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SNSで見る子育ての〝すべき論〟「誰かの言葉に傷つかなくていい」
ライター・コラムニストの佐藤友美さんに聞きました
「子育てと仕事の両立」は苦しいもの――。SNSやインターネットで情報収集をしていると、「こうするべき」といった子育て論を目にしたり、「大変さ」を強く感じたりすることがあります。
ライター・コラムニストの佐藤友美さん(47)は「子育ての楽しい面が表に出ることは少ない」と指摘します。「知らない誰かの言葉に傷つかないで」と呼びかける佐藤さんに、子育てで自身が変化したことや、SNSとの向き合い方を聞きました。
佐藤友美さん:ライター・コラムニスト。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)など。小学6年生の息子と暮らすシングルマザー。
佐藤さんは、新著『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)で、小学6年生になった息子(12)との3年間をつづっています。
子どもが生まれるまで、子育ては「教え導くこと」だと思っていた佐藤さん。しかし実際は、「教わったこと」の方が多いと話します。
「子どもとしゃべっていると自分の詭弁(きべん)に気付くんです。『さっき言ってたことと違くない?』『それってママの都合じゃない?』とよく言われます」
「彼の言葉の方が芯を食っていると思うことが何度もあり、私が教えるのではなく一緒に考えようと思うようになりました」
著書では、子どもが生まれて「できなくなったこともあるけれど、それ以上に、できるようになったことのほうがずいぶん多い」と振り返っています。
その中の一つが、「ちょっぴり性格がよくなった」こと。仕事で会うスタッフや、主宰するライター講座の生徒に対して接し方が変わったそうです。
「今までも一生懸命仕事をしてきたつもりですし、人と真面目に付き合ってきたつもりでしたが、自分の考えをスタッフさんに押しつけていたんじゃないかと反省しました」
「ライター講座では私がマシンガンのようにずっとしゃべり続けて、とにかく1文字でも多くみなさんに情報をインプットしてもらおうと思っていました。でも今は、生徒さんが何を知りたいか、どこでつまずいているかを先に聞いて、解決策を一緒に考えています」
大変さや負担感が先行しがちなPTA活動についても、副会長を経験した佐藤さんはポジティブに捉えています。
「推薦されたのですが、ありがたく受けました。子どものおかげで出会える組織と関わらないのはもったいないと思ったんです」
PTA活動を通して、「これまで先生方の仕事の一部しか見ていなかった」ことにも気が付きました。
コロナ禍で休校になったとき、出された宿題の多さに「学校は親に丸投げ?」と疑問に思った佐藤さん。しかし、後に当時の教員も試行錯誤していたことを聞き、互いの思いを「知ること」の大切さを感じたそうです。「親も教師も、お互いが子どものためを思って動いている仲間だと感じました」
息子が小学校に入ってから、ボランティアの人々の存在も意識するようになりました。横断歩道や道路の角に立って見守ってくれる地域の人々。「子どもたちってこんなにたくさんの手で守られているのかと気付きました」
子育てには大変な面もあれば、楽しい面だってあります。しかし、ポジティブな発信が表に出てくることは多くないのかもしれません。
子育てと仕事の両立について取材を受けることが多い佐藤さんは、これまで「両立は苦しいもの」という前提で質問をされることが多かったと感じています。
「特に20、30代のライターさんから取材を受けるとき、『どうやったら両立できるのか』『キャリアを中断すると二度と戻れないような気がして産むイメージができない』といった意見を多く聞きました」
苦しいイメージが持たれてしまう背景には、SNSも関係していると考えています。SNSで拡散されやすい話題の多くは、負担や苦労などネガティブなテーマです。
「ママ友と直接会って話すときは子どもの成長をお祝いしたり、楽しいエピソードをたくさん聞いたりしますが、『SNSで発信しても私たちにいいことはないもんね』と話したことがあります」
「子育て自慢と捉えられたり、産めない人の気持ちを考えたことはあるのかと問われたり……。SNSは様々な角度からボールが投げられてくるから、話しにくい場所になっているんだろうなと思います」
ネットやSNSには様々な子育て情報があふれ、「ハック」も手に入れやすくなりました。一方で、「母親はこうあるべき」「それは子どもがかわいそう」といったメッセージも目に付きやすい状況です。
「3歳児神話(子どもが3歳になるまでは保育園に入れずに母親が子育てをするべきという考え)」など、すでに否定されている〝呪い〟を見て悩む人もいるかもしれません。
佐藤さんは、「『すべき論』を受け止めてしまうのは、主語を見誤るから」と指摘します。
「例えば、『母親は子どもを預けて出張に行くべきではない。子どもがかわいそう』という投稿があったとします。その投稿の主語は、母親でも子どもでもなく、たった一人の『発信者(筆者)』です」
「『筆者はそう思う』というだけで、世の中の全員がそう思っているという意見ではありません。知らない誰かの言葉に傷つかなくていいんじゃないかと思います」
佐藤さんがエッセイを書く際も、「私はこう思っています、あくまで私個人の感想ですという書き方」をして、主語を大きくしないように気をつけているそうです。
著書では、息子が小学5年生までのエピソードをつづっている佐藤さん。今後の息子との関係について聞くと、「一番早く子どもと離れるとしたら、中学校卒業だと思います。高校から寮に入ったり、海外へ行ったりする可能性もあるかもしれません。そうなるとあと3年です」と話してくれました。
「でも、その3年の間に『私が何かを教え切りたい』とは思いません。本人が『この人は面白い、この人に付いていきたい』『これをやってみたい』ということが見つかるといいなと思っています」
「手が離れる前にその芽のようなものがあると、安心して『いってらっしゃい』と言える気がして。本当に何でもいいけど、本人が見つけてくれるとうれしいです」
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