼロ”とうたわれる食品に使用されている甘味料が、実はダイエットにはNGであるという見解が示されました。「カロリーや糖質ゼロ」なのに「体重減少効果がない」とされたのは、どのような理由からなのでしょうか。甘味料に関するこれまでの研究結果をまとめます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
WHOが5月15日付で発表したガイドライン(※1)は、ダイエットに興味がある世界中の人に衝撃を与えました。その内容は「砂糖代替の甘味料に体重減少効果はなく、むしろ病気のリスクを高める」というもの。
日本でも「健康に良さそう」という理由で、「ゼロカロリー」「糖質ゼロ」のジュース飲料などを選んでいる人も多いことでしょう。
しかし、WHO栄養・食品安全担当ディレクターのフランチェスコ・ブランカさんは、「砂糖をNSS(Non-Sugar Sweeteners;非糖質系甘味料)に置き換えることは、長期的には体重コントロールの役に立たない」と明言します。
NSSとは、砂糖の代わりに用いられる糖質でない甘味料を指し、一般的にはアセスルファムK、アスパルテーム、サッカリン、スクラロース、ステビア、ステビア誘導体などが含まれます。エネルギーになる糖質ではないため、「カロリーゼロ」をうたう食品には、こうした甘味料がよく使われています。
今回のWHOの勧告は、過去の複数の研究を調査するシステマティックレビューの結果に基づいたもの。
WHOは「NSSを摂取しても成人および小児の体脂肪を減らすうえでは長期的な利益をもたらさない」こと、「長期使用により成人の2型糖尿病や心血管疾患、死亡のリスク増加など、望ましくない影響がある可能性」が示唆されている、としています。
ただし、調査対象とした研究論文はいずれも基礎疾患に糖尿病を持つ人が被験者として含まれていなかったため、「判断できない」という理由で、「すでに糖尿病の既往を持つ人は今回の勧告の対象から除外する」としました。
※1. WHO advises not to use non-sugar sweeteners for weight control in newly released guideline - World Health Organization
そもそも、WHOは2015年に、肥満と関連する非感染性疾患(NCD)の予防のために、「糖分の1日あたり摂取量を総エネルギー摂取量の5%以下に抑えるのが望ましい」とするガイドラインを発表していました。
NSSの普及はこうした背景で広がったとする見方もあり、年月を経て、WHOが自らその流れに“待った”をかけたとも言えます。
では、なぜNSSは長期的な体重コントロールや体脂肪減少の役に立たないのでしょうか。今回のガイドラインでは、その機序までは説明されていません。
参考として、NSSの一種である、いわゆる人工甘味料について、2021年の研究(※2)では「人によっては人工甘味料に減量効果がないばかりか、食欲を高めてしまう可能性もある」ことがわかっています。
これはアメリカの南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校のキャスリーン・ペイジさんらの研究で、「過去3カ月間の体重が安定している健康な成人74人(平均年齢23.40±3.96歳、女性58%、過体重者32%と肥満者31%を含む)」が対象。
12時間の絶食後、人工甘味料(スクラロース)溶液、砂糖溶液、水を飲ませて代謝や食欲の変化を比較しました。摂取後にfMRI(MRI装置を使って脳活動を調べる方法)で食べ物の写真を見たときの脳の反応を評価したり、実際にビュッフェ形式で自由に食事をさせて摂食量の違いを検討したりした点も面白い研究です。
この研究では、スクラロース溶液摂取後には、食欲を亢進させるホルモンの値が、砂糖水摂取後よりも高くなることがわかりました。また、fMRI検査から、女性や肥満者では、砂糖水と比較して、スクラロースを摂取したとき、脳内の食欲に関わる領域の活動が活発になることもわかりました。
※2. Obesity and Sex-Related Associations With Differential Effects of Sucralose vs Sucrose on Appetite and Reward Processing: A Randomized Crossover Trial - JAMA Netw Open. 2021 Sep 1;4(9):e2126313.
また、 2014年の研究(※3)では、人工甘味料が腸内細菌叢を変化させ、糖の代謝障害をもたらす可能性が報告されています。他にも、人工甘味料が炭水化物とともに摂取されると人体に有害な影響が生じる可能性を示す2020年の研究(※4)もあります。
※3. Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota - Nature. 2014 Oct 9;514(7521):181-6.
※4. Short-Term Consumption of Sucralose with, but Not without, Carbohydrate Impairs Neural and Metabolic Sensitivity to Sugar in Humans - Cell Metab. 2020 Mar 3;31(3):493-502.e7.
病気については、人工甘味料の摂取量の増加に伴い、心血管疾患のリスクが上昇し、特にアスパルテームは脳血管疾患、アセスルファムKとスクラロースは冠動脈性心疾患のリスクと関連するとした研究(※5)結果が、2022年に発表されています。
この研究は、平均年齢42.2±14.4歳、10万3388人(女性79.8%)、追跡期間中央値9.0年のデータが用いられた大規模なもの。人工甘味料の総摂取量の増加に伴い、心血管疾患のリスクが有意に上昇したとしています。
※5. Artificial sweeteners and risk of cardiovascular diseases: results from the prospective NutriNet-Sante cohort - BMJ. 2022 Sep 7;378:e071204.
NSSの普及自体が比較的、最近のことで、長期的な健康への影響には、わかっていないことが多くあります。WHOのガイドラインやこうした研究結果には反論もあり、さらなる研究が待たれますが、今回、WHOが一定の見解を示したことは、NSSへの認識を見直すきっかけになりそうです。
では、NSSでなければいいのか、つまり砂糖ならいいのかと言えば、そもそもは「糖の摂りすぎが健康によくない」ことが出発点でした。いかに「ほどほど」で満足するか、そのためにはNSSも含め、どのように生活に取り入れるべきか、知識をアップデートしながら、考え続けていきたいものです。
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