13日、政府の提唱する「異次元の少子化対策」の具体的な中身が正式決定され、「待機児童が減少したこと」が成果として強調されました。一方、保活の真っ最中の当事者としては「待機児童ゼロ」とうたわれることに違和感も覚えます。保育所の問題から、預けやすさ、ひいては働きやすさを考えます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
昨夏に生まれた第1子は、もうすぐ1歳になります。ハイハイより先につかまり立ちをするようになり、「9~10カ月健診の項目を満たさないのでは」と親としてはやや不安でした。
しかし、数日後には新幹線のニョロニョロしたおもちゃを追って、赤ちゃん用の施設の床を縦横無尽にハイハイして回るように。成長のスピードに驚かされるばかりですが、この時期は親として考えなければいけないことも増えます。
そろそろ1歳ということは――育児休業が1年間の期限を迎えるのです。我が家では現在、妻が育休中で、仕事への復帰を希望しており、少し前から我が家でも「保活」が始まっていました。そろそろ保育園の申し込み期限です。
2016年に実施・発表された厚生労働省の『「保活」の実態に関する調査の結果』(n=5512)では、「保活」を開始した時期は、出産後6カ月以降とした人が1266人(23.0%)、次いで出産後6カ月未満の人が1219人(22.1%)。早い家庭は早いし、期限に向けて動く家庭もある、という状況は、今も変わらない印象です。
一方、この調査は子育ての問題を解消するため、実態把握を目的に行われたものなので、今とは状況が異なる点も多くあります。当時から大きな問題になっていたのは、やはり「待機児童」です。
現在はどのような状況なのでしょうか。厚労省が毎年発表している『4月の待機児童数調査のポイント』の2022年度版では、待機児童数は2,944人と前年から2,690人減。調査開始以来、4年連続で最少となっています。調査のあった2016年が23,553人だったことを踏まえると、大幅に改善されているようにも見えます。
約85.5%の市区町村(1,489)で「待機児童なし」となり、待機児童数が50人以上の自治体は10自治体まで減少しました。
東京都でも、2022年4月時点の待機児童数は減少。2021年と比較し、区部で256人、市町村部で413人、全体では669人減り、300人となりました。
では、実際に我が家の保活がどうなるかというと――希望どおりの保育園には入園できない見通しです。
いわゆるベッドタウンで生活していることもあり、毎月チェックしている認可保育所の0歳児クラスの定員は、家から通える範囲の複数の園では、常に満員。親としては、国の基準を満たす認可の保育所が第一希望ですが、おそらくは選考に落ちることになるでしょう。
認可外は、保育料もネックです。条件によっては、園に入ることができて仕事復帰した場合と、園に入れず育休を延長した場合で、実は家計における収入は同じくらい……という現象が起こり得るとわかり、夫婦で驚きました。それでも、家から通える範囲の園に空きがあるかは、その時にならないとわかりません。
あわせて、送り迎えはどう分担するのか、その場合、勤務先に時短勤務などの制度はあるか、妻は医療職で夜勤が、私も交代で泊まり勤務があり、この調整をどうするかなど、話し合っておかなければいけないことも多いのです。そしてこの勤務の調整は、回り回って家計にも影響してきます。
もし、認可保育園の選考に落ちて認可外の保育園に入り、妻は仕事に復帰するも収入が増えるわけでなく、それぞれの仕事の調整の負担と、共働きしながら子育てをする慣れない負担が増える、というシナリオになったとします。
定義の話なので当然ですが、我が子は「待機児童」にはなりません。実際、私の住む自治体は「待機児童ゼロ」をうたっています。
「保育園落ちた日本死ね」という匿名ブログを一つのきっかけに、待機児童問題がこの7~8年、大幅に改善されてきたのは事実でしょう。一方で、この「待機児童ゼロ」という言葉に、複雑な思いを抱いてしまうのもまた正直なところです。
13日、政府の提唱する「異次元の少子化対策」の具体的な中身『こども未来戦略方針』が正式決定されました。働いているかを問わず、誰でも時間単位等で保育所を柔軟に利用できる「こども誰でも通園制度」など、当事者として助かると感じる施策もある一方で、その中身に目を通すと、従来的な保育所の入りやすさについては「待機児童が減少したこと」を成果とし、それ以上はほとんど踏み込んでいません。
実際に保活に取り組んでみると、まだまだ困りごとは多く、一定の解決をみたような書き振りには、違和感も覚えます。
保育園への入園希望が叶っていないにもかかわらず、「特定の園を希望している」「育児休業を延長している」などのケースと判断され、待機児童の数にカウントされない「隠れ待機児童」もいます。
全国の自治体が調査しており、2022年4月時点で7万人超に上りました。これは、過去最低だった待機児童数の約24倍です。5年前の2017年は69,224人で、高止まりが続いています。
横浜市は2022年に、待機児童や隠れ待機児童の背景を初めて分析しました。同市は、認可保育所などへの申し込みをしたものの、入所できなかった児童を「保留児童」としています。このうち、育休の延長希望者を除いた1,647人について、申請書類などに基づいて調査しました。
それによると、対象の保留児童の約7割が、育休から復帰する保護者が多い1、2歳児でした。こうした事実からも、保育所の問題は、実際には解決していないとみることができます。
我が子も、もし保育所に入れず、妻が育休を延長した場合、このうちの1人になるでしょう。社会問題と紙一重であることを、あらためて思い知らされました。
また、思い出されるのが、2018年ごろ、育児休業を延長したい人が、そのために必要な書類であり「保育所に子どもを預けられないことを証明」する不承諾通知をもらう目的で、実際には希望しない保育所の利用を申し込む事例が急増し、「落選狙い」として問題になったことです。
本当に希望している人が保育所に入れなかった例もあり、各自治体で申込時に「育休の延長希望があるか」を確認し、希望する場合は選考から除外することのできる運用へと変更されました。
我が家は育休からの復帰を希望しています。その上で、仕事には「働きがい」以外にも、当然、生活していくための賃金を得る、という目的があります。近年、物価が高い中で生活するにも、共働きは有効な手段です。
ここで、保育料や時短勤務の条件によっては「仕事復帰と育休継続で収入が同じくらい」というのは、ちょっとモヤモヤします。「共働きの子育てで負担は増すのに収入は増えない」ことを避けるために、育休を継続したいと考えることは、合理的と言えば合理的です。
これらのことから、かねてから言われ続けているように、認可保育所の拡充や保育料の減免の拡充、育休中の収入の増加などが、特に第1子を設けたばかり、2人目を検討中の世代に有効な対策の一つであるのは間違いありません。
もちろん、各家庭で困りごとやその優先度は異なります。しかし、働き盛りの世代が子どもを持ったとき、「どこにどう預けるか」は真っ先に直面する問題です。預けやすさは働きやすさ。「隠れ待機児童」などの問題への、引き続きの対策が待たれます。