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ぺいぺいって何?「広辞苑かるた」チンプンカンプンでも楽しめる魔力

あの有名な「広辞苑」モチーフのかるたが、密かなブームを巻き起こしています=筆者撮影
あの有名な「広辞苑」モチーフのかるたが、密かなブームを巻き起こしています=筆者撮影

目次

言わずと知れた、国語辞書のロングセラー「広辞苑」。この本に収録されている語句をカードにあしらった「かるた」が人気です。載っているのは、一般になじみが薄い言葉がほとんど。にもかかわらず、「よく分からないのに面白い」と病みつきになる人が続出しています。魅力の源泉について、製作者に聞きました。(ライター・神戸郁人)

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謎の言葉を集める面白さ

広辞苑は、岩波書店の中型辞書です。1955年の出版以来、時代の変化に合わせて改訂を重ねてきました。最新の第七版(2018年刊行)には、約25万語が収められています。

2023年5月、その名を冠した「広辞苑かるた」が発売されました。岩波書店の公式グッズではなく、同社の許諾を得た上で、ボードゲーム製作・販売事業者ForGames(東京都港区)が独自に開発した商品です。

かるたは、広辞苑から抽出した50語の見出しを刻んだ取り札と、語釈(意味の解説文)をプリントした読み札が、50枚ずつあります。語釈を吹き出しで囲み、開いた辞書の絵の上に配置するなど、こだわり満載のデザインです。

興味深いのが、言葉のラインナップ。例えば、こんなものが選ばれています。

・ろっく【六垢】

・ぺいぺい

・すえづよ【末強】
取り札の意匠は、辞書のページ風だ=筆者撮影
取り札の意匠は、辞書のページ風だ=筆者撮影

一方で読み札に書かれている語釈は、それぞれ次の通りです(ルビはママ)。

・ろっく【六垢】=煩悩(ぼんのう)から生じた、けがれたもの。悩(のう)・害(がい)・恨(こん)・諂(てん)・誑(きょう)・憍(きょう)。

・ぺいぺい=地位の低い者、技量(ぎりょう)の劣(おと)っている者をあざけっていう語。

・すえづよ【末強】=射(い)る矢などが、飛んだ先まで勢(いきお)いの衰(おとろ)えないこと。
読み札を見ると、広辞苑の語釈が並んでいる=筆者撮影
読み札を見ると、広辞苑の語釈が並んでいる=筆者撮影

「初見だとチンプンカンプンな内容なのに、めちゃくちゃ欲しい」「いつ使うか全く分からん言葉ばかりだけど、なぜか病みつきになる」。SNS上で関連画像が拡散されると、賞賛の声が相次ぎました。

テレビ番組がヒントに

風変わりなかるたは、どういった経緯で生まれたのでしょうか。ForGamesの共同代表で、商品コンセプトを考案した郡山喜彦さん(38)と、ゲーム中の用語校正などを行う役割「デベロップ」担当の岡野翔太さん(32)を取材しました。

元々、国語講師として学習塾に勤めていた郡山さん。本業と並行し、趣味のボードゲームを私費で創作してきました。ひらがなが書かれたピースで3文字の語句をつくる「大怪獣コトバモドス」を始め、言葉への興味に基づく作品も手がけています。

そして約2年前、ボードゲームメーカーで海外作品の翻訳業務に携わっていた岡野さんと、ForGamesを設立。郡山さんは自社商品として、日本語の語彙(ごい)にまつわるタイトルを生み出したいと考えました。

「今まで言葉に関する様々な遊びを経験しました。その一つに国語辞書で引いた語句の意味を当てるというものがあります。音の響きから即興で語釈を編み出したりとエキサイティングな内容で、いつかボードゲームにしたいと思っていたんです」
かるたの箱は、縦横の比率などが実物の広辞苑に似ている=ForGames提供
かるたの箱は、縦横の比率などが実物の広辞苑に似ている=ForGames提供

企画化にあたり、郡山さんが経験したものと同じ趣旨の遊びを、出演者が広辞苑で行う、平成初期の人気テレビ番組を参照しました。更に老若男女が楽しめるよう、語釈の内容が確定している、かるたの形式をとることにしたのです。

郡山さんによると、昨年11月に製作に着手し、半年ほどかけて完成させました。

推測できて、簡単すぎない

ところで、25万語もの候補から、どのように50語を選び出したのでしょうか。郡山さんいわく、事前に担当する行を決め、岡野さんと手分けして作業したそうです。

「読み札に書かれた文章から、元の語句がある程度推測できるかどうかを基準に据えました。かといって、簡単すぎてもいけません。二人で密に話し合いながら表にまとめていき、2週間ほどかけて徐々に絞りました」

「泣く泣く採用を見送らざるを得ない言葉も多かった」と振り返るのは岡野さんです。その一つ、「才太郎畑(さいたらばたけ)」に関するエピソードを紹介してくれました。広辞苑の語釈は、こんな具合です。

小才(こさい)が利いて、いらぬ世話を焼くこと。

「響きに強く惹(ひ)かれたものの、『ちょっとした機転』を意味する『小才』が分かりづらいかもしれない、と不安を抱きました。散々迷った末に、かるたへの掲載を控えたんです。でも諦めきれず、説明書にサンプルとして載せました(笑)」

ForGamesの公式サイト上にも、「才太郎畑」の語釈が入った読み札の画像が掲載されている=ForGames提供
ForGamesの公式サイト上にも、「才太郎畑」の語釈が入った読み札の画像が掲載されている=ForGames提供

そのほか「直」を三つ組み合わせた漢字を左右に二つ並べた「矗矗(ちくちく=まっすぐ伸びるさま・そびえ立つさま)」など、字面からイメージが膨らむような言葉も少なくありません。想像する楽しさも、ゲームの魅力であると言えそうです。

岩波書店も太鼓判

個性豊かな単語があふれるかるたですが、プレイヤーの反応は上々のようです。

今年5月、アナログゲームの展示即売会「ゲームマーケット」で初披露すると、たくさんの来場者が訪れました。難解な語句の数々に目を丸くしつつも、笑顔で遊ぶ一人ひとりの姿が印象的だったと、郡山さんは話します。

「言葉の意味は分からなくても、手元にある知識を総動員し、自分なりに思考しながらゲームを進めていく。そうやって、『分かる』と『分からない』の間にある微妙なラインを攻めていくという仕立てが、知的好奇心を刺激したのかもしれません」

ちなみに広辞苑の版元・岩波書店も、商品の品質に太鼓判を押しています。かるたに載せる語釈のルビを校正するといった形で、監修に協力しました。

また広辞苑の公式ツイッターアカウントが、かるたへの好意的な感想をつぶやくなど、関係性は良好です。同社辞典編集部の担当者は「辞典の面白さを身近に感じてもらえそうな、楽しいゲームを作っていただきありがたい」と感謝します。

かるたは2023年6月上旬現在、全国の家電量販店や、街のおもちゃ屋などに流通しています。今後、書店にまで販路を広げていく方向で調整中です。商品に興味を持っている人々に対して、郡山さんは次のように語りました。

「『広辞苑かるたって頭が良い人が買うんでしょ?』とよく言われます。そうではなく、プレイヤー全員が知恵を絞り、一緒に面白がれる内容です。みんなで集まってゲームすることの楽しさに、触れていただくきっかけになればうれしいですね」

   ◇

広辞苑かるたの価格は、一つ1650円(税込)。ForGames公式サイトのほか、Amazonでも購入可能です。

【関連リンク1】広辞苑かるた・ForGames公式サイト

【関連リンク2】広辞苑かるた・Amazonの販売ページ

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